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「髪型どうしますか?」 全体的に好いてください

私の醜いところも、愚かなところも、全体的に好いてください。

川森順子といいます。今年で38歳になります。
神田の、小さな図書館で司書をしております。
青春の多くを図書館で過ごしてきましたから、愛着があるのです。
そういうわけで、お察しかと思いますが学生時代の恋愛経験はなく、気付けば交際と結婚がイコールとなるような年齢になってしまいました。
さすがにさすがにと思い、一念発起、マッチングアプリというものを先日インストールいたしまして、ふふ。

あれはすごいものですねぇ。40歳の、ちょっと歳上のお方だったんですが、お互い都内在住と分かりましたら、すぐにじゃあ会いましょうという話になりまして。学生みたいに待ち合わせをして、そうしていらっしゃった方はね、ふふふ、歯がところどころ抜けてまして、吹き出物もたくさん。ああだからプロフィール写真があんなに遠くから、とバレないように笑いました。

でもいいんです。もはや男の人にあれこれ条件なんて求めません。私がほしいのは、私の隅から隅までをぜんぶ愛してくれるという確証だけ。そもそもそういうものでしょう、恋愛って。

電気街のよくわからないお店に入って、よくわからないカードを買って、よくわからないバラ売りのパソコンを見て、そうして夜になって、お酒を買って、シナチクみたいな色をした彼のアパートにおじゃましました。度数の強いものばかりだったのでちびちび飲んでいましたら、彼の手が触れる回数が増えてって、矢庭に脇腹を掴まれました。私だって乙女じゃないんですから、どういうことになるのか分かってはいたんですけども、近くで見た彼の吹き出物からプチッと膿が出てきて、それがどうにも、申し訳ないんですけども、きもち悪くて。
本棚に置いてた金魚鉢に、嘔吐してしまったんです。
大きな金魚がビチチッと跳ねて、動かなくなって、作り物みたいに浮いてきたときに、私彼に蹴り飛ばされてしまいました。
殺す、出てけ、って。

ヒールが折れちゃって、裸足で帰りました。
それで、お家のトイレに座ったとき思ったんです。ハズレだったなあって。
私の反吐で金魚が死んでも、私のこと抱いてくれなきゃあ、仕様がないじゃないって。抱いてくれたら、愛してくれたら、私だってあなたのにきびを我慢しますよ、愛しますよ、って、そういう話なのに。時間とお金、無駄にしたなあ。

だから、だからね、私、効率化を図ったんです。
次に会った方、丸の内の元商社マン。この『元』ってのは会ったとき知ったんですけどね、ふふ。

野糞をしたんです。丸の内、オフィス街で。
それで言ったんです。愛しています。結婚して。

通報されましたね。ゲロを吐いていました。
嗚呼、恋って愛って難しいなあ。
そう思いながら、も〜全力疾走!
もう限界ってときに周りを見ましたらお洒落な美容室があったので入ってみたんです。
いい雰囲気ですねぇ、ここ。

あ、それで本題に戻るんですけども。
全体的に好いてください。
白髪もゲロもほうれい線も、シミもシワもあばたもえくぼも。糞の味まで愛してください。罪の数だけ抱いてください。

私に、絶対不変の本当の愛をください。

全体的に好いてください。

だめですか?
じゃあ、ソフトモヒカンで。


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