見出し画像

30分で完成! 基本の麦わら細工、平編みの馬を編んでみた

素材そのものは素朴ながら、艶と輝き、精巧な造りが魅力の「麦わら細工」。前回までは、数ある麦わら細工の技法のなかでも日本唯一の「大森細工」と、それを継承する女性職人の軌跡を紹介した。
そして最終回の今回は、ライターKが、編み技法のひとつ、「平編み」に挑戦。なんと、初心者でもたった30分で馬の形に編めるという。超不器用が作った麦わら細工の完成度はいかに?



江戸時代にセンセーションを巻き起こした「麦わら細工」

麦わらを使って作る「麦わら細工」は江戸時代から続く美しく繊細な技術

麦わら細工とは、麦わら(麦の茎)を編んだり、裂いて伸ばしたりして貼る技術を用いた工芸品のこと。世界中の麦が育つところで発展し、日本では300年ほど前に生まれ、大ブームを巻き起こしたという。起源は、城崎温泉(現在の兵庫県豊岡市城崎町)、大森村(現在の東京都大田区)など諸説がある。


挑戦したのは「麦わら細工」の技法のひとつ、「編み細工」

「民藝麦わらの店 晨(あした)」の3代目職人、辻享子さん

日本の麦わら細工には、「編み細工」と「張り細工」がある。「編み細工」は、麦わらを動物や植物のような形に編みあげる技法、「張り細工」は、裂いて伸ばした麦わらを縞模様や絵模様にして木箱などに貼り込む技法だ。

これが「編み細工」。
伊豆修善寺の古民家カフェ「茶庵 芙蓉(ふよう)」で使われている伝票入れ
これが「張り細工」。
裂いて伸ばした麦わらを模様にして貼り込む


ライターKが訪ねた伊豆修善寺の「民藝麦わらの店 晨」は、2代目の辻紀子さんと3代目の享子さん母娘が、いずれの技術も手がけている。そして、日本で唯一、「大森細工」の技を継承している工房でもある(「大森細工」の概要と、その奇跡のストーリーはこちら。)


凄腕の職人、享子さんににわか弟子入り!

麦わら細工職人が隣で教えてくれるワークショップ

ひとしきりお話を伺った後、麦わら細工づくりへの興味がムクムクと湧いてきてしまったライターK。眺めているだけじゃ飽き足らない、自分で「麦わら細工」を作ってみたい! そこで、享子さんにお願いしてみると、工房ではワークショップを行っているとのこと。本来なら予約が必要だが、今回は特別に飛び込みで体験させていただくことにした。


体験(要予約)は「民藝麦わらの店 晨」にて。
風情ある工房は、戦後まもなく、先代が自ら建てたもの

体験メニューは、初心者向けから本気で麦わら細工を習いたい人向けまで、5つある。

「初心者でも上手にできる“平編み”という技法がおすすめですよ。私がしっかりガイドするから安心してくださいね!」と享子師匠。

ということで、30分ほどでできるというビギナー向けの「平編みの動物(馬)作り」を体験してみることにした。

ちなみに、Kは超不器用だ。シャツのボタンをつけてもすぐ外れるし、ジーンズの裾上げをするつもりが裾を縫い閉じてしまい足を通せなくなったこともあるし、スカートをまつり縫いしたら糸が目立ちすぎて斬新なデザインのようになってしまったことも……とにかく、ハンドメイド系は大の苦手なのだ。

いまさら心配するKの横で、「大丈夫、右と左が分かって、1から5までが数えられれば必ずできますから!」と、笑顔の享子さん。

はたして、超不器用の初心者でも、完成させられるのだろうか……。


30分でできる短時間超集中型の麦わら細工体験に挑戦!

「平編みの動物作り(1780円)」に挑戦!

使うのは、自家製の麦わらだ。「民藝麦わらの店 晨」では、使用する麦を、自ら畑で育てている。麦蒔きや刈り取り、雑草取りなど大変な作業を要するが、理想的な素材を得るため、初代(お父さんの故・辻晨吾さん)から続けているという。


乾燥させた麦わら。これを水に浸けて柔らかくしてから使う

乾燥させた麦わらを触ってみると、ちょっとヒンヤリして、さらさらの触感が気持ちいい。だが、このままではポキンと折れてしまうので、水に浸して柔らかくする必要がある。霧吹きで麦わらに水をかけると5分ほどで、柔らかくなってきた。もたもたしていると乾いて硬くなってしまう。さあ、いまのうち!


