エッセイ 劣位オスのエレジー
ある日森の中、貴方が散歩していると熊さんに遭遇してしまいます。話し合いが通じるファンタジーな熊ではなく、空腹で明らかな敵意を放っている。貴方は助からない。絶命。
では貴方が20人くらいのグループで散歩をしている際に、同じようなキラー熊さんに出会ったらどうでしょう。もしかしたら貴方が絶命するかもしれませんが、貴方とそんなに仲良くない知人が1人か2人襲われているうちに残りのメンバーは逃げて助かる可能性が上がります。19/20が助かるとすればかなりの違いです。
「群れを作ること」はデメリットがあるが、貴方が生存する上ではメリットが大きい。
安全なぼくら
ヒトは群れを作り、安全な生活を手に入れました。キラー熊さんに怯えず平和でハッピーな世界が手に入ったはずです。自然界で常に飢餓状態の生物達から見れば楽園でしょう。
ある程度生存が可能になった群れは、今度は群れの中での競争が激化して行きます。生物の本懐が「自分の遺伝子を後世へ残すこと」だとすれば生存は第一ハードルであり、第二のハードルは自身の子孫を残すこと、繁殖になります。
有性生殖を例に話を進めると、異性を選ぶ物理的な力か、選ばれる魅力が必要になります。話を分かりやすくするためにハーレムを形成する動物をイメージしてください。強力なオスが群れのリーダーとなり、多くのメスと子を残します。これを優位なオスと呼びます。
そしてメスに選ばれないオスを劣位なオスと呼びます。
みなさん初めまして、霊長類ヒト科劣位オス示顕一刀流、星川実業と申します。
不思議な劣位オス
生物の生態は不思議なもので、例えば七面鳥はオス二匹でメスに求愛することが多いそうです。そしてメスは必ず優位なほうのオスを選ぶ。本能で分かるのでしょう。
この時の劣位オスが哀れに見えますが、なんと協力行動だそうです。どちらかを選んでもらうためではなく、優位オスをキッチリ選んでもらうために二匹で求愛をして、自身は独りで過ごすそうです。勝てそうな相手を見つけて効率よく求愛しているわけではなく、噛ませ犬を買って出ている説。なんなんだお前は。
オス各自で求愛するとどちらもフラれる可能性がありますが、二匹にアピールされるとメスはこっちの方が…とどちらかを選んでしまうのかもしれません。人間の詐欺師が二択を迫ってくるやつに似ています。劣位オスはもしかしたら「一緒に行けばお前が選ばれるから、告白しちゃおうぜ」と優位オスを焚き付けているのかもしれません。
自分の遺伝子を残せなくて不利では?と思いますが、劣位オスの行動によって種族全体の交尾率向上に貢献しているかもしれない。そう考えると、なんとも言えない頼もしさと切なさを感じます。
哭く劣位オス
ワオキツネザルの群れは、優位オスを頂点とし、数十匹のメスがボスザルを囲います。では競争に負けた劣位オスはどうなるか。雑魚はどいてろと言わんばかりに、メスから暴行を受けるそうです。暴力から逃げるように群れから離れますが、孤立してしまうと他の動物にすぐ襲われてしまいます。最初のキラー熊の例の通り、孤立した個の死亡率は跳ね上がります。
なので群れの中心からは離れつつ、孤立しない程度にちょっと離れた所で生活をするそうです。群れの隅っことでも言いましょうか。これが本当のすみっこぐらしだ。すみっこメンバーに劣位オスを追加してくれ。
群れが移動する際は、つかず離れずの距離を維持しながら劣位オス達も一緒に移動するそうです。当然群れの外側にいるので、外的に襲われた時の死亡率は一番高いです。しかし、そのおかげで群れのメスやボスザルの生存率は上がっているでしょう。最初の例で言うところの、貴方と大して仲良くないメンバーの1人と一緒です。貴方は「怖かったけど助かった〜」と安堵する裏で、劣位オスの悲鳴は誰も気に留めません。
ワオキツネザルの劣位オス達にはある特徴があります。「仲間達に呼びかける鳴き声」をよくあげるそうです。人間で言えば、コミュニケーションを取ろうとよく喋りかけている。
誰に?メスに近づけば暴力を振るわれ、ボスの優位オスには逆らえません。たぶん、劣位オスから劣位オスへ声をかけているのではないでしょうか。群れから離れつつも、孤立してしまうと死が近づきます。そんな立場の劣位オス同士が「俺たちは敵じゃないよな?」「元気か?」等と声をかけあいながら懸命に生きているのかもしれません。
私のような劣位オスはなぜ生きているのか?と耐えられなくなる瞬間があります。しかしワオキツネザル劣位オス先輩を見習って「自分が惨めな思いをすることで、優位オスやメスの皆さんが健やかな生活を送れているのかもな」と思うと少しは気が楽になるのではないでしょうか?
んなわけねぇだろボケが。
世界が滅ぶボタンがあったら連打してるわ。
ボケザルが。
何がヒトじゃ
アホちゃうか
一生増えたり減ったりしてろ
ボケが
完
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