見出し画像

フィリピン音楽と僕 12 - シーンを牽引するThe Voice Kids Philippines出身のキッズたち

American Idol、X-Factorなど世界中でフランチャイズ開催されているタレント発掘番組(企画)、オランダ発祥のThe Voiceもフィリピン版が行われている。2014年からはキッズ版のThe Voice Kids Philippinesもスタートした。
フィリピンのVoice Kidsは2017年のシーズン4まで開催されたが(その後はThe Voice Teensに移行)そこに出場した子供たちが今のフィリピンのミュージックシーンを牽引している。特にシーズン1と2の2年間はまさに当たり年だった。そんなキッズたちの当時と今を紹介。
(動画はThe Voice出場当時のものと現在のものの順で貼付しています)

シーズン1ウイナー:貧しい漁村出身のLyca Gairanod (ライカ・ガイラノッド)

シーズン1のウイナー (グランドチャンピオン)になったのは当時9歳だったLyca Gairanod。
マニラ首都圏の南に隣接するCavite(カヴィテ)の漁村で生まれたライカは地元ののど自慢大会の人気者だった。フィリピンでは地元の小さなのど自慢大会でも優勝(入賞)すると現金がもらえるところが少なくない。子供といえど歌自慢なら実質的に一家の稼ぎ手となるケースも(「フィリピン流児童労働」の実態については、幼少期にのど自慢の賞金稼ぎとして家族を実質的に養っていたジェイク・ザイラスの自伝「歌姫の仮面を脱いだ僕」に詳しい)。貧しい漁村の一家に生まれたライカの場合もまさにそんな感じだった。人気ポップロックバンドAegis (エイジス)のヒット曲を歌って注目を集めた彼女、The Voice Kidsで得た賞金などで家族に新築の家を建てたりしたが、17歳(11月生まれなので今月18歳)になったライカは歌も見た目も大人になった。
動画は2014年、The Voice Kids出演時と2020年にドバイ万博にゲスト出演した時の模様


シーズン1ファイナリスト:カナダ在住のフィリピン人Darren Espanto (ダレン・エスパント)

カナダはカルガリー生まれのDarrenは両親ともにフィリピン人。フィリピン北部の街イザベラから看護師としてカナダに移住した父母からフィリピン語と歌を教わったDarren。カナダでもインディーズレーベルからCDリリースしていたが、本格的なデビューはフィリピンでThe Voice Kidsに出場してから。当時13歳にしてすでに完成度の高いボーカルスキルを身につけていた。動画は2014年The Voice Kids出演時と、2019年人気FM局Wish107.5にフィリピンNo.1女性シンガーMorissette Amonと共演した時のもの


シーズン1ファイナリスト:いじめを克服した反骨キッズJuan Karlos Labajo(フアン・カルロス・ラバーホ)

セブ島生まれ、ドイツ系フィリピン人のJuan Karlosは見た目から学校でいじめられることがあったらしいが、デビュー後は逆にその見た目で多くのファンを獲得した。また、その「白人のような」見た目から裕福な家庭と思われることもあったようだが彼の家も極貧で彼自身もガラクタを拾っては売り歩く日々だったと告白している。The Voice Kidsの予選を勝ち残りマニラでの収録に向かう時も旅費を工面できず地元の市長に金を無心したエピソードもある。
歌だけでなく作詞作曲でも才能を開花させたJuan Karlosは2018年にBuwanというビッグヒットを放つ。当時フィリピンに滞在すればモールやレストランのBGMで、またFMやテレビで、この曲を聞かない日は1日もないほどの爆発的人気となった。下に貼付したBuwanの動画はオフィシャルMV、この曲はバンド名義となっており(バンド名も本人の実名と同じJuan Karlos band)、ギターを弾いているのはフレディ・アギラのバンドに70年代から在籍していたAbelardo Hipolitoだ。渋い味わいのプレイを聞かせてくれている。


シーズン2ウイナー:マライアキャリーのヒット曲で度肝を抜いた9歳Elha Nympha (エラ・ニンファ)

2015年シーズン2のウイナーElhaはケソンシティ生まれのマニラっ子。彼女の家も貧しく路上で揚げバナナ売りなどをして家計を支えていた。パワフルなボーカルで注目を浴びたElhaは現在ABS-CBNの人気番組ASAPの看板シンガーとして活躍している。貼付動画は2015年にFMの生放送に出演した時の模様と、今月1日にアップされたばかりの最新のスタジオライブ。


シーズン2ファイナリスト:若きブラックコンテンポラリー系歌姫Sassa Dagdag (サーサ・ダグダグ)

シーズン2のファイナリストSassaはオーディション番組出演当初から完成された域に達していたボーカルが魅力だった。ミュージシャン一家に生まれたことも一因か?フィリピンで人気のブラックコンテンポラリー系サウンドのシングルを何曲もリリースしている。
フィリピンで言うとMoira De La Torreのような、R&Bで言うとどこかMary J Bligeのような、個性的な声が魅力。
デビュー当時の動画(ビヨンセのカバー)はリアクションビデオで。もう一つのMVは2019年作でタガログ語の歌詞がついたブラックコンテンポラリーナンバー。



番外編:ファイナリスト圏外からトップアーティストに。Zack Tabudlo (ザック・タブドゥロ)

The Voice Kids Philippinesのシーズン1と2から五人のファイナリストをピックアップしたけれど、番外編?としてどうしても紹介しておきたいのがこの人Zack Tabudlo。
彼はシーズン1に出場して、ジャッジの関心も高かったけれどファイナリストには残れなかった一人。番組終了後は同期の出場者で組んだボーカルグループ「Gravity」でアルバムもリリースしていた。しかしGravityは程なくして活動停止状態、メンバーとデュオを組んだりしてシングルを出しながらもあまり話題になっていなかったところが、2020年のビッグヒットBinibiniでいきなりシーンのど真ん中に躍り出た。
歌もうまい、楽器も堪能、おまけに幅広い音楽性を基礎にした作曲能力も非常に高い、3拍子揃った逸材。パフォーマー・コンポーザーの両面でフィリピンのショービズシーンを牽引するに足る才能の持ち主だ。
シングルBinibiniは若手人気女優Andrea Brillantesを起用したMVも大人気で、前出Juan KarlosのBuwanとともにフィリピンでは知らぬ者のいない超ビッグヒットとなった。

貼付動画上はThe Voice Kids後にオーディション参加メンバーと組んだバンドGravityのスタジオアルバムから。
貼付動画下は昨年(2021年)にリリースされモンスターヒットとなったシングルBinibiniのオフィシャルMV


デジタル化によるプロモーションの劇的な変化、先の見えないコロナ収束。。。
ミュージシャンにとっても不安な日々が続くけれど、才能のある若手が続々と登場しているフィリピンはうまく乗り切れるんじゃないかな・・・多分。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?