見出し画像

艶々と黄金色に輝く「麦わら細工」の魅力を探る

キラキラと黄金に輝いて、でも、どこか素朴な温もりもあって、触れるとサラサラとして気持ちがいい。よーく見ると、繊細で複雑な造り――。そのアイテムの正体は、日本に江戸時代からあるという「麦わら細工」。ふとしたことがきっかけで「麦わら細工」と出合い、魅了されてしまったライターKが、麦わらの世界観を探求する。



そもそも、「麦わら細工」ってなんなの?

麦わら細工は、世界各地で愛される幸せを呼ぶアイテム

「麦わらといえば帽子でしょ?」「温泉街のお土産物屋さんに売ってる、ほっこりとした雑貨でしょ?」と思う人も多いかもしれない。

麦わら細工とは、麦わら(麦の茎)を編んだり、割いて伸ばして貼ったりする技術を用いた工芸品のこと。その歴史は古く、世界中で愛され、各地で発展してきた。
 
たとえば、フィンランドでは12世紀頃、豊作を祈願する行事で、「ヒンメリ(麦わらの幹に糸を通してモビールのようにしあげた細工)」を作っていた。キリスト教の広まりとともに、クリスマスのオーナメントとしてヒンメリを飾る文化が北欧に根付いたという。近代はメジャーなインテリア小物となり、日本でも愛好家が増えているそうだ。

ヨーロッパで麦の花言葉は、富、希望、繁栄。麦を収穫した後に残る麦わらには、幸せを呼ぶ精霊が宿るとも言われているのだそう。日本でも、麦は繁栄の象徴とされてきた。国は違っても、たわわに実る麦は、豊かさを彷彿とさせるサインなのだろう。


ヒンメリは、北欧ではクリスマスシーズンの風物詩


日本の麦わら細工の歴史は300有余年

日本の麦わら細工には、麦わらをいろいろな形に編みあげる「編み細工」と、裂いて伸ばした麦わらを縞模様や絵模様にして木箱などに貼り込む「張り細工」がある。

その起源は、「城崎温泉(現在の兵庫県豊岡市城崎町)で色付けした麦わらを玩具に貼って温泉土産として販売したもの」という説や、「大森村(現在の東京大田区)の寺の住職が、貧しい村の糧とするべく作り方を教え広めた」など、諸説がある。いずれにしろ、300年前には生まれていたようだ。


世界中の麦が育つところに麦わら細工がある


江戸時代の人が熱狂した超人気アイテム

かの有名なシーボルトも絶賛!

光を反射してキラキラと光るかのように見える麦わら細工は、江戸時代、東海道五十三次を行く人々の間でお江戸土産として大人気に。絵師・歌川国貞による浮世絵「江戸自慢三十六興」には、「大森細工(編み細工)」をするシーンも描かれている。


「江戸自慢三十六興」 「大師河原大森細工」(東京都立中央図書館所蔵)


長崎の出島から江戸を訪れていたドイツ人医師・シーボルトも、「祖国でクリスマスに飾るオーナメントのようだ!」と絶賛。彼が持ち帰った麦わら細工は今、オランダとドイツの博物館で所蔵されているという。


なかでもスペシャルな「大森細工」とは

なかでも、スペシャルなアイテムとして大好評を得ていたのが、編み細工の技法のひとつ、「大森細工」だ。表面の網目を菱形に揃えることで全体を丸みのあるフォルムに仕上げる大森細工には、高度な編み技術が必要とされ、注目を集めた。

だが、明治時代になって鉄道が開通すると、宿場町の大森村を訪れる人も減り、「大森細工」は衰退の一途に。一度は途絶えかけたこの特別な技術を、日本で唯一継承しているのが、伊豆・修善寺温泉に構える「民藝麦わらの店 晨(あした)」。

麦わら細工のことを聞くなら、この工房に行くしかない!


麦わらで菱形の網目を作って、それを丸い形に編み上げる「大森細工」。
艶っとした輝きが特徴


職人に会いに、いよいよ修善寺の工房へ

温泉街を見下ろす古民家カフェへ

「民藝麦わらの店 晨」では、2代目・3代目にあたる母娘職人が制作にいそしんでいる。職人、しかも伝統を守り続けているのだから、頑固で気難しい方かもしれない……。やや緊張しながら訪ねた工房で迎えてくれたのは、柔らかな雰囲気の辻享子さん(3代目)。「この近くに、見晴らしのいいカフェがあるんですよ。そこでお話ししましょう」と、お気に入りのカフェに誘ってくれた。


修善寺温泉街を一望する「茶庵 芙蓉」は、明治時代築の古民家を使ったカフェ


「茶庵 芙蓉(ふよう)」は、温泉街のメイン通りから階段を上った高台に建つ古民家カフェ。建物の中には古道具がセンスよく飾られ、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。縁側の向こうに見える庭と山並みもキレイ。


先代の家主がコレクションした古美術品がセンスよく飾られている




「茶庵 芙蓉」の人気メニュー、「抹茶(季節の上生菓子付)」。後ろにある麦わら細工は、享子さんが作った伝票入れ。軽くて丈夫、そして持ち運びもしやすいのだそう。


「茶庵 芙蓉」のスタッフが手作りしている琥珀糖は、お土産としても人気


大森細工を母と二人で継承する享子さん

おいしいお茶とお菓子をいただきながら享子さんに伺ったのは、「大森細工」へのまっすぐな思いや、麦わら細工が秘める可能性。そして、その継承には、職人たちの熱い思いとドラマがあった。そのお話は、次回に。


麦わら職人、辻享子さんが「大森細工」を受け継ぎ守り続けるその理由は……

(「途絶えかけた江戸の伝統工芸を、伊豆修善寺の職人が救った話」へ続く)

Supported by くるくるカンカン

クレジット

文:K
編集:JOURNALHOUSE
撮影:伊東武志(Studio GRAPHICA
取材協力:民藝麦わらの店 晨茶庵 芙蓉
制作協力:富士珈機

#てさぐり部 とは

#てさぐり部 は「知りたい・食べてみたい・やってみたい」──そんな知的好奇心だけを武器に、ちょっと難しいことに果敢に取り組み、手さぐりで挑戦する楽しさを見つけようというメディアです。
決まったメンバーを「 #てさぐり部 」と呼んでいるわけではなく、答えのない挑戦を楽しむ人たちの総称として使っています。
だから、なにかちょっと難しいことに取り組む人はみんな #てさぐり部 です。noteをはじめ、公式InstagramXでのコミュニケーションなど、積極的にハッシュタグを使ってくださいね!

お問い合わせメールアドレス
contact[アット]kurukurucancan.jp


この記事が参加している募集

#このデザインが好き

7,170件