享子さんが教えてくれる通りに、5本の麦わらを順に折り曲げていく
使うのはたった5本の麦わらだけ。これで馬の形が出来上がるのが不思議だ

使うのは5本の麦わら。まず、麦わらを横方向2本、縦方向1本に十字型に持つ。その後、横方向の2本を、縦方向の麦わらを挟んでくるっと手前に折り曲げ、そこに3本目と4本目を互い違いに編み込んでゆく。そしてまた同様に、横方向の上側の1本をくるっと手前に折り曲げ、そこに5本目を同じように編み込む。

ここまで材料を組み込んだら、ベースの完成。そこから上に回転させたり、左右に回転させたりして編み込んでいく。手順は、単純といえば単純だ。


右に折って、左に回転させて……。享子さんが隣で丁寧に教えてくれる


最初は「これで本当に馬の形になるの?」と思っていたが、10分もすると、なんとな~く、胴体らしきものが出来上がってくる。なんだ、楽勝じゃん! と思っておしゃべりを始めると、とたんに、順番が分からなくなる。あれれ、いま、3本折ったっけ? 4本折ったっけ?

同じことを繰り返すのだが、集中力は必要だ。そして、コツは隙間ができないよう、きゅっと締めながら丁寧に編むこと。

ひたすら麦わらを曲げて差し込む作業に向き合っていると、いつしか、このことだけに集中するのが気持ちよくなってくる。うーん、これはマインドフルネス瞑想に似ているかも。

麦わらを互い違いに差し込みながら折り曲げていく

20分ほどで、胴体と首、顔の部分が完成。その後、胴体を編むときに長めに残しておいた部分を好みの長さにカットして、耳と尻尾と足の部分をこしらえて出来上がり! 器用な人なら、トータル20分ほどで完成できるそうだ。


工程そのものは複雑ではない。必要なのは集中力だけ!


完成した馬はピッカピカ! 
「当たる光の角度によっていろいろな輝き方をするんですよ。屋外で見るとまた違ってみえるかも」と享子さん。太陽の下で眺めた麦わらの馬は、冬の優しい光を浴びてキラキラと輝いていた。


平編みの馬が完成! 足や尻尾は好みの長さに調整できる


なお、1日かけて行う「大森編み基礎編(25,000円)」という本格的なメニューもある。これはワークショップではなく、技術研修。昔なら弟子入りでもしなければ学べない技術を、基礎から学べるスペシャルな内容だ。超多忙な享子さんがなぜこのメニューを用意しているのかといえば、技術を絶やさないため。

「伝統工芸に興味があり、根気強く基礎練習を繰り返す忍耐力のある方に、しっかりとお教えして、技術を残したいと考えているんです。もちろん、1度習っただけで完璧な作品ができるわけではありません。でも、大森細工の妙技である菱形づくりをマスターすれば、きれいな作品ができあがります」

日本でここにしかない大森細工の技術。それを赤の他人に伝授するという覚悟は、発祥の地・大森から遠く離れた修善寺で懸命に技術を受け継いだこの工房のストーリーにも重なる。

美しい技術に触れた充実感とともに、この技術がずっと続いていくことを願いながら、修善寺を後にした。麦わらの馬は、今日もデスクの上でキラキラと輝いている。

体験の後、ちょっと一休み。こんどは享子さんに、「くるくるカンカン」を体験してもらった。「コーヒーの木を育ててみたこともあるほど、コーヒー好きなんです。自分で焙煎するのは楽しいですね!」

(記事内の金額はすべて全て税込みです)

Supported by くるくるカンカン


クレジット

文:K
編集:JOURNALHOUSE
撮影:伊東武志(Studio GRAPHICA
校正:月鈴子
取材協力:民藝麦わらの店 晨茶庵 芙蓉
制作協力:富士珈機

#てさぐり部 とは

#てさぐり部 は「知りたい・食べてみたい・やってみたい」──そんな知的好奇心だけを武器に、ちょっと難しいことに果敢に取り組み、手さぐりで挑戦する楽しさを見つけようというメディアです。
決まったメンバーを「 #てさぐり部 」と呼んでいるわけではなく、答えのない挑戦を楽しむ人たちの総称として使っています。
だから、なにかちょっと難しいことに取り組む人はみんな #てさぐり部 です。noteをはじめ、公式InstagramXでのコミュニケーションなど、積極的にハッシュタグを使ってくださいね!

お問い合わせメールアドレス
contact[アット]kurukurucancan.jp

この記事が参加している募集

私の作品紹介