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Kindle出版の呼び声、または私は如何にして小説投稿サイトに見切りをつけて電子書籍を作るようになったか


はじめに

この記事になにが書いてあるか

・筆者がKindle出版を決めるに至った経緯
・Kindle出版を経験しての所感やメリットと考えた点
・Kindle出版して1か月の結果と課題
・自著の宣伝

誰がこの記事を書いているのか

 こんにちは、黒崎江治です。小説以外を投稿するのはたいへん久しぶりです。本記事は以前のシナリオ創作論よりも広い対象に向けてのものなので、まずは軽く自己紹介からはじめます。

 私は2019年に講談社レジェンドノベルスから『滴水古書堂の名状しがたき事件簿』でデビューし、その後も『Role&Roll』や『ビブリオテーク13』といった書籍に『新クトゥルフ神話TRPG』というゲームのシナリオも寄稿・掲載しています。

 印税や原稿料を受け取ったことがあるので、一応はプロということになるんでしょうが、継続的にお仕事や収入を得ているわけではないので、なんとなくセミプロぐらいの感覚でいます。ちなみに上記小説を出したレーベルは2020年10月を最後に小説が刊行されていません。南無。

 まあとにかくそんな感じの半端な人間です。ダイエットもうまくいかないし。

最近はどんな小説を書いているのか

『滴水古書堂の名状しがたき事件簿』を2巻出し(て実質打ち切りになり)、4巻分ぐらいの量で完結させてネットに投稿したあと、近未来の伊勢佐木町を舞台にした小説を1年ぐらいかけてボツにしてから、長編のファンタジーをふたつ書きました。

近代×ドラゴンの友情物語である『蒸気機関車に竜を乗せて


千夜一夜物語をリスペクトした『アブーバースの妖石術師

 これらは現実世界と違う場所を舞台に普遍的なテーマを扱っているので、本格ファンタジーに分類されると思うのですが、本格ファンタジーの定義は色々論争があるみたいなので、あのころのファンタジー、みたいな感じでボカしておきます。そういうものを書いています。

なんでこの記事を書いたのか

 第一の目的はもちろん宣伝なんですが、最近Kindle出版というはじめての試みをしたこともあり、経緯や感想など備忘録的に書いておきたいなと思ったからです。儲けるためのノウハウとかではないです。色々記事を読んだ限り、Kindleで儲ける早道は『Kindleで儲ける早道』みたいなのを量産して身内で評価し合うことです。多分。

 あとKindle出版に関する説明は省きます。要は簡単に電子書籍が出せるよって感じのヤツです。

いかにしてKindle出版の呼び声を聞いたのか

 Kindle出版(Amazon)側からすると別に呼んでねぇって話なんですが。

小説が読まれないんだけど(半ギレ)

 私は現時点で10年ぐらい小説を書いていて、小説家になろう、カクヨム、note等で発表してきました。『滴水古書堂の名状しがたき事件簿』もそのひとつ。これは運よく編集部の目に留まったんですが、そのときの評価は100ptをちょっと超えたぐらいでした。書籍化される作品は20,000ptぐらい稼いでいるのが普通なので、私の作品はかなり例外。

 どうだすごいだろう、と言いたいのではありません。要するに書籍化に堪えうる小説であっても、サイトのユーザーにはあんまり読まれてなかったわけです。最近書いたヤツも書籍化に堪えうると思ってるんですけど、同じくあんまり読まれてません。

 作品が読まれない要因は無数にあると思うんですが、その中でも大きなものに、投稿しているサイト利用者の偏りがあると考えています。noteはちょっと違いますが、小説家になろう、カクヨムといったサイトには、特定の要素を好む利用者が明らかに多いです。

 この特定の要素というのがなんなのかというのは、サイトのランキングや受賞作品なんかを見るとすぐに分かります。全体の傾向としては、直接的な欲求充足やカタルシスに関するものが多いですね。

 そういったものを好む利用者が評価やランキングに影響を与えるので、必然、その特定の要素を持つ作品ばかりが目立ちます。すると、他の嗜好を持つ利用者はサイトから離れていきます。好きなものが見つからないからです。それが続いた結果、利用者が均質になっていき、サイトの投稿作品も均質になっている、つまり多様性が失われているものと思われます。 

 まあこのあたりは半分ポジショントークですし、割とよく言われていることなので、これ以上掘りさげなくてもよいでしょう。

じゃあ賞に応募すればいいじゃん

 というわけで、いわゆる小説の新人賞にも繰り返し応募しました。箸にも棒にもかからなかったわけですが。

 小説家になろう・カクヨムなどの投稿サイトが主催するような賞だと、上で書いたような特定の要素が重視されます。事実、受賞作にもそういった要素のあるものばかりが選ばれています。これは全然手ごたえがなかった。

 そうでない、より一般的なエンタメの賞は、ハイコンセプト・斬新なものが求められたり、エンタメ性が強く求められたり(これは当たり前だけど)しています。たくさん売ることが大事なので、アピールポイントが分かりやすく、マジョリティに刺さりそうなものが選ばれる印象です。こちらも講評含め、あまり手ごたえを感じられず。

 受賞して出版されたものを買って読んでみても、ストーリーやテーマや文章が秀逸かというと……結構な割合でうーんという気持ちに。もちろんこれは妬み嫉みモリモリな個人的感想ですが。

