黒田研二

作家

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  • ろんぐろんぐあごー

    デビュー以前に書いた素面では到底読めない作品をひっそりと公開。

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    様々な事情で世に出ることのなかった作品たちをご紹介。

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MAD LIFE 380

25.最後の嵐(15)6(承前)  洋樹はもう一度天井を見上げ、瞳と出会ったときのことを思い出した。  あれからいろいろなことがあった。  でも、まだ一ヶ月。  瞳と出会ってから一ヵ月しか経っていないのだ。 「いろんなことがこの一か月の間にあったな」  そう口にする。 「瞳。おまえと出会ってから一年以上が経過したような……そんな気がしてならないよ」  瞳は笑った。 「私も同じ」  そして、最後にもうひとこと付け加える。 「もしかしたら本当にそうなのかもね」 第四部 予期せ

    • MAD LIFE 379

      25.最後の嵐(14)6(承前) 「今日は三人、おそろいか」  洋樹は笑いながらいった。 「どう? この花、綺麗でしょ?」  色とりどりの花を花瓶に挿しながら瞳がこちらを見る。 「この青いのは私が選んだんだよ」 「姉さんは青が好きなんだね。今日着てる服も青だもんな」  そう口にしたのは俊だ。 「私も青、好きだよ。それにピンクも」  はにかみながら恵美がしゃべる。 「あ。私もピンク、大好きだよ」  瞳の言葉に、 「本当に?」  恵美は嬉しそうに笑った。 「私とお姉ちゃんって気

      • MAD LIFE 378

        25.最後の嵐(13)5(承前) 「いやあっ!」  瞳は泣き叫びながら、洋樹にすがりついた。 「どうして? どうして私を助けたりするの?」 「当然だろ……」  洋樹がかすれた声でいう。 「おまえは俺の……」  そこまでしゃべり、洋樹は意識を失った。  顔から一気に血の気が引いていく。 「死んじゃ駄目! 死んじゃ駄目だよ、パパ!」 「……え?」  浩次が驚きの表情を瞳に向けた。 「パパ? じゃあ、春日さんが……」  「そうだよ!」  瞳は叫んだ。 「私のパパ! 私を命がけで守

        • MAD LIFE 377

          25.最後の嵐(12)5(承前) 「おい、八神! しっかりしろ!」  郷田が這いずりながら八神に近づく。  よほど左脚が痛むのか、その表情は苦痛に歪んでいた。  ……終わった。  その光景を見下ろし、俊はほっと胸を撫で下ろした。 「大丈夫か?」 「俊君、怪我はない?」 「坊主、よくやった!」  洋樹を先頭に、大勢の人たちが俊の周りに駆け寄ってくる。  父に笑顔を向けたそのとき、 「……これで勝ったつもりか?」  え?  郷田の声が聞こえた。  皆、表情を変えてその場に立ち止

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          MAD LIFE 376

          25.最後の嵐(11)5(承前)  突風。  それはまさに天の救い――神風だった。  突然の強風に砂煙が舞い上がる。  郷田は砂を避けるために目を閉じた。  ……今だ!  俊はチャンスが訪れるときをずっと待っていた。  犯人たちの一瞬の隙。  それを狙っていたのだ。  身体をひねり、郷田の左脚を力いっぱい蹴る。 「ぐっ……」  郷田は奇妙な呻き声をあげ、バランスを崩した。  まともに戦ったらとても太刀打ちできる相手ではなかっただろう。  しかし、彼は左脚を負傷していた。  

          MAD LIFE 375

          25.最後の嵐(10)5  勝利の女神は郷田と八神に微笑みかけようとしていた。 「決着はついたな」  郷田はにやりと笑うと、左脚を引きずりながら歩き出した。  彼は右手に拳銃、左手に瞳を抱えていたので、瞳に八千万円の入ったスーツケースを持たせたようだ。  銃口は常に瞳の頭を狙っている。  その状態ではどうすることもできない。  皆、黙って道を開けるしかなかった。 「八神、行くぞ」 「あ、ああ」  八神は両腕にそれぞれ俊と真知を抱え、郷田のあとに続いた。 「真知……」  徹は

          MAD LIFE 374

          25.最後の嵐(9)4(承前)  浩次と郷田はほぼ同じ位置に倒れていた。  どちらも銃弾は脚をかすめただけらしかったが、出血はかなりひどい。 「お兄さん! 死んじゃ駄目!」  瞳が涙を浮かべながら兄に叫ぶ。 「馬鹿いうな。……俺が死ぬわけないだろう」  浩次は笑いながら答えた。 「喋っちゃ駄目よ、浩次さん」  江利子が必死の形相で止血をしながら浩次にいう。  俺を心配してくれる人間はこんなにも大勢いるのか。  脚の痛みに顔を歪めながらも、浩次は大きな幸せを感じていた。 「

          MAD LIFE 373

          25.最後の嵐(8)4(承前) 「お兄さん!」 「浩次さん!」  瞳と江利子は同時に叫ぶと、浩次のそばへ駆け寄ろうとした。 「瞳、危ないからやめろ!」  晃は慌てて瞳を引きとめようとしたが、彼女はすでに数メートル先だ。 「おい、瞳。待てってば」 「うう……」  中西は小さく呻きながら、身体をゆっくりと動かした。 「中西! 大丈夫か?」  洋樹が中西の肩を揺する。 「はい……大丈夫です。銃弾は太ももをかすめていっただけですから」  そう口にした中西の顔色は決してよくはない。

