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架空の友達との会話〜ゴボズ〜

「あれ、なにお前勉強してんの」
してたんだけどさ、さっき思いっきりコーヒーこぼして全部いやになっちゃった
「うーわ。こぼすって段階じゃないくらいこぼしてるなこれ。『ゴボズ』と言ってもいい」
はは、こぼすの上位互換だ
「どうすんのこれ」
目瞑って河川敷に投げ捨てる
「ダメだって!!」
自分が目瞑ってたら他の人からも見えてない気がするから
「まだ赤ちゃんの感受性持ち合わせてるんだなお前。お目目ないないしてもやってることはゴボズの不法投棄だからな」
すっごいヤバいの捨ててる感じする
「ゴボズの半減期、96年」
ヤバい!!!!!
「内臓ひっくり返った深海魚が浮いてくる」
ゴジラ来る!!!河川敷なのに!!!
「ダハハハハ!!!!!!!!!!!!!!」
ギャハハハハハハ!!!!!!!!!!!!
「ウワハハハハ!!!!!!!!!!!!!」
ヒーーーーー!!!!!!!!!!!!!!
「ホヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!」
ンニイイイイイイーー!!!!!!!!!!
「はぁーあ……ははっ。なあ、お前ってさ、」
待って。ふふっ……一緒に、一緒に言お
「いいぜ、せーの……!」

「「最高の友達」」

はは、揃った。ね、俺さ。お前に会えて幸せ。
「ん、俺も……」
…………………………………
「…………………………………」

ちゅ…チュッ…ジュルッ…ヂュぅ…れろ、レレ…んっ…
「んちゅ、れ、れろ…グチュ…チュッちゅうっ…んれ…」
ちゅっ…「はぁっ…」ふぇろ…「ぢゅうっ」んあ…
「チュウウ…ッ」っふあぁ…「れろ…」ヂキュ「ぁ」
ねえっ……触ってッ、俺の存在意義ッ、触って確かめさせて…ッ
「ああ…フォロワー多い」
あああッ……
「なんかセンスある」
ああッ……!
「早死にしそう」
んああッ
「つかみどころがない」
あああッッ!!
「煙みたいなお人。変人。無責任が服を着て歩いてる。京都大学にいそう。目を離したらどこかに消えてしまいそう。ぼそっと喋るその一言がユーモラスかつ的を射ている。森見登美彦のキャラみたい。本人が気づいてないだけでモテてそう。」

うわあアアアアアアアアアアっっっ!!!!!!


「……」
はぁ……はぁっ……
「……」
……?ねえ、ぎゅてして
「ん……」
んっ……ねえ、そこにいるよね……?⬛︎⬛︎⬛︎?
「はいな」
あはは……コムギかよ
……お前ってさ、変なこと聞くけどさ、俺の妄想じゃないよな。そこに、いるよな?なあ、⬛︎⬛︎⬛︎?

「……」

なあ、「……」おれ、俺一人じゃないんだよな…?
「……」なあって「……」答えて「……」おい「……」死ねよ「……」ちがう、うそ「……」大好き「……」ねえ、⬛︎⬛︎⬛︎「……」⬛︎⬛︎⬛︎って、おい「……」あれ……⬛︎⬛︎⬛︎ってさ、

名前なんだっけ



喫茶店の若い店員に揺すられて俺は目を覚ました。どうやら寝入っていたらしい。
「あの、もう閉店時間なので」
ああすみませんすぐ出て行きます。帰り支度をしようと広げっぱなしの参考書に目をやると、コーヒーでじとじとになった頁が茶色く波打っていた。
「ああ、床は拭いておくので」
心底から軽蔑するような視線に思わず目を伏せる。すみません掃除代払うので。そう言って床に視線を移すと床に広がっていたのはコーヒーではなく尿だった。俺は失禁していた。
尿やん。という言葉が口をついて出た。
「左様でゴス」
左様でゴス!?
俺は思わず店員を見上げると、彼自身も信じられないといった顔で口元を押さえている。
「すみません、失禁に気づいた客の一言目が
『尿やん』だとは思わず、敬語がバグってしまいました」
いえいえ、お気になさらず。俺も尿やんと言ってしまうとは思いませんでしたよ。
閉店間際、2人きりの店内に穏やかな空気が流れ始めた。
「いやあ、しかし『左様でゴス』って『左様です』の最終進化系っぽさありますね」
うーん、どっちかというと中間進化っぽくないですか?
「あっ確かに、です・ゴスときて……」
次は……
「ゴズだ」
そうそう!それで最終進化は……

「「ゴボズ」」

店内に2人の笑い声とアンモニア臭が充満した。
ひとしきり笑い合ったあと、俺は目尻の涙を拭い4万円を支払った。
「また来てくださいよ」
店員の声を背に受け、片手を挙げて店を出る。この街にこれほど波長の合う青年がいるとは。彼とはもしかしたら、親友になれるのかもしれない。
乾き切った俺の人生が一息に潤っていくようで、思わず少しスキップしてしまった。

次は名前を聞いてみよう。俺は思った。

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