長谷川美智子

現在NHKカルチャースクール横浜・町田。青山・川越・さいたまアリーナ校講師「枕草子」を…

長谷川美智子

現在NHKカルチャースクール横浜・町田。青山・川越・さいたまアリーナ校講師「枕草子」を担当。『見沼の波留』(埼玉文藝賞)『小説 清少納言』(第15回新風舎出版賞)

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記事一覧

病室の会話

相部屋でいろいろな会話を仄かに耳にした。ほんの一言二言だけ話した人もあり、今もときどき電話をかける人もいる。 すべては病気の取り持つ縁。 今も心に残っている会話が…

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『色』のもつ力

トップ写真は姪にプレゼントされたド派手なぐらいカラフルな羽織ものです。癌の治療を始める前に「おばちゃんがこの色ぐらい元気になれますように」とデパートで高いものを…

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現実を生き抜いた女たち

紫式部にしろ清少納言にしろ、その他多くの平安時代に活躍した女性作家たちには共通項がある。 1・隠遁者ではなく、宮中という生活の場において、それぞれ後ろ盾となる庇…

長谷川美智子
2週間前
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5月4日、退院しました

一回目の抗癌剤治療は、副作用に急激におそわれ、 予期せぬ長期入院となりましたが、5月4日、退院しました。 スイカやみかんを食べて元気になりました。 これから養生に…

長谷川美智子
3週間前
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仏像物語  (3)

橋のたもとのお地蔵さんは 念仏橋と呼ばれる小さな橋のたもとに 小さなお地蔵さんが立っていました。 なぜ念仏橋と呼ばれるのか、 いつ頃からお地蔵さんが立っていらっし…

長谷川美智子
1か月前
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仏像物語  (2)

薬師如来に祈る 父の赴任した はるかな東国の地で育った 少女 現世御利益を願って 自分の身の丈ほどの 薬師仏を彫った 我は前世は 仏師だったにちがいない 木の中から 自…

長谷川美智子
1か月前
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仏像ものがたり (1)

長谷川美智子
1か月前
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青天の霹靂  (4)

誰の人生も青天の霹靂の連続だと思う。 順風満帆のように思えた大谷選手も水原事件は青天の霹靂だっただろう。 キャサリン妃の癌公表も私たちにとっては青天の霹靂だった。…

長谷川美智子
2か月前
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青天の霹靂  (3)

2月の定期健診で明らかな卵巣異常発見。 3月6日。娘二人に来てもらい外科の主治医から画像を示されながら説明を受け、結果的に即入院、翌日卵巣摘出手術。 12日、いった…

長谷川美智子
2か月前
26

青天の霹靂  (2)

人の情 集中治療室では時間が分からないことが一番つらかった。 翌日からは相部屋を希望していたが空きがなく、個室へ。 携帯を自由にかけられるし、部屋が広いことはよか…

長谷川美智子
2か月前
27

青天の霹靂 (1)

春の嵐 去年11月15日。 経過観察の定期健診で主治医に言われた。 「婦人科の先生から指摘されましたが、卵巣に小さな影があります。卵巣嚢腫の可能性もあり、と言われまし…

長谷川美智子
2か月前
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病院の怪談「5」ー⑥

法的な配偶者となることがいちばん強力に綾子を守ることになる。誠二の出した結論だ。財産目当てと思う人は思えばいい。綾子が亡くなっても、自分は配偶者としての相続権は…

長谷川美智子
2か月前
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病院の怪談 「5」~ ⑤

会ったこともない腹違いの弟……。 綾子の胸に不安が過る。人生の晩年にややこしい問題を抱えたくない。 それから一か月後、公認会計士から報告があった。 「N さん、63歳…

長谷川美智子
2か月前
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病院の怪談「5」~④

「贅沢言ってはいけないと思うけど、病院では果物が出ないのよね。好きな果物を自由に食べられるって幸せ」 一時退院した綾子は血色もよく、食欲も旺盛だ。 誠二は病院を…

長谷川美智子
2か月前
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病院の怪談「5」~③

私、身元引受人になってしまった。 出過ぎたことをしたかな。いえ、たまには人は出過ぎたこともすべきなのだ。皆、関わりを嫌がって見て見ぬふり。それでは、あまりに世の…

