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映画「月」感想 ー地域生活を支えようとしてる立場から

試みとしてこれまでと全然違うことを書きます。引かないでもらえるとありがたいです。

もう映画館ではほとんどやっていないですが、「月」という映画について書きたいです。ネタバレありです。

この映画は辺見庸さんの『月』が原作になっています。題材は、2016年7月の「津久井やまゆり園事件(相模原障害者施設殺傷事件などとも言われる)」です。「生産性のない障害者はいらない」という動機によって、障害者施設で暮らす19名が殺され、26名が傷を負いました。

リアルだ / フィクションだと感じた部分

私は、実際に障害者施設に行ったことはありませんが、一般的な人よりは、この事件について本を読んできていて、考えていると思います。※

磯村勇人さん演じる「さとくん」(=犯人、植松聖)の人物像や犯行に至る心境の変化、事件そのものの様子は現実に即した描かれ方をしているように見えました。宮沢りえさん演じる、主人公の施設職員のバックグラウンドについてはフィクション(が多い)かな思います。

映画の中で描かれていた施設は、山奥で虫がいるホーンテッドマンションみたいなところでした。自分の目で見たことはないですが、ルポとかを読む限り、実際の津久井やまゆり園は、市街地にあるわけではないですが、あんなに暗くて汚いところではなかったはずです。あの、さも何か事件が起きそうな環境についてはフィクションです。

障害者はどこにいる?

とはいえこの映画で、そしてこの事件で、障害者施設は大きなポイントになっていると思います。そもそも施設でまとまって生活していたから、障害者の大量殺人が可能だったわけですし。

施設という閉鎖的な環境が、障害者の自由を奪いやすくなったり、虐待をうみやすくなったりすることが、障害当事者らから指摘されてきました。

事件に対しては、犯人の「ヤバさ」だけが問題視されることもありましたが、映画では事件の現場が施設であったことが重視されていた感じがして、良かったのではないかと思っています。(私の力不足で詳しく書けません)

私は、障害のある人が、施設ではなくて地域の中で生きていくことを可能にしたいという思いから、訪問介護・居宅介護の仕事を選びました。1人暮らしあるいは家族と生活している、介助が必要な人の家に行って、その人に必要な介助をします。

(施設は駄目だと言うだけでは足りないと感じてもいます。地域で生活できてはいるけれどヘルパー以外との人との関りがなくてこれでいいのかなと思うこともあるし、親離れ=施設入所にならざるを得ない人もいます。)

そんな私が気になったシーンについて書きます。

気になったシーン➀差別の芽と殺しの差

「さとくん」は殺人事件を起こす直前、制止しようとする主人公に
「じゃああなたは、臭いと思ったことはないか?めんどくさい、気持ち悪いと思ったことはないか?」などと畳みかけます。
あなたもこちら側でしょ、みんな思ってるでしょ、と。

これは卑怯だと思います。臭いと思うことと、死んだ方が良いと思うことや殺してしまうことの間には、大きな溝があるはずです。

気になったシーン➁人間の線引き

ほぼ上と同じシーンで、主人公が「さとくん」に「人を傷つけてはいけない、殺してはいけない」みたいなことを言います。すると彼は「意思疎通ができないから人じゃないから殺して構わない」というようなことを言います。(セリフはうろ覚えです)

でも、人として在ることができるかって、周囲の人次第の部分も大きいと思うのです。介助する人が、物みたいに扱ったら、人じゃないみたいになります。

トイレがうまくいかなくて汚れてしまって、自分で清潔にすることができない人を前に、今この人の尊厳を守れるのって私しかいないんだと感じることがあるのです。

最後に


見る人によっては加害者に共感してしまったり、気持ち悪いと思って終わりだったりするのかもしれないけれど、私としては色々考えさせらる良い映画でした。磯村勇人さんがすごかったです。

映画を見た後で原作を読み始めました。まだ途中ですが、最初から「原作でこう書かれていたことを映画ではこうやって表現してたのか!すごい!」となりました。

※相模原事件に関しておすすめしたい本(大真面目)
藤井渉『ソーシャルワーカーのための反『優生学講座』』、現代書館、2022年 http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-3590-8.htm

千葉紀和、上東麻子『ルポ「命の選別」』、文藝春秋、2020年
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913049

立岩真也、杉田俊介『相模原障害者殺傷事件-優生思想とヘイトクライム-』、青土社、2017年
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3001

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