          MAD LIFE 372

          25.最後の嵐(7)3(承前)  そのとき、ナイフは倉庫の壁に当たり、跳ね返って、ちょうど俊の足元に転がってきたのだった。  俊はふたりに気づかれぬよう、脚を伸ばしてナイフを手に入れると、刃の先をロープに押し当てた。  ナイフを静かに動かし続ける。  両手の使えない彼にとって、それはひどく困難な作業だったが、ロープは確実に緩み始めていた。  あと少し……ということで銃声が轟く。  俊は驚いて顔を上げた。  目の前でふたりの人間が同時によろめく。  郷田と浩次だ。 「郷田!」

          MAD LIFE 371

          25.最後の嵐(6)2(承前)  かつての部下の残虐極まる行動が、浩次には我慢できなかったらしい。 「きさまぁっ!」  浩次が郷田に向かって突進する。 「やめろ、間瀬!」  中部はそう叫んだが、彼は聞く耳をまるで持っていなかった。 「きさまのような奴は俺がぶっ殺してやる!」 「黙れ!」  郷田の手にした拳銃の先が浩次に向けられる。  やむを得ない。  中部は腰の拳銃に手を回した。  銃声が鳴り響く。 3  俊は背中の後ろで縛られた両手を懸命に動かした。  あと少し……あ

          MAD LIFE 370

          25.最後の嵐(5)2(承前) 「う、動くな!」  八神が中西に向かって叫ぶ。  だが、中西はその言葉を無視して走り続けた。 「それ以上近づくと、本当にこいつらの命はないぞ!」 「大丈夫だよ!」  そう叫んだのは俊だ。 「こいつは臆病者だ。人を殺すことなんてできやしないから」 「そうか」  中西は俊の言葉を信じて、さらにスピードを上げる。 「く、来るな!」  八神の慌てふためく声が闇に響いた。  大勢の警察官に取り囲まれている郷田が拳銃をかまえる。  それに気づいたのは浩

          MAD LIFE 369

          25.最後の嵐(4)2(承前)  真知の声がした方向にライトが移動する。  三つの人影が浮かび上がった。 「八神!」  ライトの中の人影を見て浩次が叫ぶ。 「八神……おまえまでどうして……」  八神の手にしたジャックナイフの先は真知の喉もとに当てられていた。 「真知!」  娘のそばへ駆け寄ろうとした徹に、 「動くな!」  郷田が怒号を飛ばす。 「動くと娘さんの命はないぜ」  徹は立ち止まるしかなかった。 「……卑怯者め」  唇を噛んでそう呟く。  三つの人影が浮かび上がっ

          MAD LIFE 368

          25.最後の嵐(3)2 「春日さん」  後ろから軽く肩を叩かれる。  振り返ると長崎晃が立っていた。 「一体、なにがあったんです? 警察官がたくさん集まっているみたいですが」 「君こそどうしてここに?」 「ただ散歩をしていただけですけど――あ」  晃が驚いたように目を見開く。  彼の視線の先には瞳が立っていた。 「……晃君」  瞳は明らかに動揺している。  そのとき、銃声が轟いた。 「それ以上、近づくな」  警察官に銃を向けながら郷田が叫ぶ。  彼の撃った弾は警察官の頭上

          MAD LIFE 367

          25.最後の嵐(2)1(承前) 「確かに金は頂いたぜ」  徹の前から立ち去ろうとした男に、 「中身を調べないのか?」  徹は声をかけた。 「調べる必要はねえさ」  男が答える。 「もし、このスーツケースの中身が金じゃなかったら、あんたの娘は死ぬ。それだけのことだ」 「……真知は無事なんだろうな?」 「ああ、今はまだ元気だよ。じゃあな」  男は徹に左手を挙げた。 「今だ!」  ふたりのやり取りを見ていた中部が無線機に向かって叫ぶ。  息をひそめていた大勢の警察官がいっせいに

          MAD LIFE 366

          25.最後の嵐(1)1  午前一時を数分過ぎていた。  小崎徹は八千万円の入ったスーツケースを強く抱きしめながら、犯人が現れるのを待っている。  彼から少し離れ場所には、仲睦まじい恋人になりすましたふたりの刑事が、海を眺めるふりをしながら座っていた。  さらに、そこから十数メートル距離を置いた堤防付近には、大勢の警察官が集まっている。  ……ずいぶんと風が強い。  徹は海風を避けながら、腕時計に視線を落とした。  さっきから何度時計を確認しているかわからない。  午前一時八

          MAD LIFE 365

          24.それぞれの行動(16)7(承前) 「坊主。あんまり威勢がいいのも考えものだぜ」  郷田が俊に向かっていう。 「確かに八神は臆病者だけどな、その分、カッとなるとなにをやらかすかわからねえ。俺よりずっとおっかねえ奴なんだぞ。命は大切にしたほうがいい」  郷田の迫力に、俊はなにもいい返すことができなかった。 「もうやめておいたら? あんたたちの計画は絶対に失敗するんだから」  真知の言葉に、郷田はにやにや笑う。 「お嬢さん。俺たちがどうして、アジトと金の受け渡し場所を同じに