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黒ネコのクロッキー⑧白ネコ先生と三毛ネコ先生2

 ねえねえ、三毛ネコさん。こちらに降りていらっしゃいよ。そして私とお話しましょうよ。この方、もうそろそろ目を覚ますわよ。お顔の色がだんだん明るくなってきたもの。
 それにしても、どうかしらねえ、人間って本当は愚かなのかしら、賢いのかしら。私は不思議に思うのよ。素晴らしい発明をして、大きなビルを建てて、そりゃ私たちネコは人間の真似なんて出来やしないけれど、難しい本も、こうして前足で開いたり閉じたりするだけで、人間の文字が読めるようになるわけではないけれど。
 でも、眠くなったら目をつむって、気が向いたら外に出て、つまらない日は小太郎と遊んでやって、ときどき裏のお宅でおいしいものをいただいて。幸せってこういうことでしょう。
 そうして、いつかその時が来たら、ここからなるべく遠くに離れていつものように静かに眠ってしまう。そうすれば、またどこかで目が覚めるのだから。
 もちろん前のことは忘れてしまうけれど、どこに行っても私たちネコは変わらない。

 そうよねえ、三毛ネコさん。

          ✳︎

 ああ、そうかねえ、どうかねえ。
 こう暑い日が続くといるところがない。さっさとその時が来て、ちいとは涼しいところに行きたいものだね。まあ、この部屋はなぜだか冷んやりとしてよく眠れる。
 さて、そろそろ降りるとしよう。こいつが目を覚ますならクロッキーも戻って来るだろう。
 どれどれ、ご飯が食べられなくなった人間の様子はどうだい。ああ、何とか助かったようだね。まぶたがぴくぴく動いているからもう大丈夫だろう。
 まあ、私はねえ、人間なんてどうだっていいのさ。ただ、心や魂の話をしたいってやつは別だよ。そういう人間はあたしたちネコを見るときっと足を止めて、ちっちっと舌を鳴らして手を差し出す。
 こっちだってまさか一度でごろごろのどを鳴らして近づいたりはしないけれど、次か、その次くらいなら挨拶くらいしてやろうって気になるものさ。
 といっても、人間なんて気まぐれだからねえ。心や魂の話だって…

 おや、むっくり起き上がったよ。

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