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洪水の風景の最初の記憶は私が三歳の時である。弟が二階の柱に縛られていて、村中が流れる泥水湖のようになった。死んだ牛や、豚や、ヤギ、鶏、壊れた家具類などが流されていた。小さな庭の桐の木の細い小枝にはたくさんの蛇が巻き付いていた。毎年のように起こるその泥水湖になった村に町の消防団の人が船を漕ぎ、おにぎりを運んでくる。そのおにぎりの味は特にうまかった。 私達は冬でも、夏の格好であった。足は裸足である。家には塩すら無い。 一度もらったタマネギを水煮で食べた事がある。だが口に含ん
「擾乱」 ああ、眩暈、吐き気、脳味噌は軋み痺れ、心身はのたうち........ 想像を絶する狂おしい情念、観念の炎に焼かれて俺の魂はついに気化された。だが、これは闇の宴の序章にすぎなかった。 この極めつけの狂人と区別もつかぬ言動をしかと観る者はいまい。 この俺自身ですら原始人並と痛感する。共通の基盤となる土台の欠片も無い未知の状況に陥った者しか共感しまい。 だが、その時には既に感覚的言語など不用である。空間自体が言語の海だからである。 透明な血液
「自伝」より一部抜粋 (前略) 祖母は私が小学二年の時に火傷が原因で死んだ。 冬の寒い日に火鉢を跨いで自分の身体を暖めていたのが命取りになった。垂れていた着物の紐が燃えて着物全体に広がったのである。気がついた時にはすでに手遅れであった。その日の夜に息絶えた。 祖母が亡くなってから私の家庭の歯車が狂いだした。祖母の死で私の家族は村にとっては「よそ者」となった。 村は秋になると台風で筑後川の支流の川が氾濫し、毎年のように洪水になっていた。父が独立する為に買っておいた木
「死神」 「人はパンのみに生きるにあらず」だと、ふん!見るがいい、荒野の対決以 降、人間共は俺の意のままである。 所詮、生存とは他の生物の犠牲なく存続不可能である。人間にそれを超え うる能力を与えられていたとしてもその秘密に至るまでの苦悩に耐えうる者 などざらにはいない。故に人は限りあるこの世の生を楽しむのだ。虫けらの ような連中を信じようとしたお前の負けだ。奴等によってお前は磔にされ、 選んだ弟子にも見放されたとは情けない話だ。 見よ!今、お前の教えは実
「悲劇の果実」 古より隠されしその禁断の果実を食したる者の運命は非業ならぬ業を背負い生きると知ることにある。 秘伝書には秘密の蜜とも記されているのだが、その蜜は生存を抹殺する猛毒でもある。ゆえに使用法自体も果実を食いたる者しか知ることは出来ない。 いつの世にもこの果実を食べたと錯覚する者多し。今日でもそのように語りつつ「悲劇人」と称する人物達は八百屋に並ぶ果実さながらにそこかしこに存在する。 市場にて売り買いせる商品の名札を首からぶら下げて自己宣伝に忙しい。
いろ(ロ) いろはにほへとちりぬるをちりぬるをちりぬるをちりちりぬるぬるをちるちりもせずちるちることこれいかんせんいかんせんいろはにほへとちりぬるをちりぬるをちりにちらずしてちりぬるをちりもせずちりぬるをちりぬるふりねむりねむりねむるをちりというちるといふいろくるいひとひとびとこれあさきゆめといわゆるいわゆるひといたれどそれしるひとなくひといろはにほへとほえてちりちりちるというひとひとひとくるしかなしくらしひとひはひとひとひとのなかにひいろといえどもひいろにならざるいわざる
「階段に座る男」 地下鉄の銀座駅出口に近い階段の中ほどに中年の浮浪者らしき男が座っていた。 私はその男と眼が合った。男はにやりと笑みを浮かべて軽く会釈をした。 その瞬間私の全身に或る種の戦慄が走った。私は特に階段を上りその男を通り過ぎた。 だが、私は自分に走った感動にも似た戦慄が何故起きたのかと思い、少し離れた場所からその男の様子を観ていた。 その男は見境なく会釈をしている訳でもない。だが、時折会釈をしている。 私は会釈された人物を観察した。会釈された人物の殆どは一瞬薄気
