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エンジョイ株式市場

わたしは金融機関に勤めている。
数年前に本部の専門部署に異動になったことを契機に、朝の経済ニュース番組「フレッシュターミナル(仮名)」を見るようになった。

この番組では、昨日の金融市場の動きや今後の見通し、世界経済の好材料や懸念材料など、専門家を招いて解説される。
よっぽど大きな災害などは報道されるが、ワイドショーが取り上げるような事件や事故、火事などはほとんど扱われず、金融経済に特化した番組である。

ポイントを解説してくれるので、あらかじめ番組を流し見することで、通勤電車で読む日経新聞の理解度が深まる気がする。

、、というのは綺麗事だ。



興味がないことは、全然頭に入ってこない。
昔からのわたしの悪い癖だ。

わたしの家系は阪神ファンで、実家ではシーズン中の夕飯時は必ずナイター中継が流れていた。
それなのに、わたしは野球のルールを知らない。

分かるのはゲッツーと送りバントぐらいまでで、犠牲フライやパスボールは自信がない。
スクイズになると、ちょっと何やってるのかよく分からない。

毎日眺めていたのに、何でこんなに分からないんだろう。

でも、ヒーローインタビューの受け答えは必ず「そうですね」から入るなぁ、とか、しょうもないことは知っている。



金融経済情報についても同様のことが起こっている。

ここ数年、月から金まで毎朝フレッシュターミナルを見ているのに、専門家やキャスターが、ちょっと何言っているのかよく分からない。

日経新聞だってそう。
毎日読んでも何も分からない。
たまの月曜日、休刊日の朝は、心の中でダブルピースと小躍りをするほどだ。

仕事柄必要だから毎朝見ているだけで、本当は興味がない。



デキるビジネスパーソンに合わせて、フレッシュターミナルの放送時間はかなり早い。
わたしはそこまでの早起きではないため、録画予約しておき、起きてから追いかけ再生で見ている。

CMや全国の天気予報、特に必要のないコーナーは早送りで飛ばし、特にポイントとなるコーナーだけを眺める。

流し見しているフレッシュターミナルだが、わたしにはお気に入りのシーンがある。
鐘が鳴るシーンだ。

放送開始直後の時間帯に、ニューヨーク証券取引所では取引時間の終わりを迎える。

毎日取引所では、取引時間の開始と終了時にカンカンカンと鐘が鳴るのだが、鐘のもとで3段ぐらいの雛壇に10人程が集まっている。

拍手をしたり、ヒューヒュー歓声をあげたり、お互いにハイタッチをしたりと、異様にテンションが高く、喜びを爆発させている。

え、誰?

人種や男女を問わないが、働き盛りらしい年代の人たち。

はっはーん。
ちょうど今日上場を果たした会社の役員さんかな。

翌日、鐘が鳴るシーン。
少し顔ぶれは変わったようだが、昨日と同じ人も何人かいる。

ほな、何の人や?

日本人には無いような表現力で大げさに喜び続ける謎の人たち。



2020年3月、感染症流行の影響で、先行きが不透明となり、株式市場が乱高下した。
それまで好調だった市場がたった一日で大崩れするような日があった。

大幅下落したその日の取引終了時。
カンカンカンといつものように鐘が鳴るものの、昨日とは打って変わっておじさまがポツンと一人。
顔に絶望と書いてある。

昨日までのあのテンションはどこ行ったんや。

確かに、これほどまでに深刻な状況ともなれば、喜んでいる場合ではない。
次の日も、その次の日も、ポツンとおじさんDAYは続いた。

ほなもう、やめたら?
辛気臭いおじさん一人おる必要あるんか?

よく見ていると、鐘は実際に鳴らしているのではなく、ボタン式で音が鳴るようだ。
おじさんは、取引終了を知らせるべく、そのボタンをポチッと押す役割のためだけに、その場所に佇んでいる。

おじさん、お疲れさま。

今はすっかりポツンとおじさんZONEを抜け、元の「誰やねん、何の人やねん」の日々が戻っている。

不思議に思いながら3秒ほど鐘のシーンを眺める時間が好きだ。
他はいくら早送りしても、鐘のシーンだけは飛ばしたことがない。

フレッシュターミナルは、小さな楽しみを与えてくれる





金融市場というのは、偉い人の発言や、公表される指標や統計など、様々な要素で変動する。

ある日、番組アナウンサーが報じた株価の変動要因が引っかかった。

来月政権交代を控えるポリポリ共和国(仮名)では、新政権に期待が高まり、株価が大幅上昇しました

国民が今後に期待するあまり株価まで上昇するなんて。
今の国家元首はどんな気持ちなんや?

でも、その報道で、わたしはある思い出が頭をよぎった。

金融機関に転勤はつきもの。
以前転勤が決まり、取引先にその旨を伝えた時のこと。
ここの取引先の人たちはかなりフランクだ。

わたし「転勤することになったので、来月から担当が変わります」

担当さん「あぁ、ホンマか〜。いつも良くしてくれとったのに、残念やなぁ。ところで、次の担当は?」

わたし「後任はわたしより少し後輩の女性です。来週引継ぎで一緒に来るので、紹介させてもらいますね」

副担当さん「ワシ、この前窓口に行ったんや。窓口担当の子、可愛いかったけどその子か?その子が担当してくれるんか?」

わたし「違います。別の支店から着任する子ですよ」

近くで煙草吸ってるおっちゃん「何やて?担当変わるんか。次の担当の子可愛いんか?ほな、いっぱい契約してまうわ〜」

切り替えが早すぎる。
ちょっとは別れを惜しんでくれ。

あの時のわたしの気持ち。
ポリポリ共和国の元首ときっと同じだ。

フレッシュターミナルには、感情を揺さぶられる。





アメリカのコロラド州出身のサックン(仮名)は、フレッシュターミナル金曜日にレギュラー出演し、後半の1コーナーを担当している。

サックン・ヤックン(仮名)」というお笑い芸人だが、漫才はほとんど見たことがない。
サックンはハーバード大学卒の秀才で、 20年以上前からワイドショーのコメンテーターとして活躍している。

コーナーでは面白い視点の役立つ話題を特集しており、いくらか肩の力を抜いて見ることができる。

ある日のコーナー冒頭。
年金などの話題を特集する回で、導入として軽くサックンと小山キャスター(仮名)が会話をしていた。

サックン「小山さんはまだ若く見えますけど、おいくつでしたっけ?」

小山キャスター「わたしですか?もう53歳になっちゃいましたよ」

サックン「えーー?!全ー然っ、見ーえーますねぇ

寝ぼけ眼ながら、この会話だけで声を出して笑ってしまった。

金曜にもなると相当疲れてるな、わたし。

フレッシュターミナルは、自身の疲れ具合にも気づかせてくれる。





総合バラエティ番組「フレッシュターミナル」
皆さんにご覧いただきたい。

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さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「ボルボを買った女」

をお届けします

お楽しみに〜
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