ゆきぐもり

書いて、歩いて、読んで。京都、水湧くところ。

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  • エジプト珍道中

    エジプトの旅の散文です。2023年5月の連休に。

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#18 エジプト珍道中 開けた蓋は閉めなくてはいけない

※この話にはゲロの描写があります。ご注意ください。 ルクソールでは安宿ではなく高級ホテルに泊まることにしたのだが、そのホテルを舞台にこの旅最大の事件が起きてしまった。 ソフィテル・ウィンターパレス・ルクソール。イギリスの推理小説家アガサ・クリスティが『ナイルに死す』を執筆したホテルのひとつだ。そのあらすじは、ハネムーンでエジプトに訪れた夫婦の身に災難が降りかかるというものなのだが、新婚旅行のさなかの私たちの身にも火の粉が飛んできたのだ。 この日は朝八時からルクソール西岸

    • 3行日記 #191(蹲る男、ひじき、改装工事)

      六月一日(土)、晴れ 小満、麦秋生、むぎのときいたる、麦が熟して畑は黄金色になる。 小満、躑躅照大、つつじおおいにてらす、ツツジがあたりを明るく照らしている。 午前、出町から高野へ川沿いを歩く。 昼、高野から一乗寺へ。 夕方、男が蹲っている。洋菓子屋の前。顔は見えない。白髪の長い髪、全身黒めの服。店から男性の客がケーキの箱を抱えて出てきた。男の存在を知ってか知らずか、足早に去ってゆく。男はしばらくすると立ち上がり、ふらふらと歩き出した。茶色のサンダルはかなり履き古したも

      • 3行日記 #190(落下、ヤモリ、黒子の毛)

        五月三十日(木)、晴れ。 午後、湖池屋のポテチの袋についていたベルマークを切り取った。二点。 夜、なべしぎ、茹で鶏むね肉、宇和ゴールド。キッチンタイマーを取るときに手が滑って落としてしまった。当たりどころが悪く、シンクの角にぶつかった衝撃で壊れ、ガラスのカバー、針、本体の三つに分解して四方に飛び散った。本体とカバーは床で見つけたが、小さな針がどこにも見つからない。顔を床の高さまで屈めて家具の隙間をのぞいたり、キッチンの小物をどけてみたりしたが、どこにもない。十分くらい捜索

        • 3行日記 #189(声、死骸、三度目の正直)

          五月二十九日(水)、晴れ 夕方、マンションの一階を歩いていると、目の前のドアが開いた。中から出てきたのは昨年度に一緒に自治会を担当したひとだった。こんにちは、と声をかけると、こんにちは、と返ってくる。三月くらい、理由はくわしく知らないが、声がでなくなっていた。はやく良くなるといいなと気にしていたので、安心した。お大事に。 夜、麻婆豆腐、トマト、納豆、宇和ゴールド。チャックの散歩、家をでてすぐの角の空き地のところで、チャックが匂いを嗅いで止まった。いつものことなので、そのま

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        #18 エジプト珍道中 開けた蓋は閉めなくてはいけない

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          3行日記 #188(三目並べ、刺青、自転車の墓場)

          五月二十六日(日)、晴れ。 小満、紅花栄、べにばなさかう、紅花が盛んに咲く。 小満、寧母悲松、はるぜみまつをかなしむ、ハルゼミが松を恋い慕って鳴いている。 午前、エジプトの原稿 午後、家でお昼を食べてJRの駅へ。タチアオイの薄桃色の花が咲いていた。二条の絵本の店へ。もうすぐ店を閉じることに決めたらしい。自由研究の本を買った。店長の女性におすすめされたギャラリーに行ってみる。人間の体をモチーフにした作品。その後、細い路地を歩いていると、アスファルトの上に白く○と✗が書かれて

          3行日記 #188(三目並べ、刺青、自転車の墓場)

          3行日記 #187(変わったお客様、リハウス、猫を追う)