「パッション」 拙著 詩集・暗き淵より 激しい轟音と共に俺の意識は上昇し、発光に包まれ、失神した。 俺の全細胞は霊光に焼かれた。名状し難い至福と苦痛によって俺の意識は変 容した――― 狂おしい覚醒が灼熱した・・・・・・ 心身はのたうち、俺は苦痛の極限状態の甘美に痺れた。 地上を超えた絆が俺を捕らえては引きずり、粉々にした・・・・・・ 俺の眼前に殉教者の亡霊共が嵐の如く容赦無くまとわりついた。 俺は両極の拷問を熾烈に味わった。避けがたい運命に俺は呪縛された
「殉教 」 生も死も変容にすぎぬ。これを言い切る者は この世では死者となる。 意識自体は不可知なる実体であり、一切は意識である。 変容する意識の意識化、これが我々の生である。 一切の現象は比喩にすぎぬ。 全てを相対化して惰眠を貪り眠る者よ。 電光に打たれよ。雷鳴に怯えよ。 さては無の恐怖を味わえ、底無しの絶望を、孤独を、絶する悲哀を・・・・・・。 愛を知らぬ者共よ、自虐を存分に楽しめ。 地獄などは序の口だ、無明などとは笑止! 狂気とは眠りの夢、夢の眠り、自
いろ(イ) ひといろいろありいろいろありひといろにまみれいろにまじれどいろをしらずひといろをみずいろをきらいきらいひたるをしらずいろをきらうひとのいろいろひたりてひたるをしらずいろくるいていろきらうかなしみていろをきらえどはなるることなしはなるるはいろをしらずいろをしらずいろをしらずねなしうきたるひとひとびといろいろありていろのいろしらずひいろのひいろのかなしみのいろひかんらくかんのいろいろ ひといろいろいれどまさにいろいろいれどいろのなかひいろのなかおのずからはいるひと
「いろは歌」47文字に込められた世界観 いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせすん 「色は匂えど散りぬるを我が世誰ぞ常ならむ有為の奥山今日越えて浅き夢見じ酔ひもせず」 「諸行無常、是生滅法、生滅滅己、寂滅為楽」 (涅槃経第十四聖行品の偈)の意を和訳伝承。(広辞苑より) この内容は「色即是空空即是色」と同じ意識状態である。 世の推移するあらゆる感覚的現象から解脱し、またこの感覚界に於いて敢えて生存
「ふみくるひ」 ふみくるひたるひとひにひびにされどこれいかむともいしがたきものあり されどこれさだめとしるひとやむことなしやなすやこれいかむともしがた きものなれば よよのながれにうきつしづみつつらつらつれづれしつようにふみくるひにひ たひたりいりいるほかなしやとふみくるひひとやむことなしやむることなし やをひをふみをくるひかきかきまくるひなり
「奇妙なる光景」 おれの眼前に繰り広げられる奇妙な光景が奇異に感じたのを今では薄れた記憶のなかにしか見いだせぬのはこれこそ奇異なことではないかとも思うのだがそれすらも自分の記憶なのか現実に見たものであるのかの境界が曖昧模糊とした状態であるのは今のおれには確かめるための基準すらあやふやなのでただ眼前にあいもかわらず定かならぬ形やら動きやら色いろなるものらの様々な音調とも軋みと
私の妊娠経過は、10カ月間通して概ね順調なものでした。ただ一つの出来事を除いては…。タイトルにもある通り、妊娠初期(14週)で子宮筋腫が見つかったのです。子宮筋腫自体は、それほど珍しいものではありません。(気になる方は自分で調べてみてね)ただ、その発覚の仕方が、私史上最大にヤバかったのです…! 今回はゴールデンウィークに私を襲った悪夢のような出来事を振り返りながら、時系列を追って皆様にお届けしたいと思います。 《注意》私が見聞きしたことを記憶を頼りに書いていますので、医療