チヤホヤされたいならニーズや賞の傾向に合うものを書けボケカス」という正論は脇に除けておきましょう。

 そもそも環境に合わせられるような人間が小説とか書かなくない? と思ったけど、商業的なマインドが強い(プロ意識が高い)人は普通にやるか

 ちょっと鬱屈した部分が漏れてしまいました。ここでようやく表題に戻ります。

 多様性の乏しいプラットフォームで作品を発表し続けることに徒労感を抱き、自信作が賞に落ちて気が狂いかけた私は、「場所を変えたらもっとうまく戦えるのでは?」というKindle出版(Kindle ダイレクト・パブリッシング)の呼び声を聞くことになります。そしてあまり深く考えることなく、勢いのまま、新しいプラットフォームの利用を決めたわけです。

Kindle出版についての所感

 はじめての出版からまだひと月も立っていないので、経験という点では心もとないですが、現時点で分かったことや感じたことを書いていきます。具体的な出版方法は書きません。検索すると山ほど出てきます。

小説投稿サイトとはどう違うんだい

・出版するために一定の手間がかかる 
 電子書籍として流通に乗せることを考えるとKindle出版は非常に手軽ですが、文章を流し込めば発表できる小説投稿サイトよりは手間がかかります。面倒くささという点ではデメリットですが、無闇な参入(ライバル)が減るという点ではメリットかと思います。といっても、口座の登録やファイル形式変換程度のものなので、慣れれば楽です。

・目に入る作品が多様である
「Kindle」「ランキング」あたりで検索をかけてみると、それぞれのジャンルごとに、有料/無料のランキングが表示されます。夏目漱石の「こころ」とAIで作ったグラビアが隣に並んでるのを見て面白いなと思いました。

  多様な作品が目に入るということは、多様な作品が売れているということで、すなわち多様なニーズを持った消費者がいるということです。投稿サイトでは見向きされなくても、ここならば……という希望が持てますね。

・消費者と直接繋がることができる
 ここで言っているのはお金を出してくれる消費者。投稿サイト経由で消費者に届けようとすると、出版社に売れる商品だと評価される必要があります。はじめに評価されなければそのままうずもれ、一度出版しても売れると評価されなければ打ち切り・次回のチャンスなしです。でも大きな商売は常に残酷さと冷徹さを孕むので、このやり方を過度に批判するつもりはありません。念のため。

 一方、Kindle出版だとダイレクトに消費者と繋がります。ボツ・打ち切りにならない、原稿完成から流通までが早い、売り上げに対する著者の取り分が多い、あたりが分かりやすいメリットになるでしょうか。

 ほかにも色々あると思いますが、私が感じた違いとしてはざっくりこんなところ。デメリットはいまのところ感じません。元手も必要ないので。他の方の意見が気になる人は、Kindle出版体験記みたいな記事がたくさんあるので、検索してみるとよいでしょう。

出版した結果どうだったんだい

 3月9日にひとつ、14日にひとつ電子書籍を出版し、紙書籍(ペーパーバック)も作りました。ただ、いまのところ売り上げはゼロ、Kindle Unlimited 利用者のページビューもゼロです。悲しみ。

 それでも発売直後にそれぞれ5日間の無料キャンペーンを実施したところ、合計で50冊以上のダウンロードがありました。なので、手ごたえもゼロというわけではありません。

 ちなみに短期間で10冊ほどダウンロードされると、ジャンルによってはランキングに乗ります。私の作品もそれぞれ最高で1位、2位になりました。文学・評論>ホラー・SF・ファンタジー>無料、みたいな狭い部門ではありますが。

 もちろんちょこっと宣伝はしました。でも私のX(Twitter)のフォロワーが500ぐらいなので、新着通知やランキングだけを見てダウンロードしてくれた人もいるはずです。

 これは大事なことなので強調しますが、マーケティングやパッケージングやコマーシャルからは逃れられません。そこは腹を括りましょう。表紙を外注して見栄えをよくするのは比較的簡単にできます。SNSでの宣伝は手軽ですが効果が怪しい気がします。作者同士の相互評価は、情報商材関連だとよく見かけますが、おすすめしません。規約的にもダメ。知り合いに「よかったらレビューよろしく」ぐらいはセーフです。 

 そういうわけで色々書きました。総合してみると、ジャンルや作風や要素によって不遇を感じている物書きの皆さんには、Kindle出版、おすすめできるのではないかなと思います。

じゃあお前の小説見せてみろよ

 逃れ得ぬコマーシャルの一環として、改めて自作を紹介します。「フーン書籍化に堪えうるクォリティねぇ……」「色々知った風に言ってるけど実際の作品はどうなんだよオラ」と思った人は、ページに飛んで試し読みしてもらえると嬉しいです。購入してくれるともっと喜びます。評価や感想は言わずもがな。Kindle Unlimitedに登録している人は無料で読めます。


『蒸気機関車に竜を乗せて』

 ピーター・ポール & マリーの『パフ』を聴いたことはあるでしょうか。大人になった少年が魔法の竜のもとを離れ、竜は悲しみに暮れる……という内容の歌詞が心に染みる名曲です。この曲をモチーフにした本作は、成長と友情、懐かしい子供時代がテーマです。産業革命を経た架空の王国で、記者見習いのジャックラインと竜の双子が、四百年前にいた少年の足跡を辿ります。ヴィクトリア朝の雰囲気が好きな人にはおすすめ。


『アブーバースの妖石術師』

 千夜一夜物語(アラビアンナイト)をリスペクトした本作。罪を背負った魔術師と秘密を宿した少女の旅が、いくつもの説話や回顧とともに語られます。西洋風ファンタジーとひと味違った世界を駱駝で旅しつつ、いにしえの賢人や妖霊ジン屍食鬼グールの気配を感じましょう。

(2024.4.16追記)『アブーバースの妖石術師』については、この記事執筆からまもなく、とくめい さまよりとても好意的なレビューをいただきました。内容や雰囲気の参考にもなると思うので、紹介します。

 以上、お読みいただいてありがとうございました。ダイエットがんばります。

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