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ただのエロいおっさんが、ガイアの夜明け『いま“木造”が大変貌!』を、少しだけ堀り下げてみた

ガイアの夜明け『いま“木造”が大変貌!』では、木造建築が脚光を浴びつつある中で、どんな新技術が開発されつつあるのかが取材されていた。

そもそも木造建築が脚光を浴びているのにはわけがある。

日本の森が荒廃しつつあるのだ。日本の国土面積の67%にも及ぶと言われている森林だが、これらの半分が「自然」ではない。放っておけば緑豊かな森が守られるわけではなく、人が山に植林し、手入れをしてきたからこそ保たれてきた。だが近代化が進むなかで、建築資材に使われていた木材の需要が落ち込んでいった。言うまでもなく鉄とコンクリートを使った建物が増え、さらに海外からの安い資材が入ってくることで、国内の林業を圧迫してきたのだ。国内林業は衰退していき、森が荒れてきている。森は一度すたれてしまうと、元に戻すのに数十年、数百年単位の月日が必要だ。

また、森の荒廃は水源の確保にも支障をきたす。山の森は、いわば自然のダムと言っても良い。森が豊かであれば山の貯水量が増し、安定した水量を確保できることにつながる。その山や森が、いま危機に瀕している。

そんないま、改めて国内の林業を活性化して、森林の荒廃を止めることが、喫緊の課題となっているのだ。

2010年に召集された第174回国会では、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立。林野庁のサイトによれば、右のような法律だという。「本法律は、公共建築物にターゲットを絞って、国が率先して木材利用に取り組むとともに、地方公共団体や民間事業者にも国の方針に即して主体的な取組を促し、住宅など一般建築物への波及効果を含め、木材全体の需要を拡大することをねらいとしています。」

この法律が施行されたことで、木材を利用した建築物が増えてきた。番組では冒頭から、木材を利用した注目スポットを次々と紹介し、どれだけ「木造が大変貌」しているかを印象づけている。

<紹介された建物>
・スターバックスコーヒー 新宿御苑
・国立競技場
・帝京大学小学校
・高輪ゲートウェイ駅
・サニーヒルズ南青山

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↑スターバックス新宿御苑には、日本の銘木が随所に使われている。コレ以外にも同社は、これまでも川越鐘つき通り店、信州善光寺仲見世通り店、福岡大濠公園店など、木材を活用した店舗づくりを推進してきた。さらに西東京新町店では、樹齢約300年のクスノキが庭に佇む木造店舗を、2020年11月にオープンしている。

ここから番組は、木材を「取り入れた」建造物だけでなく、「木造」建築物にフォーカスしていく。

住友林業が進めているのが、2041年に向け木造の高層ビルが作られるよう、木造の強度を高める研究を行なっている。さらに三井不動産と竹中工務店が2025年に竣工を目指しているのが、オフィスビル。国産の木を使って建てる予定だという。

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↑ 住友林業の創業は元禄4年(1691年)。350周年を迎える2041年に、高さ350mの木造超高層建築物を、東京・丸の内に実現する構想「W350計画」。建物の木材比率9割の木鋼ハイブリッド構造。建物の一番外側は四周をぐるりと回るバルコニー状のデザインとし、バルコニー部分は新鮮な外気と豊かな自然、木漏れ日に触れられる空間を目指すとする。また内部は純木造とし、木のぬくもりややさしさを感じる落ち着いた空間にする予定だ。

そして、これらの建設に欠かせないのが「CLT(Cross Laminated Timber)」というもの。

◆CLT(直交集成板)とは何か?

