2日目のまさか。時を忘れる魔法にかけられた?
キャンパーの朝は早い、なんて言うが、わたしたち家族はまぁまぁ寝坊助。
周りのグループは早朝から焚火を始め、目覚めのコーヒーのために湯を沸かす中、冬眠から目覚めた熊のようにのそのそとテントから我々が這い出てきたのは9:00過ぎ。
まだ寝たい……目をこすりながらの活動開始です。
我が家の朝ごはんは決まってサニーサイドアップの目玉焼き。卵をカリカリに揚げ焼きする。フレンチブルドッグの護摩は匂いに誘われて舌をぺろぺろとせわしなく動かしていた。
皆そろってしっかりと腹ごしらえをしたら、さあ活動開始。寝起きのパジャマ姿ながら、とある場所へ向かう。
実は前夜、こんなことが──。
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「そうだ! 実はこのキャンプ場の脇に古道があるんです。本当に山の中を行くけもの道だけど、地元の人もよく使ってる道です。お散歩するとかなり気持ちが良いですよ。明日の朝、是非行ってみてください」
元探検家の村長からの朗報。
普段からスケジュールを立ててはチャキチャキと何でも自分で仕切っていってしまう性分のわたしだけど、村長と話していると「なんだ、もっと自由でも良かったのか」と思えてくる。
だいたいでいいって、良いな。
「じゃあ早起きしなきゃね! 楽しみ~!」と子供のようにはしゃいだ橋口一家。
村長のおかげでカチカチの固い頭を、少しまあるくしてもらった夜だった。
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キャンプ地の真っ直ぐ続く、細い脇道へと足を踏み入れる。
初めはコンクリートで舗装された道が続くものの、すぐに緑が生い茂る山道へと姿を変えた。ほんの50mしか進んでいないのに、後ろを振り向けばそこはすっかり森の中だった。
上を見ても下を見ても、左右までも、果てしなく続く緑。
朝を迎えた鳥たちの活発な鳴き声が森の中に響いていた。
風が吹き抜ける一本道で草木が優しく揺れ、擦れ合ってサヤサヤと立てる音に耳が癒される。木漏れ日が暖かい。こんな充実した時間はいつぶりだろう。この朝がずっと続けばいいのにと思うほど心地の良い空間だった。
普段は東京・渋谷を拠点に仕事をしているので緑に触れることは少ないにしろ、週末のキャンプでもこんな自然たっぷりな場所が隣接しているところは他になかった。まして住宅街を抜けたすぐ脇にこんなにも壮大な自然に恵まれた世界が広がっているなんて。
キャンプ場である「the country」のホームページの冒頭にも、「ここは地球と異世界とが交わる地点。」とあったが、大げさでもなんでもない、全くもってその通りだ。
みんな(私と夫と愛犬の護摩)で運動がてら軽く朝んぽ、なんて思っていたら、あれよあれよと森の中に吸い込まれ、感動しながら黙々と歩き続けていたら、なんと正午を回っていた。
うっかりパジャマ姿で出てきてしまったことを軽く悔みつつ、そそくさとテントへ戻った。
お昼は簡単にささっとパスタで済ませ(橋口家はキャンプ飯に興味がない)、食後のコーヒーの時間。
夫が「くるくるカンカン」なるものを持参していた。
コーヒーは夫婦の日常の中では必要不可欠。忙しい朝はインスタントで済ませるが、ゆっくり過ごせる休日は豆を挽いて味や香りを楽しんでいる。
今やオートマティックかつ洒落たコーヒーメーカーは沢山の種類が販売されていて、それはそれで素敵だけど何でもひと手間かけたくなるわたしたちはやっぱり手作業が好きなのだ。
初めてこの「手回し小型焙煎器」なるモノの話を聞いたときは、これこそ現代の逆風を行くオシャレアイテム!と胸が躍ったものだ。
組み立てという作業が大の苦手なわたしでも、専用のYouTubeチャンネルや説明書のおかげで、1人でも15分程度で組み立てが完了した(ホッ)。
さぁ~いよいよ始めるぞ! と点火した直後、「何やってんすか?」と声がした。
出た! もはやお馴染みの神出鬼没・村長。なんでこの人はいつもタイミングがいいんだ?
ということで一緒に「くるくるカンカン」スタート。
缶に塗布された錆止め剤やワックスを焼き切るために空焼きをしたら、同梱された生のコーヒー豆を缶に入れ、じっくりじっくり火を入れていく。
缶の位置を変えたり、豆の状態をみんなで覗いたり、あーでもないこーでもないと言い合いながら、大の大人が揃ってわちゃわちゃと騒がしい。アウトドア好きにとって、なんて最高のおもちゃなんだ!
火の通りが悪く大丈夫か? と不安な時間を乗り越え、少しムラはあるものの焙煎は無事完了。
最後は美味しいコーヒーを3人で飲んだ。
「苦労した分やっぱり普段よりうまいね」なんて、いっちょ前に言ってみた。
という感じで、たっぷり楽しんでいたら、またあっという間に日が暮れ始めていた。
普通、キャンプ場は10時~11時ぐらいにチェックアウトしなければならないが……。
「それじゃあ、そろそろ仕事に戻るので。日が暮れたら僕も帰るのよ~」と長く足止めさせてしまっていた村長の帰宅宣言を聞いて、私たちも大急ぎで撤収するのだった。
いつもは夫婦+護摩のキャンプだが、今回は村長のおかげで、いつもとは違う、賑やかで、こんなにも充実した、楽しく思い出深い週末となった。
【どこに行くか、何をするかも大事だけど、そこに「誰と」が加わると、面白さも意味もずいぶんと変わってくる。】
次はどこへ行こう、そしてどんな出会いがあるだろう。
橋口家のキャンプ物語はまだまだ続く。
(おわり)