          五月二十三日(木)、晴れ 小満、蚕起食桑、かいこおきてくわをはむ、蚕が盛んに桑の葉を食べ始める。 小満、天鷚驚雲、てんりゅうくもをおどろかす、雲雀が天高く飛んで雲を驚かす。 夕方、いつもの喫茶店のカウンターに座っていると、となりの机を拭きに来た店員の女性のようすがおかしい。見ると、蜂のようなちいさな昆虫がいた。店員の女性はいったん戻り、紙コップと紙を手に戻ってきて、蜂のうえに紙コップをかぶせ、下のわずかな隙間に紙を差しこみ、そのまま閉じこめた。変わったお客様ですね、と常連さ

          3行日記 #187(変わったお客様、リハウス、猫を追う)

          3行日記 #186(魚のお盆、雨合羽、貼らせてよ)

          五月十九日(日)、雨 曇天がひろがり、朝から小雨が降り続いていた。 午前、バザーをやっているという情報を妻が聞きつけ、行ってみることにした。途中、壊された燕の巣のところで、あきらめるものかと、また巣を作りはじめようとしていた。会場に到着。のぼり旗には楽市楽座と書いてある。入口には花や家庭菜園の苗、屋内の一階にはおもちゃや古本、洋菓子、コーヒーなどがあり、二階でバザーをやっていた。おばあちゃんが参加していた女性会のバザーとほぼほぼ同じ内容だった。一通り物色し、魚の絵が描かれ

          3行日記 #186(魚のお盆、雨合羽、貼らせてよ)

          #17 エジプト珍道中 回る回る回る

          地球の歩き方を見ていると、一枚の写真が目に飛び込んできた。 りっぱな口髭をはやしたおじさんが、スカートをはいて回っている。実際には写真だからもちろん静止していた。だが、足元まですっぽり隠れてしまうほど丈の長いスカートが、遠心力でふわりと浮いて、下をむいた朝顔の花のように円錐を描いてひろがっていたのだ。 写真の下には「旋舞」と書いてある。調べてみると、イスラム神秘主義スーフィズムの祈りのひとつで、回り続けることで魂が抜けたようなトランス状態となり、神との一体感を感じていたの

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          3行日記 #185(センダン、キャバリア、視線)

          五月十八日(土)、晴れ 午前、出町から高野へ川沿いを歩く。駅を出てすぐの河合橋とその次の御蔭橋の間に、センダンの樹が二本立っている。ひとつはちょうど真ん中くらい、もうひとつは御蔭橋のたもとにある。冬になると葉を落とした枝に茶色の実をつけるのだが、きょう下を通ると、白にほんのり紫がのった花が咲いていた。 午後、高野から出町までの川沿いで、たまにすれ違うキャバリアが向こうからやってきた。二匹の小型犬とすれ違う。小型犬が盛んに吠えだすと、キャバリアは堤防の斜面を登ってやり過ごし

          3行日記 #185(センダン、キャバリア、視線)

          3行日記 #184(破壊、松本さん、片足をあげる)

          五月十七日(金)、晴れ 巣が壊されてしまった燕の話の続き。前回に日記を書いた翌日、壊された巣の前を通ると、なんと巣の一部が戻っていた。とはいえ完璧ではなく、身体をすっぽりとかくまう「巣」というにはほど遠く、身体を乗せることができる「島」、みたいな感じだった。下に落ちた材料を繰り返し運んだのだろうか。涙ぐましい努力だ。でもその巣には一羽が入るのがせいぜいで、もう一羽は変わらず少し離れた不動産屋の自動ドアのセンサーの上にいた。と、ここまで聞くとゆくゆくまたもと通りに住めるように

          3行日記 #184(破壊、松本さん、片足をあげる)

          3行日記 #183(燕の巣、破壊、太い)

          五月九日(木)、くもりのち晴れ 肌寒い。上下ともヒートテックに逆戻り。 夜、チャックの散歩、実家にむかう途中にあるものを見つけた。少し前に、ある場所に燕の巣ができて気になっていた。その場所とは、半年ほど前にコンビニが撤退して空いたままになっているビルの入口で、引き戸のちょうど境目の軒下に巣を作ってしまった。扉を開ける人がいないので、そこに作ってしまったのだろう。大丈夫かなと思っていたのだが、きょう前を通ると、巣が何者かに破壊されていた。そこに巣があることに気づかずにドアを