番組では、「業界の常識を変える木材を生産している企業」として、岡山県真庭市に本社を置く銘建工業を取材。その中で、CLTを次のように解説している。

ひき板(ラミナ)と呼ばれている木が横向きに並べられています。これに特別な接着剤をつけ、その上に、縦方向に並んだ板を重ねます。これを縦・横と交互に張り合わせ、幾重にも層を作っていくのです。材料は間伐材などの細い木。その板を交互に重ねることで強度を上げていきます。これは、ヨーロッパで考えられた製法で、その名も「直交集成板」……英語で「Cross Laminated Timber」……略して「CLT」と呼ばれています。……(中略)……材質の強弱を計算して重ねていくことで、巨大な一枚板にしていきます。コンクリートと比べて重さは1/4ながら、耐震性にも優れた建材。4年前(2016年)から実用化されています。

銘建工業が生産したCLTは、学校や養護施設など、全国100を超える建物で使われているという。そして同社は、CLT事業を拡大するために巨大な工場を建てた。だが稼働率が悪く、現在は苦戦中だ。

CLTがなぜ注目されているかといえば、同建材が耐震性に優れているだけでなく、日本の山を救う切り札に成りえそうだから。

どういうことかといえば、前述のとおりCLTは間伐材を利用している。間伐材とは、森林の成長過程で密集化する立木を間引く間伐の過程で発生する木材のこと。国内の森林の荒廃は、この間伐が行なわれなくなっていることに起因していると言ってもいい。

もしCLTの需要が増せば、間伐材の需要が増すということでもある。これまで用途が限られ、放置されていた間伐材が売れるようになれば、森林のメンテナンスにも力を入れられるようになるかもしれない。「CLTが日本の山を救う切り札になる」とは、そういうことだ。

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↑ 森林を育てるには植林・下刈り・間伐などが欠かせない。この間伐で発生した細い木を、CLTとして活用できれば、林業の活性化につながる。CLTが日本の山を救う切り札になるかもしれないのだ。

◆CLTはコストがかかる

政府もCLTには注目し、「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」を発足。国産材の需要を拡大させる可能性のあるCLTの、普及を後押ししている。

具体的には、中高層建築物にCLTを活用するための基準を緩和。林野庁、国土交通省、環境省などでは令和3年度当初予算案で、CLTを活用した建築物に対する財政支援、またはCLTの生産体制の整備といった関連予算を増額要求している。

政府が後押ししているということは、裏返せばCLTには、その普及をはばむ大きな課題が存在するということ。政府が後押ししなければ、自然と普及が進む、というわけではない理由がある。

資材コストが高いのだ。

CLTの坪単価はここ数年で下がっている。しかし普通の木造は50万円。鉄骨やコンクリートと比べて値段が高い。大幅なコストダウンをしないと普及しない。(後述するライフデザイン・カバヤが中心になって開発した新工法「LC-core構法」の坪単価は「80万円前後まで抑えることもできる」という程度だ)

銘建工業のCLT事業が不調なのも、そんな理由があるからだ。そこで番組では、銘建工業とタッグを組む建設会社の株式会社ライフデザイン・カバヤへ向かった。

◆コストダウンがCLT普及のカギとなる

ライフデザイン・カバヤは戸建てで年間800戸以上の実績を誇り年商は238億円。1972年の創業以来、木造にこだわってきた。2014年には、耐震性、耐火性、断熱性の高さが魅力のCLTに目をつけ、実用化される前から多額の研究費用を支出し、大掛かりな実験も行ってきたという。

番組では、CLTのコストダウン化にかける同社の努力を追っていた。

その一つが、CLTの木材一枚の厚さを、薄くすることで坪単価60万円を狙うというもの。従来の厚さ15cmを12cmで試すという。

耐震性、耐火性、断熱性の高さというCLTの魅力を損なうことなく、もし木材の薄型軽量化を進められればコスト減につなげる。同社は、この薄型軽量化したCLTを建材試験センターに持ち込み、テストを行なった。

番組の多くの時間を、このテストの模様に割いていた。結論から言えばテストは失敗する。そして同社が次に目を付けたのが、建物を作る際に欠かせない、CLT建材を支えるのに必須の、大量に使われる金物だった。この金物を、性能を落とさずに少しでも小さくできれば、コストダウンにつながると考えたのだ。どの程度の小型化を行なったのかは定かではないが、小型化した一つ金物でも16トンの重さに耐えられたという。性能は十分。この小型化した金物の単価が安くなれば、一気にコストダウンできるという。