長谷川美智子
2か月前
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病院の怪談「5」~②

私には一億円近い資産がある。土地成金の一人娘で、親の資産をすべて相続した。今住んでいるマンションも私名義。 お金はじゃぶじゃぶあった。今までも、たぶん、これから…

長谷川美智子
2か月前
35
病室の会話

病室の会話

相部屋でいろいろな会話を仄かに耳にした。ほんの一言二言だけ話した人もあり、今もときどき電話をかける人もいる。
すべては病気の取り持つ縁。
今も心に残っている会話がある。

「長谷川さん、話しかけてくれてありがとう。嬉しかった。これ、見て。私、夜景のスケッチをしたの」
御向かいのベッドの女性が私のベッドに近づいて一枚の紙切れを見せてくれた。
鉛筆の走り書きで、『暗い空・ここにちかちか光がある。運が良

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『色』のもつ力

『色』のもつ力

トップ写真は姪にプレゼントされたド派手なぐらいカラフルな羽織ものです。癌の治療を始める前に「おばちゃんがこの色ぐらい元気になれますように」とデパートで高いものを選んでくれたのです。

ここ2ヶ月は衣装どころではありませんでしたが、先日、姪とのランチに着て行きました!
娘たちからも高評価で「カラフルで、見ているだけで楽しくなる」と。

色の持つ力は大きい~。

病院のほぼモノトーンの世界で天井ばかり

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       現実を生き抜いた女たち

現実を生き抜いた女たち

紫式部にしろ清少納言にしろ、その他多くの平安時代に活躍した女性作家たちには共通項がある。

1・隠遁者ではなく、宮中という生活の場において、それぞれ後ろ盾となる庇護者を得てはいたが、一人の人間として経済的に自立していた。

2・奈良時代の貴族女性の経済力には大きく劣るが、財産と家、土地をもち、老年になっても、習字や和歌・琴の演奏などの特技で、宮中で活躍した女性の記録が多く残っている。

3・財産権

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5月4日、退院しました

5月4日、退院しました

一回目の抗癌剤治療は、副作用に急激におそわれ、
予期せぬ長期入院となりましたが、5月4日、退院しました。
スイカやみかんを食べて元気になりました。
これから養生に励みます!

病室というのは白だけの世界。
寝ているだけの世界。
でも我が家に帰るとカラフルなものに囲まれている。
庭の木々や草花の美しさに感動しました。
庭に飛んでくる鳥の姿も見ました。

ああ、これが生きている幸せだと改めて感じた今日

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仏像物語  (3)

仏像物語  (3)

橋のたもとのお地蔵さんは

念仏橋と呼ばれる小さな橋のたもとに
小さなお地蔵さんが立っていました。

なぜ念仏橋と呼ばれるのか、
いつ頃からお地蔵さんが立っていらっしゃるのか、
語られることもありませんでした。

お地蔵さんは小さな子どもぐらいの背丈で、
ときどき鳥が肩にとまっていました。

誰がお世話しているのか、
いつも赤い頭巾をかぶり、
赤いよだれかけをしていました。

この辺りは元は沼だっ

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仏像物語  (2)

仏像物語  (2)

薬師如来に祈る

父の赴任した
はるかな東国の地で育った
少女
現世御利益を願って
自分の身の丈ほどの
薬師仏を彫った

我は前世は
仏師だったにちがいない
木の中から
自然に仏さまが
出ていらっしゃる……

三月かけて薬師像は完成した

少女は祈った
来る日も来る日も……

どうか都に帰れますように
どうかたくさんの物語を
手にできますように
病苦を癒し
現世御利益をもたらす薬師さま、
どうかあ

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青天の霹靂  (4)

青天の霹靂  (4)

誰の人生も青天の霹靂の連続だと思う。
順風満帆のように思えた大谷選手も水原事件は青天の霹靂だっただろう。
キャサリン妃の癌公表も私たちにとっては青天の霹靂だった。

こういうことを知ると、私の卵巣癌摘出など青天の霹靂ともいえない小さな事件かも知れない。

とはいうものの……。
世界的な有名人であってもイギリス王室の妃であっても、全く無名の庶民であっても、その人にとって青天の霹靂はショックであり、悲

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青天の霹靂  (3)

青天の霹靂  (3)

