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一生分の思い出を、一瞬のまばたきで。【Before Your Eyes】

『まばたき』
それは我々が生活の上でほとんど無意識に行っている、生きていく上で必要不可欠な行為だ。
そして、先日発売されたゲームである「Before Your Eyes」は、そのまばたきに焦点を当てたゲームシステムを有している。このシステムによってコントローラーやキーボードを通して「ゲームを操作」するのではなく、自らが「ゲームに入り込む」ような体験を得られるのだ。
そして、演出やストーリーもまばたきを利用する特殊なゲームシステムに飲み込まれることなく、お互いに調和し合い、全体を通して面白い作品となっていた。
今回のnoteでは、まばたきという行為をシステムに組み込んだ意欲作「Before Your Eyes」について書いていこう。

「主人公」と「私」を隔てているもの

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今現在、発売されているゲームはほとんどが「操作」するものになっている。
ここで言う操作とは、コントローラーやキーボード、マウスやタッチ操作などのことだ。(Wiiやswitch、VR機器なども体感型に近いものではあるが、基本的にはトラッキングの機械やコントローラーなどを使用しなければならない。)
そして、その操作にはメリットとデメリットが存在する。
メリットとしては、非常に複雑な動きを手元の操作だけで行えるということだ。
歩く、座る、隠れる、攻撃する、本を読む、ご飯を食べる、世界を救う…などなど、非常に多彩な動きを私達の手元から生み出すことができる。
これはゲームというコンテンツの大きな特徴だと言える。
私達は家の椅子に座りながらあらゆる世界を旅することができるのだ。
ではデメリットとは何か?
それは、私達と主人公の間に、どうしても超えられない隔たりが存在してしまうことだ。
隔たりとは、コントローラーやマウスやキーボードに代表される、いわゆる「操作デバイス」だ。
操作デバイスを一度挟むことにより、私達はゲームの世界に干渉することができる。しかし、「操作デバイス」というぶ厚い壁を1枚挟むことにより、ゲームの世界への没入感が多少なりとも削がれてしまうことも確かだ。

私 ⇔ 操作デバイス ⇔ ゲームの世界

この形は、ビデオゲームがこの世に生まれてから、変わることのない形式だった。
しかし、「Before Your Eyes」はこの形式を否定する。

私 ⇔ ゲームの世界

という直感的な操作を主軸にゲームを開発した。
自分の肉体からゲームを直接操作できるようなシステムを採用し、これによって私とゲームの世界を隔たる壁は崩壊した。
ついに、私と主人公は同一の存在になれたのだ。

まばたきを最大限まで生かしたシステム

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先に書いたように、まばたきとは我々が生きていく上でほぼ無意識に行っており、生まれてから死ぬまでとどまることなく続いていく行為だ。
つまり、日常生活に非常に強く結びついている行為だと言えるだろう。
では、そのまばたきをこのゲームはどのようにシステムに組み込んだか?
「走馬灯」である。
目を閉じるごとに場面が切り替わり、時間が飛ぶように過ぎ去っていく。
一度のまばたきで過ぎ去る時間はどれぐらいなのかは分からない。
5秒後か、5分後か、5日後か、5か月後か…はたまた5年後になるのか。
この不確定な時間の流れという題材がゲーム体験に上手く作用している。
走馬灯、つまり主人公の人生の特徴的だったシーンを私たちはまばたきをすることによって観ていくこととなる。
楽しかった出来事、悲しかった出来事、失敗した出来事…様々な場面を分け隔てなく観ることになるだろう。
できることならば、楽しい出来事のシーンにずっと留まっていたいと思うこともある。しかし、それは許されない。
我々の目は、まばたきをしないと乾いてしまうのだ。
我慢してそのシーンにとどまろうとしても、目の乾きに耐えられなくなり、最後にはまばたきをしてしまう。
つまりそれは、楽しかった記憶との別れを意味するのだ。
そして、走馬灯は無慈悲にも次のシーンへと私達を誘うことになるだろう。

システムを最大限に生かした演出とストーリー

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システムだけが取り上げられがちな本作だが、ストーリーと演出もかなり良くできている。
まずはストーリーについて、さわりの部分だけ説明しよう。

主人公は、この世とあの世の中間にある世界で目を覚ます。
どうやら現世で死んでしまい、魂だけの存在となっていたところろフェリーマンという狼人間に拾われたらしい。
フェリーマン曰く、「あの世に行くためには現世での行いを話し、審判者に気に入られる必要がある」とのこと。
それを聞いた主人公はフェリーマンの案内のもと、自分の人生の走馬灯を「まばたき」によって見ていくことになる──────

以上が、このゲームにおける冒頭のストーリーである。
このゲームにおいて、主人公は自分の人生の追体験をしているだけにすぎず、実際には主人公自体はまばたきしかしていないというのも上手くできている。
実際に私たちが行っている以上の行為をしていないので、限りなく私と主人公をシンクロさせることに成功しているのだ。
ストーリーも走馬灯を観るだけではなく、その時の行動を選んだり、紙に落書きをしたり、ピアノを弾いたり…など、様々な行為ができるのもおもしろい。前に行った行動が思わぬ結果を生むこともある。
まばたきを利用した演出も良くできており、後半に行けば行くほど演出に磨きがかかっていく。
特に、私と主人公の隔たりを限りなく無くしたうえでの最後の演出の出来は素晴らしく、心から感動できる。正直ちょっと泣く。
細かく説明したいところだが、文章で読むよりも実際に体験したほうが確実に心に残る演出となっているので、ぜひ自分で感じてみてほしい。

まとめ

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今回のnoteでは、まばたきという行為で操作するゲーム
「Before Your Eyes」について書かせていただいた。
まばたきという日常生活において不可欠な行為を、素晴らしいストーリーと演出と共にゲームに落とし込み、プレイヤーと主人公の隔たりを極限まで少なくした今作は見事の一言に尽きる。
ここまで直感的なゲームでありながら、システムがその他の要素と上手く組み合わさっている作品は他に類を見ないだろう。
翻訳の質も良く、プレイ時間も1時間半ほどあればクリアできるため、短編映画の世界に入り込んだかのような作品だった。
値段も1000円程度とお手頃なので、気になった方は事前に情報を見る前に買ってプレイすることをお勧めする。

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