見出し画像

スカイとマルコ(8)・奇跡は作られるもの

その日、おじいさんわんこは柵に戻らなかった。

さゆりちゃんが、おじいさんわんこの首にくっついて離れなくなったのだ。
おじいさんわんこも、とろける様な目でさゆりちゃんを見つめては、優しく、さゆりちゃんの柔らかそうな頬をそっと舐めた。
お父さんもお母さんもその様子に目を細めた。

「この子にします。さゆりを守ってくれたこの子に。」

引き取り手続きを終え、自分がこの家族に選ばれ、一緒に帰るんだと知ったおじいさんわんこは、信じられな気持ちでいっぱいだった。スタッフ全員が見たことのない程、全身を震わせ、尻尾を振り、喜びと感謝を示した。そして、別れ際、ケイタ君の元に近寄り、一生懸命、何かを伝えようと、目をじっと見つめた。そして、ケイタ君の手の甲を、「後は頼む。」というように人舐めして、さゆりちゃんの元に駆け寄り、ガードマンの如く、ピタリと横に座り、誇らしそうに去っていった。

「3年もいたんだよな。人間で言えば、20年以上だよ。うちに保護された時が5歳ぐらいだったのかな。大型犬だから、今、人間なら60歳を超えたぐらいかなぁ。もうリタイヤって歳だけど、あの顔はまだまだ働けます。良い仕事しますって感じだったなぁ。いかにせよ、あの歳であんな良い家族に迎えられるなんて奇跡だよ。」

小林さんが感慨深そうに呟き、他のスタッフも頷きあった。

あれは奇跡なんかじゃない。

ケイタ君は、反論の言葉をグッと飲み込んだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?