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短編 告白の儀式

短編 告白の儀式

恋愛における告白という行為は、最終確認の儀式だそうだ。一発逆転の手段でもなければ、あわよくば関係を繋ぎ止めるための申請でもないらしい。

大人になった今ならわかる。汚い表現をすると、告白が通るであろう関係性を築いた上で、意思を明確にするかどうかが告白なんだなと。

中学生の私にはよく理解できていなかった。告白をして付き合い始めて、そこから色々なことが起きたり起きなかったりするらしい。ということをな

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たった1人のパジャマパーティーズ 短編

たった1人のパジャマパーティーズ 短編

いいよな、ちいかわ

いいよなぁ

「間」がね

「間」ね…

私はどこにでもいる中年男性。学生時代から付き合いのある友人3人と、不定期に通話をする。根っこがゲーマーの我々は、数十年前と同じかそれ以上の熱量で最近のゲームの話をする。

時折、目が悪くなったとかミョウガが妙に美味く感じるようになったとか、身の上話がでる。すっかりおっさんじゃん、お前もな、と時の流れを感じていた。

誰かが言い出した。

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仮タイトル「首輪に鎖を、鎖の先には月を」

仮タイトル「首輪に鎖を、鎖の先には月を」

一章 追跡者の目首輪には鎖を付けておくべきだ。飼っているものが怪物であるならば尚のこと。鎖を握りしめている時、制御されているのは自分自身なんじゃないかと思う瞬間がある。それは怪物から来る圧力のせいだけではない。安全な場所からこちらを覗き込む、多数の目。故も知らぬ無数の目が訴えてくる。

鎖を手放すなよ、と。

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平成が終わって三年目、安久3年の春。私、神田拳児(カンダ ケンジ)

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短編 高速モダン・ピノキオ

短編 高速モダン・ピノキオ

「金?今月中にすぐ払う。大金が手に入るんだ。いつもの倍額出すから、城まですぐに馬車を出してくれ。急がないと金にならないんだ。俺の命も危ない。頼むよ。」

運送屋をやっている古い友人に必死に頼み込んで、どうにか馬車を用意してもらった。私には時間が無い。急がねば、研究の成果が無駄になってしまう。

「急いで馬車に乗れ、座ってろ、楽しいところに連れて行ってやる、着いたら両腕の拘束も外してやるから、何もせ

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仮タイトル 「ダゴンと首輪」

仮タイトル 「ダゴンと首輪」

一章 少年の目
僕は怪物を飼うことに決めた。比喩ではなく、実際に。怪物は僕のゴーストライターであり、僕の愛情を懇願する玩具でなくてはならない。飼うからには首輪を着けないと。首輪は所有の証であり、主従の証であり、愛の証でもある。

その怪物はきっと人間のような見た目をしていて、人間の世界に溶け込もうとしている。弱いフリをして、静かに生きながらえようとしている……内面には酷く醜いモノを隠しているくせに

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短編 ブルーバード・ロック 

短編 ブルーバード・ロック 

日本のTwitterから、最強のストライカー(万バズ量産する奴)を誕生させる。

経営難に追い込まれた巨大な青いSNS…Twitter社は、自身の広告効果を担保すべく最強のストライカーを欲していた。このままでは、Xという黒くて悪趣味で識別性の低い社名に乗っ取られてしまう。

社運を賭けた最後のプロジェクトは、まだ知名度が高くないツイッタラーを監禁・養成し意図的に万バズを産むアカウント作る、というも

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短編 母になる日

短編 母になる日

私は母になりたかった。しかし自分の血が入った子を産みたくないという矛盾を抱えていた。うちの家系は珍しい病気の遺伝で短命、パートナーの家系は障害の発現が多かった。子に罪はないと言うが、高確率で発生するであろう不幸を分かっていながら子を産む親に罪は無いのか。

パートナーはそんな私を押し倒して「あなたとの子供が欲しい」とはっきり言ってくれた。

娘は本当に可愛くて、大切で、すくすくと育って2歳になった

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短編 秘球・スカルハート

短編 秘球・スカルハート

高校野球はここまで進化していた。球児達は身体の8割以上を機械化し、甲子園球場は各工業メーカーのプレゼンの舞台になった。多くの球児は脳を残し、身体を改造しながら練習を重ねる。人体改造が当たり前になったこの時代でも、球児達の性能は異常に高い。

「人を殺さない兵器」と呼ばれ、そのぶつかり合いはさながらコロッセオだ。人々はどんなに進化しても、安全な席から命の奪い合いを見る娯楽をやめられないのかもしれない

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短編 さらば緑の星 後編

短編 さらば緑の星 後編

続き

居住可能な植物の星に辿り着いた個体から届いた「意思疎通可能な植物がいた」という報告は、人類に希望と不安を与えた。

X–620のレポート・この星の特徴が把握できた。南半球は緑の植物が繁栄し、酸素がある。コストを大きく抑えて人間が居住できる星になるだろう。

・大陸はほぼ陸地で、小さな湖はあるが海は無い。湖の成分は地球の水とは異なっているが、手を加えて飲み水にすることはできた。重力も地球とほ

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短編 さらば緑の星 前編

短編 さらば緑の星 前編

少し未来の話。人類は、その果てない知的好奇心と欲望と闘争本能で、居住可能な星を発見した。その星は大部分が植物のようなものに覆われている。地球の北極にあたる位置に大穴が空き、そこから無尽蔵に多様なガス成分が噴き出している。

地球の「植物」によく似た存在……便宜上「外生植物」と表記する……は、この多様なガスを主成分として繁栄した。北極の大穴付近で発生した外生植物は濃い紫色をしている。

紫色が北半球

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短編 愛しの我が社、デラックスエンジン

短編 愛しの我が社、デラックスエンジン

感謝!おはようございます!太陽!ありがとうございます!お客様!おはようございます!ありがとうございます!

私が勤める会社、私が人生で何よりも愛する場所『有限会社 デラックスエンジン』を紹介致します。我が社では、お客様のお車やトラクター等、エンジンのついたものを幅広く修理致します。

お客様のお車の傷が『治る』
私達社員の心の穢れが『治る』
宇宙全体が正しい方向へ『治る』

それが我々喜びです。

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短編 浮気の冤罪証明

短編 浮気の冤罪証明

愛しの自宅へ本当に疲れた。連日の肉体労働。強烈なストレス。もう今日は心の余裕もないし、握力も無い。

眠い目を擦りながら、自宅に向かって車を走らせる。今日は私が夕食を作る日だ。助手席の足元には妻へのお土産、後部座席には食材を積んでいる。妻は食いしん坊なので、空腹で機嫌が悪くなってしまう。急がねば。

運転しながら、妻のことを考える。こんな冴えない自分に懐いてくれる、ありがたい話だ。ただ、若干嫉妬深

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短編 幸せ家族計画

短編 幸せ家族計画

起床私の名前は鶴原 綾子(つるはら あやこ)、今年で25歳になるらしい。らしい、という曖昧な言い方になってしまうのは、事故に遭い、記憶が混濁しているから。骨折、外傷があり、今は入院している。私の婚約者が病院に運んでくれたらしい。

免許証の名前と住所を確認し、なんとなく自分のことは思い出せた。会社勤めの一人暮らし。お酒が好きで、事故の日も飲んでいたのかもしれない。

何人かお見舞いに来てくれた。

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