見出し画像

黒ネコのクロッキー⑥白ネコ先生と三毛ネコ先生1

 (白ネコ)何を言っているのかしら。ネコは駄目ですって。馬鹿なのですって。
 たしかに隣の部屋で飼われている、あの小太郎といったかしら、若い柴犬の。あの子に頼めばきっと誰かに知らせて救急車でも呼んでくれるでしょうけど。
 小太郎は、いつも何か人間の役に立ちたくて仕方がないって様子だものねえ。私が窓の前を通るたび真ん丸な黒い目でじっと見るのよ、いたずらでもしようものならすぐ人間に言い付けようとして。
 三毛ネコさんもあの小太郎には始終やられているでしょ。
 (三毛)ああ、そうだよ。まったくうるさい犬だよ。私なんかわざとそばに寄ってからかってやるのさ。まあ頭が単純なだけで悪いやつではないよ。
 しかしこの人間は、たとえ小太郎を呼んで救急車で病院に行ったとしても、これではもう助かるかどうか。体中に透明なチューブをくっつけられて結局死んでしまうだろうよ。なむなむ。
 ほら、クロッキーがいいところに来たよ。

 (クロッキー)これはこれは、白ネコ先生も三毛ネコ先生もおそろいで。
 ああ、この人間はやっぱりこんなふうになってしまって。まだ息はしているようですね。
 昨日、私を追いかけて来た時も相当苦しそうだった。足がもつれて歩いているのか走っているのかわかりませんでした。
 私をたずねて来たのでしょうか。
 (三毛)さあどうなのかねえ。まったく気の毒な人間だねえ。こんなに太ってしまったら、奥さんも逃げちまうよ。娘は父親が迎えに来るのを保育園で待っているだろうに。かわいそうな子だ。
 (白ネコ)この方、娘さんがいるのね。娘さんの願いごとを知って、食事を減らしていたそうよ。七夕の願いごとの短冊に、パパがご飯を食べるのをやめますように、って書いてあったのですって。だから…
 (クロッキー)いま何とおっしゃいましたか、白ネコ先生。この人間が食事を減らしていたと、言ったのですか?
 (白ネコ)ええ、気を失う前に確かに言っていました。娘さんはこの方の体を心配していたのね。だから頑張って食事を減らしていたのよね。
 そうよね、三毛ネコさん。
 (三毛)けっ。減らしたと言ったってほんの少しだろう。この大きな体でスプーンにひとつぶん減らしても何も変わりはしないよ。
 ああ、これで娘の願い通り本当にご飯が食べられなくなってしまった。皮肉なものさ。
 (クロッキー)いえいえ、ほんの少しでも食事を減らしていたのであればまだ望みがあるかもしれません。そんな気がします。
 よかった。先生方、ありがとうございました。私はまたあちらへ参ります。この人間をどうしても助けたいのです。娘さんのためにも、この者のお母上のためにも。
 (白ネコ)まあ、この方のお母様はあちらにいらっしゃるのね。
 クロッキー、あなたは早く博士のところへいらっしゃい。この方は三毛ネコさんと私で見守りますから、まだしばらく大丈夫でしょう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?