2月の定期健診で明らかな卵巣異常発見。
3月6日。娘二人に来てもらい外科の主治医から画像を示されながら説明を受け、結果的に即入院、翌日卵巣摘出手術。

12日、いったん退院。
18日、外来でCPR検査を受けコロナ陰性を確認。翌日入院。
その夕方に胸に何かを埋め込む手術を受けた。何か、というのは自分でもよく分かっているわけではないから、うまく書けないのだ。
今後の治療で度重なる点滴を受け、血管がぼろ

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青天の霹靂  (2)

青天の霹靂  (2)

人の情

集中治療室では時間が分からないことが一番つらかった。
翌日からは相部屋を希望していたが空きがなく、個室へ。
携帯を自由にかけられるし、部屋が広いことはよかったが、一人ぽっちの寂しさ、経済的なことも考え、大部屋を希望。
三日目に大部屋に引っ越せた。

夕方、なかなか食事が出ない。まさか、私、夕食抜き?
ろくに食べていないから、このままじゃ、死ぬよ……。
不安になって通路に出ると、お隣さんが

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青天の霹靂 (1)

青天の霹靂 (1)

春の嵐

去年11月15日。
経過観察の定期健診で主治医に言われた。
「婦人科の先生から指摘されましたが、卵巣に小さな影があります。卵巣嚢腫の可能性もあり、と言われましたが、この影は誤差の範囲かも知れないとも思うけど…」

明けて2月7日。
今日から5年目だ。
わーい、5年間再発なしで、めでたく、経過観察も終わる。病院通いも終わる~超幸せ~
去年の針先ほどの影のことなど思いだしもしなかった。

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病院の怪談「5」ー⑥

病院の怪談「5」ー⑥

法的な配偶者となることがいちばん強力に綾子を守ることになる。誠二の出した結論だ。財産目当てと思う人は思えばいい。綾子が亡くなっても、自分は配偶者としての相続権は主張しない。綾子の望む通り、盲導犬協会に寄贈すればいい。

風薫る6月、
庭に桜草咲き乱れる小さな教会で二人は式をあげた。
赤いツツジの咲く道をしばしドライブ、役所に向かう。幸せな道程に付添ってくれたのはキミ子とキミ子の会社の社長だ。

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病院の怪談 「5」~ ⑤

病院の怪談 「5」~ ⑤

会ったこともない腹違いの弟……。
綾子の胸に不安が過る。人生の晩年にややこしい問題を抱えたくない。

それから一か月後、公認会計士から報告があった。
「N さん、63歳。若いころは一人でアフリカや中東辺りの砂漠地帯を周遊していたそうです。
それからも根無し草みたいな暮らしを続け、今は沖縄に住んでいます。
親との関係はまったくない人生だったし、それはそれで満足している。
今さら、遺産を分けてもらおう

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病院の怪談「5」~④

病院の怪談「5」~④

「贅沢言ってはいけないと思うけど、病院では果物が出ないのよね。好きな果物を自由に食べられるって幸せ」
一時退院した綾子は血色もよく、食欲も旺盛だ。

誠二は病院を辞め、巡回検診を専門にする医療機関で週三回働いている。
職場での陰湿な虐めに耐えられなかったのだ。いや、虐めと思う自分の精神状態が病んでいるのかも。ま、それはどうでもいい。

病院の中を徘徊している多くの霊の存在が自分の命を縮めるような気

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病院の怪談「5」~③

病院の怪談「5」~③

私、身元引受人になってしまった。
出過ぎたことをしたかな。いえ、たまには人は出過ぎたこともすべきなのだ。皆、関わりを嫌がって見て見ぬふり。それでは、あまりに世の中、冷たすぎる……。
昭和のお節介おばさんの話、母がよく聞かせてくれたけど、私、今、おせっかい真っ最中。それで綾子さんの晩年が少しでも安らぐなら……。

高層マンション立ち並ぶ市街地の隙間に取り残されたような小さな手芸工房、キミ子はそこの事

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病院の怪談「5」~②

病院の怪談「5」~②

私には一億円近い資産がある。土地成金の一人娘で、親の資産をすべて相続した。今住んでいるマンションも私名義。
お金はじゃぶじゃぶあった。今までも、たぶん、これからも。でも、家族の縁と愛には薄い人生だった。
私に何か問題があったのではない。それが私の宿命だったのだ。人は自分の宿命のもとに生きるしかない……。

いざというときのケア付き病院との契約は身元引受人のキミ子と公認会計士ですべてやってくれた。キ

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