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MAD LIFE 377

25.最後の嵐(12)

5(承前)

「おい、八神! しっかりしろ!」
 郷田が這いずりながら八神に近づく。
 よほど左脚が痛むのか、その表情は苦痛に歪んでいた。
 ……終わった。
 その光景を見下ろし、俊はほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫か?」
「俊君、怪我はない?」
「坊主、よくやった!」
 洋樹を先頭に、大勢の人たちが俊の周りに駆け寄ってくる。
 父に笑顔を向けたそのとき、
「……これで勝ったつもりか?」
 え?
 郷田の声が聞こえた。
 皆、表情を変えてその場に立ち止まる。
 気絶した八神の上着のポケットから、郷田は拳銃を取り出したらしい。
 銃口は郷田にもっとも近い場所に立っていた瞳に向けられていた。
「こうなりゃやけくそだ! ひとりでも多く地獄へ道連れにしてやる!」
「やめろ!」
 中部が銃を構える。
 同時にふたつの銃声が鳴り響いた。
 瞳の目が大きく見開かれる。
 ――姉さん!
 俊は息を呑んだ。
「友恵!」
 突如現れる人影。
 彼女の前に立ちふさがったのは洋樹だった。
「おじさん!」
 瞳が信じられないといった様相を浮かべる。
「父さん!」
 俊は声を枯らして叫んだ。
「春日さん!」
「――!」
 皆はその光景を呆然と見つめるしかなかった。
 鮮血が飛び散る。
 郷田は倒れ、そして洋樹も彼の弾を受けて地面に勢いよく転がった。

(1986年8月24日執筆)

つづく

1行日記
今日は県民体育大会――おひさしぶりの試合です!

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