俳人と俳句理念 〜その有効性〜 小エッセイ
俳句にご興味のあるnoteのみなさまに俳句の様々なことについてご紹介していく記事です
俳人と俳句理念 〜その有効性〜
はじめに
今は、スマートフォンがあればより手軽に俳句を学び、つくることができる時代になりました。
ネット歳時記やネット検索を利用し、生成AIのサポートを受けながら作品をつくることも可能になってきています。
また、質をとわなければAIが短時間で膨大な数の俳句を生成してしまう時代でもあります。
そうしたなかで、俳人がつくる俳句としてより深みや重厚さを得るために、
「何を、どんな理念を持って、どう詠みたいのか」
について以前より強く考えざるを得なくなってもきました。
技術の進歩がそれをより突き詰めやすい状況をつくってくれたともいえそうです。
個人的に3年ほど前に、この先取り組みたい俳句と理念についてこちらのエッセイに記しました。
その取り組みの現状について、また俳句理念について自分なりに調べたこと考えたことを短く記したいと思います。
1、俳句理念と俳人
俳句理念とは、俳句の創作において「このようにあるべき」という根本的な考え、価値観のことです。
大きい意味では、なぜ俳句をつくるのかについて、
小さい意味では、どう1句をつくるのかについて、
古今を通じてさまざまな例があるようです。
それは俳人の方々にとって、ときによるべき家、またつねに立ちかえる場所ともなって活動を支えてくれるようです。
ぜんまいののの字ばかりの寂光土 茅舎
この作品の作者の川端茅舎は、昭和前期に俳誌ホトトギスで活躍し、「花鳥風詠真骨頂漢」と讃えられた俳人です。
茅舎の師である高浜虚子がとなえた俳句理念は「花鳥風詠」です。
「花鳥風詠」は一見しただけでその大意がよく伝わってくる理念で、その内容も四季・自然・人間を調子をととのえて詠いあげようという明快なものです。
茅舎のこのぜんまいの句はそうした俳句理念に基づいてつくられたものです。
茅舎には俳人としてよるべき家があったともいえそうです。
逆に、俳句をつくる技術がどんなにすぐれていても、どういう理念に基づいてつくるのかが定まっていなければ、
俳句の荒野をさまようだけで俳人人生が終ってしまうということも、あり得るのではないかと思います。
2、俳句理念と作品
自分は今、現代俳句協会の会員で、大きな理念として「俳句自由」を心にとめています。
また、個人的な取り組みとして、
「ものごとの花」「沈黙の美」「内的宇宙」
を念頭において、約3年ほど作品をつくりつづけてきました。
結果として、様々な活動をしていく中でも、大きくぶれることなく作品づくりを継続できたように思います。
俳句理念には、創作の芯やときに俳人としての背骨になるといった効果もあることがわかりました。
下記に、これまでにつくった作品のなかからそれぞれの理念に添うと思われるものを集めました。
◯俳句作品 参考例
『ものごとの花』を詠む
・伊勢神宮おおきな春の日だまりに
・かもめとぶ沖にまで春およんだか
・うららかよ富士麗かようららかよ
・こでまりよ咲き越えている塀の上
・春満月そうつぶやいてしまうほど
等々
「ものごとの花」とは、人が心で観じる花、春夏秋冬すべてのものごとの花、花と咲いた姿、めずらしさ、新鮮さ、もっとも大切な見せ所など。
『沈黙の美』を詠む
・なにがある大山があるあさざくら
・あおぎみて花あおぎみてよしの山
・たがやすか夕日のなかに影ひとつ
・おおさかを出ておおさかは春夕焼
・おもいだすあの灯あの町おぼろ月
等々
「沈黙の美」とは、作者が一歩引いて黙すこと、作品内でものを言わずにもので示すこと、そこからにじみ出てくる美など。
『内的宇宙』を詠む
・一重咲き八重咲きすべて牡丹の芽
・ふるさとがみえてくるのは春炬燵
・このほしもほしぞらのなか蛙鳴く
・家建ててそれからながい春のゆめ
・ぼんぼりよあかるくくらく飾り雛
等々
「内的宇宙」とは、外的な宇宙空間だけでなく、人間とその暮らしや山川草木の内にふと感じる宇宙を探っていく試み、など。
こうした取り組みについて、長い月日をかけることで余裕を持って行えること、また作品が1つ1つそろうたび意欲も増していくことがわかりました。
3、俳句理念と俳句指導者
今現在、俳句の世界にはたくさんの指導者や先生と呼ばれる方々がおられます。
俳句指導者というと、俳句のつくり方などの技術を教える人と思われがちですが、実際はそれがすべてではないようです。
世の中にむけて提唱できるだけの独自の俳句理念を持っているかどうかも、大切なことの1つになるようです。
俳句指導者とは、本来それを伝え教える人のことをさすのではないかと思います。
現在でも、さまざまな指導者の方がさまざまな理念をかかげて俳句結社などを運営されています。
俳句総合誌をご覧になることがあれば、それぞれの結社がどういった理念に基づいて運営されているのかを紹介広告欄で知ることができます。
一言で簡潔にあらわされているものもあれば、一文で高々と唱えられているものもあります。
過去の時代だけでなく、今現在の俳句指導者や俳句結社について調べてみられるのも興味深いのではないかと思います。
まとめ
今は、技術の進歩によって俳句がより学びやすく、つくりやすい時代になっています。
同時に、AIが膨大な数の俳句を短時間で生成してしまう時代でもあります。
そのため、俳人がつくる俳句として、理念に基づいた深く重厚な作品や作品集づくりがより重視されていく可能性も一方であるように感じました。
さいごに、俳人の方々にとって俳句理念とは単なるものの考え方にとどまらず、ときに創作の芯となり、ときに俳人としての背骨となり、ときによるべき家や立ちかえる場所ともなる大切な存在だとも感じました。
いつも
ご覧いただき
ありがとうございます
*個人的な見解もまじえて短くまとめてみました
*至らない点、充分に書き尽くせていない部分もあるかと思いますがご容赦ください
*俳句については個人・団体によって様々な考え方や見解があります
◇引用 作品収録句集
川端茅舎著
句集「華厳」 龍星閣 1939年
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