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Lola AmourのシングルRaining In Manilaとシティポップ

ポップバンドLola Amourが今年(2023年)6月にリリースしたシングルRaining In Manilaが最近のお気に入りで毎日数回は聴く個人的power playとなっているんだけど、今回興味深いインタビュー動画がYoutubeにアップされたので、ちょっと記事にしてみた。

ボーカルのPio Dumayasが曲の成り立ちと歌詞の内容について語っているので是非一度みて欲しい。音楽的な部分だけでなく、フィリピンの若者の考えやパースペクティブがよくわかる。

 動画の中でPioは、シングルRaining In Manilaは山下達郎のSparkleを筆頭に80年代前後の日本のシティポップに強く影響を受けたと言っているが、それは音楽的な部分と共に、シティポップ華やかなりし頃の70年代中盤〜80年代後半の日本の状況も含めてのことのようだ。どちらかといえば、当時の日本の世相と若者の悲哀をシティポップから感じ取り、自分たちの曲に反映させているように思う。

「日本は経済成長(エコノミックブーム)の只中にあり、多くの若者が都会を目指した。その中で田舎に残された人のロンリネス・・・」
Lola Amourはフィリピンの名門私学デ・ラ・サールの附属高校の生徒が結成していた二つのバンドが卒業後にくっついて出来上がった。デ・ラ・サールと言えば、(ステレオタイプな表現しかできなくて申し訳ないけど)お金持ちのご子息、ご息女が通ういわゆる「おぼっちゃん学校」。生徒のほとんどは生まれながらの「シティボーイ・シティガール」なのだ。だから、ソフィスティケイテッドされた都会の雰囲気に憧れ、就職にも有利ということで都会を目指した日本の(地方の)若者とは全く同じではないけれど、フィリピンは経済発展途上国と呼ばれるように総じて貧しい国、フィリピン国内では裕福とされるデ・ラ・サールに通う生徒の家庭といえどもみんながみんな経済先進国並みの暮らしをしているわけではない。フィリピン国内での日常だけを見ると確かに日本の富裕層並みの暮らしをしているように思えるが、国際線航空券やスマホ・タブレットなどのガジェット、PCなど国際基準でどの国も大体横並びの価格体系の物も消費生活の中に入れて考えるとやはりまだまだフィリピンはそんなに裕福な国ではない。そのため動画の中でPioが言っているようにデ・ラ・サールの同級生も何人かはbetter lifeを求めて海外へ出ていく。
だからこそ彼らは好景気に湧く日本の都市生活を謳歌するシティポップの中に、自分たちの現在をも表象するような明るく屈託のないアップビートな音楽面だけでなくその裏側にあるものも自分たちに重ね合わせることができたのではないか。

例えば木綿のハンカチーフ、太田裕美の75年のヒット曲で歌詞は松本隆。これはシティポップとして認識されているのかどうかわからないけれど、この曲も都会へ出ていくものと田舎に残るものの悲哀を描いた名曲だ。
恋人のことを思う歌詞と友達を思う歌詞、単純に比較はできないけれど、いつまでも一緒にいた頃と変わらないでいて欲しいとひたすら願う木綿…に対し、Raining…は君がうまくやっているのならそれでいい…という内容だ。友人が「都会の絵の具に染まってしまって」帰ってこない寂しさすら喜びと思おうとするなんとも切ないフィリピン人の若者の心の内側を表しているようだ。


Raining In Manilaはあくまでもアーバンポップスで、都会っ子の音楽だけど、マニラから海外で出ていく様子はフィリピンの田舎からチャンスを求めてマニラやセブにやってくる人たちの気持ちにも共通していると思う。
我々はつい、豊かに暮らす都市生活者と、地方の貧しい人たちとを経済面を軸に対比させて考えがちだ。確かに、経済を一定の枠内(地域や国)でのゼロサムゲームと考えるならば、貧しい人がいるのは豊かな人に偏って富が流れているから、ということは言えると思う(それは日本とフィリピンの格差にも同じことが言えるように思う)。
けれども、それだけで文化面まで格差・分断があるという判断はできないと思う。
この曲がリリースされてから約二ヶ月弱、youtubeで1500万アクセス、Spotifyで2300万アクセスだ。
とても都会のリスナーだけで作れる数字じゃあないと思う。
試しにフィリピンの若者にこの曲について尋ねてみた。
マニラ在住のティーンエージャー(ハイスクール、カレッジの学生)とビサヤ地方在住の20代前半の若者。
この曲のイメージはやっぱり住む場所に関わらず皆この曲が好きなようで、理由を聞いてみると「自分たちの気持ちを表してるから」という回答がほとんどだった。
ちなみに「シティポップ」という日本の音楽が話題になっているということは、誰も知らなかった(笑・汗)。

最近は世界的なシティポップブームということで、カッコいいカバーも多いし、オリジナル曲にもシティポップ直系とも言えそうな素敵な楽曲があるようだ。
けれども、Lola Amourのようにシティポップが流行していた当時の日本の社会背景まで思いを巡らせながら作品作りに反映させた楽曲はあんまり多くはないのではないか。
こういうのを「ちゃんと音楽を聴いている」と言うべきなのかもしれない。

最新のフィリピンポップス、その中でもいい曲ばかりを集めたSpotifyのプレイリスト Contemporary OPM。
もちろんLola AmourのRaining In Manilaも収録!


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