見出し画像

目には映らない美しい世界を、レーダー越しに"観"る【In other waters】

1980年初頭、ある傑作がこの世に誕生した。
ゲームタイトルがジャンルの一つともなった名作「Rogue」である。
現在発売されている「ローグ」ライクゲームは、全てこの「Rogue」に大きく影響を受けている。
しかし、現在のゲームと比べると、画面が少し……あっさりとしている。
文字・線・点のみで表現されているので当然だ。
しかし、当時のゲーマー達はこの少ない情報を己の中で増幅させ、戦っているプレイヤーキャラや凶悪なドラゴンを想像し、ゲームプレイで生まれたドラマに思いをはせたのである。

画像1

Rogueのプレイ画面。
かなり情報量が少ないが、当時のプレイヤー達はここにドラマを見出した。

ローグの発売から40年経った現在において、ゲームのグラフィックは必要不可欠なものとなった。
それが美しくとも、あえて古めかしい物だったとしても、必要なことには大差ない。
しかし、「Rogue」レベルとまでは行かないが、あえて画面に表示する情報を簡素にすることによって、プレイヤーの想像力に語り掛ける作品も存在する。
その作品の一つである「In other waters」を紹介しよう。

作品のあらすじ

画像2

In other watersのあらすじを簡単に説明しよう。
ゲームを開始すると、プレイヤーはヴァス博士のサポートAIとして目覚めることとなる。
ヴァス博士はある知り合いの信号を辿り、Gliese677Ccという惑星の海に降り立ったという。
そして、偶然着た服に取り付けられていたAIが主人公だったというわけだ。
ヴァス博士とプレイヤーは、協力しながらGliese677Ccの海を探索し、その信号を追いかけることとなる…というのが、ざっくりとしたストーリーだ。
(余談だが、Gliese677Ccという惑星は実在するらしい。地球から22光年離れたさそり座の当たりに位置しており、水と生命体が存在している可能性が高いと言われている。)

簡素な画面で何を"観"る?

画像6

この黄色い点は「全て」生命体である。群体類と呼ばれる生態系らしい。

では次に、このゲームの大きな特徴を説明しよう。
先述した通り、このゲームはプレイヤーが「AI」となってヴァス博士を導くのが目的である。
そのためAIとなった私達プレイヤーには、レーダー越しに見た世界しか確認することができない。すなわち、点と地形図だけで構成された画面だ。
そのため、ゲームのプレイ画面は非常にシンプルなものとなり、ゲーム中はその画面を見続けることとなる。

画像4

場所によって色調が変わるのも面白い。
ゲームがマンネリ化しないように、常に変化を与えてくれる。

ではプレイは退屈か?と言われると、そんなことは無い。
むしろ、グラフィックが作りこまれたゲームに匹敵するほどの世界を”観”せてくれるのだ。その理由を説明しよう。

我々が世界を認識するのに必要なものは何か?「情報」である。
人間には視力が備わっており、外界からの情報の約80%は目から得ているともいわれている。
ではゲーム中において、点と地形図のみの画面で我々はどうやって情報を得ればよいのだろうか?
プレイヤーと同じ人間である、ヴァス博士の文章を読むのだ。
ヴァス博士は学者であり、海洋学に長けている。その彼女が、海中の様子を各ポイントごとに詳しく解説してくれているのだ。
その文章を読めば、そこがどんな風景で、どんな様子なのかが自らの目で確認したかのように想像できる。
海洋生物にも同じことが言える。レーダーに映った海洋生物を一定回数調べることで、ヴァス博士がその生物に名前を付け、調査レポートを書き上げてくれる。また、その生物から採取できるサンプルを分析すれば、さらに詳しい生態系もレポートに追記される。レポートを最終段階まで完成させれば、手書きのスケッチも見ることができる。

画像5


これらの情報を理解したのちにレーダーに映った点を見ると、生物ごとに特徴的な動きをしていることが確認できるだろう。
レーダーに映った点群は決して「ただの点」ではなくれっきとした「生命体」であり、生きるために自らの習性を行っていることが、特徴的な動きをする点とその生命体に対する知識によって理解できるのだ。
更に没入感を高めるために、このゲームはある部分に非常に力を入れている。

画像6

3000mを超える深海では、光も音も届かない。

それは、「環境音」だ。
ゲーム中にずっと聞こえ続けている環境音は、非常にリアリティのある音になっており、水中のくぐもった泡の音や激しく流れる水の音、深海ではうって変わってほどんど無音となる。
つまりこのゲームは、音により自分が今どのような場所にいるのかを常に意識させるような作りとなっており、より大きな没入感を生み出している。

まとめ

画像7

Rogueのように画面の情報を簡素化し、プレイヤーに世界を想像させる。
最近では使われなくなった手法であり、人を選ぶスタイルだろう。
しかし、このゲームはそのスタイルを、現代風にアレンジさせた。

見ているだけで楽しいUI
調査により分かっていく世界の輪郭。
リアリティのある環境音

つまり「情報」「音」である。

この二つの要素によって、このゲームの画面はレーダーに映った単なる「点と地形図」から、非常に豊かな情景を映し出す「窓」となった。

世界を探索し、情報を得れば得るほどに、レーダーという小さな窓はこの世界は美しく映し出すことだろう。

貴方も情報の目を頼りに、
Gliese677Ccの海に飛び込んでみてはいかがだろうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?