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↑ 同社が開発し採用しているのが「LC-core構法」。同構法で必須となるのが、CLT接合専用金物、LC-core金物(写真左)。この金物を小型化することでコストダウンを図るという。実際の施工の様子を写す右の写真を見ても、どれだけ多くのLC-core金物が必要なのかが想像できる。

◆カバヤが行なっているとされる軽量化への疑問点

さて……番組で主に取材されていたのは、銘建工業とライフデザイン・カバヤの2社。特にライフデザイン・カバヤに関しては、同社が早くからCLT事業に踏み出した点、CLT建材を使った戸建て住宅の普及に力を入れ始めた点、そしてCLT構法のコストダウン研究に邁進している点にクローズアップしていた。

調べてみると、ライフデザイン・カバヤ(日本CLT技術研究所)は2014年に銘建工業の工場で、初めてCLTを知る。翌年には銘建工業の中島浩一郎氏が会長を務める一般社団法人 日本CLT協会に入会している。建築基準法に基づき、CLTが構造材として認められたのが2016年の3月ということなので、同社は間違いなくCLTの先駆者の一つなのだろう。

だが、もちろん銘建工業やライフデザイン・カバヤのような、CLTに注力する企業は他にもある。なかでもすぐに検索に引っかかるのが、鳥取県の「レングス協同組合」が製造しているという「Jパネル」。日本国産出の杉や檜、唐松の丸太を原料にして製材された3層のCLTだという。

残念なのは「Jパネル」という製品と製造システムを開発した、中部機械製造株式会社が既に倒産してしまっていること。「Jパネル」は、レングス協同組合など他企業が製造しているものの、代表する企業や団体がなく、取材がしにくいのかもしれない。

さて、疑問に感じたのは、番組でCLT材の薄型軽量化のテストについて。番組ではライフデザイン・カバヤが戸建て住宅を推進するにあたって、コストダウンが必須だとした。その流れで、薄型軽量化によるコストダウンを目指していたはず。

だが銘建工業のサイトで、CLT材の製品ラインナップを調べると、薄型の製品が既に発売されている。

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上図は、銘建工業のサイトにあった製品構成図。番組で紹介されていたのは、おそらく7層7プライ(右から2つ目)だろう。厚さは210mmとある。見れば分かるが、製品構成では、それよりも薄い60/90/120/150mmが存在する。これらの製品の中に、コストダウンが可能で、7層7プライの代用になる製品はないのだろうか? また番組で薄型化していたのは、さらに別の製品を銘建工業に別注して試作したものだったのだろうか?

◆かつての勢いを取り戻しつつある

番組は、ライフデザイン・カバヤが提携する近藤建設が、CLTのモデルハウスをプレオープンさせたところで終わる。

売りは木の匂いとCLTならではの視野の広いリビングだという。木造が以前の勢いを取り戻せば山も再び活気づくことになる。

さて、この近藤建設が2020年11月17日にプレオープンしたのが、住宅展示場「ライフフィットスタジオ浦和」。グランドオープンは2021年1月3日ということなので、番組の取材に合わせたプレオープンだったのかもしれない……というのはどうでも良いが、こちらはライフデザイン・カバヤが中心になって開発した「LC-core(エルシーコア)構法」を採用したCLT戸建住宅。

日本経済新聞によれば、このLC-core構法は「高耐力の独自接合金物を活用し、従来のCLT建物に比べて耐震性は同等で、CLTパネル壁の使用量を約50%削減。コストを大幅に抑えることができる。建物のコア構造(スケルトン)と間仕切りなどの内装(インフィル)を分離した構法で、間取り変更などもしやすい。」という。

また同紙の日本CLT技術研究所への取材によれば、住宅向けで「坪単価は80万円前後まで抑えることもできる」という。通常の木造住宅の坪単価が50万円前後だとすれば、まだまだコストダウンが求められるだろう。そうなった時に初めて、CLTは競争力を得て、戸建て住宅での利用も進んでいくはず。

CLTの普及が進み、本当の意味で「木造が以前の勢いを取り戻し」、山にかつての活気が戻ることを願いたいものだ。

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