          3行日記 #183(燕の巣、破壊、太い)

          3行日記 #182(見送る、スルメ、つるつる)

          五月六日(月)、くもり時々雨 立夏、蛙始鳴、かわずはじめてなく、蛙が鳴き始める。 立夏、杜鵑啼血、とけんていけつす、ホトトギスが血を吐くようにすごい声で鳴いた。 午前、おばあちゃんが介護施設へお風呂に入りに行く。車椅子に乗ったおばあちゃんを見送った。玄関で待っているとき、妻がおばあちゃんとじゃんけんをした。じゃん、けん、ぽん。妻がグーをだすと、おばあちゃんは遅れてチョキをだす。妻がゆっくりパーに変えると、おばあちゃんがグーに変える。遅出しで負けていくスタイル。おばあちゃんの

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          3行日記 #181(音の道、麦わら帽子、ピーピー豆)

          五月五日(日)、晴れ 午前、実家の近くの神社のこども神輿が町内をまわるらしいので、散歩しながら神輿を探してみることにした。私も子どものころに参加していた祭りだ。神社に行くと、本殿の扉が開いている。なかで氏子の人たちが座って休んでいた。祭りの日にここでスルメをもらって齧ったのを思い出した。耳をすませると、遠くのほうから、太鼓の音と歓声があがった気がしたので、そちらのほうへ歩いてみるものの、いっこうに姿が見えない。おかしいな、おかしいなとぐるぐる歩きまわり、一時間ほどたったころ

          3行日記 #181(音の道、麦わら帽子、ピーピー豆)

          3行日記 #180(畑仕事、脱輪、鯖江の家)

          五月四日(土)、晴れ 午前、実家の畑仕事を手伝う。畑には、にんにく、じゃがいも、ミニトマト、ブロッコリー、モロヘイヤ、つるむらさき、などが植えられていた。まずは、じゃがいもの苗に土をかぶせた。畝の斜面の端にある乾いた砂をスコップですくって、苗の根本にかける。次に、にんにくの畝の草むしり。普段は草としてなんとなくしか見ていなかったことに気づく。意識しながら向き合うと、草の種類などがわかるようになってくる。きれいにしたあと、苗の間に白い粒の肥料をまいた。最後は蔦状の草を刈った。

          3行日記 #180(畑仕事、脱輪、鯖江の家)

          3行日記 #179(大声コンテスト、ブルーハワイ、将棋)

          五月三日(金)、晴れ 午前、帰省する道中に鯖江で下車し、つつじとレッサーパンダで有名な公園でやっているイベントに寄った。途中、地元のパン屋で昼ごはんを買って、公園の芝生に座って食べた。イベントのステージでは、お昼から大声コンテストなる催しがあるらしい。妻は出よう出ようと乗り気だが、私は渋ってしまった。大声コンテストがはじまった。トップバッターは猫背のおばあちゃん、その後は小さい女の子が続く。順番にチャンピオンの席に座る勝ち抜き戦だった。内容は家族に日頃の感謝を伝えるものが多

          3行日記 #179(大声コンテスト、ブルーハワイ、将棋)

          3行日記 #178(弓なり、逆走、錠剤)

          四月三十日(火)、くもり時々雨 穀雨、牡丹華、ぼたんはなさく、牡丹の花が咲き始める。 穀雨、科斗作陣、かとじんをなす、オタマジャクシが隊列を作って泳いでる。 午前、将棋の駒を買った。クレジットカードで支払ったのだが、店員のおばちゃんにカードを渡したら、タッチ決済の読み取り部に金色のICチップの部分を押しつけて、むぎゅうっと、カードが弓なりにしなって折れるのではと心配になるほど、強く押し当てられた。 午後、雨脚が強くなり家をでるタイミングを失い、夕方にようやく外に出る。買い

          3行日記 #178(弓なり、逆走、錠剤)