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Gamma RayのLand Of The Freeは看板シンガーをクビにしたアーライ神の意地が光った超名盤

世の中にはどうしてもだめなものというのが存在します。
ヘビだったりナマコだったりシイタケだったり、色々な意味で「どうしても無理」という物です。
私の場合少し前までは干しシイタケを戻して醤油と砂糖で甘辛く炊いた物とWalls of JerichoのカイハンセンのVoがそれでした。

Gamma Rayの看板シンガーであるラルフ・シーパースがクビになったという話を聴いたのは確か1994年でした。
記憶をたどっているかのように書いていますが日時は調べたので間違いないです。
当時懇意にしていたGamma Rayのファンクラブの会長から聞きました。

ラルフの解雇に関してはあまりどこにも書かれていないので私の知っている限りの事を書きますが、事実かどうかは各人でご判断ください。
あくまで当事者に近しい人からの又聞きですし、一方から聞いただけの話なので誤解なども含まれているかもしれません。

まず問題として聞いていたのはラルフとカイのバンドに対する熱量の違いです。
ラルフは当時の本職の仕事(配管工だったか機械工だったと聞きましたがこの辺は定かではないです)が気に入っておりバンド活動のために仕事を犠牲にする、というような感じではなかったらしく。
また当時ラルフは他のメンバーに比べ遠方に住んでいたた事もあり、ラルフ待ちで練習が出来ない、レコーディングが進まないというような事態がちょくちょくありカイはその事について不満に思っていたらしいです。
ラルフはラルフでGamma Rayのアルバムでちょくちょく自分以外のシンガーが歌う事があるのが不満だったようです。(こちらはB!のインタビューか何かでラルフの発言を見かけました)

そんな折、judas priestからロブ・ハルフォードが脱退、ラルフは後任シンガーのオーディションを受けに行きます。
そしてそれを聞いたカイがラルフの解雇に踏み切ったという事らしいです。

カイが怒っていたかというとそれは当然怒っていたらしいです。

上記の事がどこまで事実かはわかりませんが、少なくとも私の中では事実なのでたまにWebで見かける「友好的な別れだった」とか「脱退してからオーディション受けた」という記載は「違うんだよなぁ」と思っています。

それはさておき、解雇という話を聞いてまず思ったのは「次のシンガーどうするの?」という事でした。
そしたらなんと、カイ自ら歌うとの事ではないですか。
それを聞いた時に私の頭にアーライと浮かんだのが「Walls of Jericho」でした。

正直不安しかない…

しかし当時のファンクラブの会長はハロウィン1stの頃のスラッシーなスピードメタル路線も好きだったらしく全然OKだとの事。
さすがGamma Rayからハロウィンに一通逆走してファンになった軟弱メロディアスジャーマン初心者の私なんかとは心構えが違います。
とはいえ、個人的には賛成できる路線ではなかったので会長がカイを止めてくれねーかなぁと思っていたのも事実でした。


そんなこんなで非常に不安ながらリリース当日にアルバムを手に取ったこのLand Of The Freeですが。
Rebellion In Dreamlandの低めのカイの歌いだしを聞いた時に「あれ?」と思いました。
そんなに悪くないぞと。
その後「ア~~~」とあのシャウトが入るわけですが、それも音程はしっかりしています。

その後もカイの中低音域を活かした歌唱を繰り広げます。
疾走気味のパートでは若干高音を出しつつ大半を演奏で切り抜け、1曲めにして8分を超える大作は緩急つけつつ演奏することで聴き手を飽きさせず、たっぷりとカイの歌声を堪能させ、聞き手を彼の声に馴れさせます。

そんな感じで1曲目を一聴した感想は、少し舌足らずな部分もありながら昔とは比べ物にならないぐらいしっかり歌えているな、でした。

とかなんとか考えているうちに始まった2曲目のMan On A Mission。
出だしは「アーライ!」ではなくかろうじて「オーライ!」に聴こえるなとか思いながら聴き進めます。
疾走感十分のノリノリな演奏をバックに今度は少し高めの中音域を使い丁寧な歌い方で聴かせてくれます。
カイのこの高さの声はとても良いなと油断しているとギターソロの前で唐突に静かな演奏に「Take make hand and you will see~」の静かで少し寂し気な囁くような歌唱。
そこから「Now I see It's you and me~」と合唱パートが入ってオペラチックに盛り上がっていき、ギターソロで再び疾走。
この部分初めて聴いた時に呼吸が止まるかと思うほど感動しました。

なんちゅうもんを…なんちゅうもんを聴かせてくれたんやハンセンはん、これに比べたら山岡はんはカスや

スピード&メロディ&ダイナミズム&コミカル&リズミカル&クラシカル
この曲はGamma Ray史上、というよりジャーマンメタル史上に残る屈指の名曲だと思います。
そしてカイの歌唱でないとこの曲はここまでの名曲にならなかったでしょう。
天才カイ・ハンセンはきちんと自分の声を生かせる楽曲を書いてきたんだなとこの時確信しました。

あと山岡はカスです。

それ以外の曲でも、Voの主体は中低音域で音程を見失わないようにしっかりと歌い上げ、ハイトーンは一瞬だけという構成になっています。
そして肝心の楽曲が途中で緩急や静動を付けて一曲の中で色々と表情を変えるタイプの物が多く、聴いてて飽きないというのが非常に素晴らしい点です。
おそらくカイは自分の声をしっかりと研究して、魔女みたいなハイトーンを抑えて、自分の声が一番魅力的に聞こえる中低音域を使う歌メロを書いてきたんでしょうね。
ラルフがいなくても、きちんと自分の世界は表現できるという意地みたいなものではないかと思います。

しかもこのアルバムにはあと2つ嬉しいサプライズが用意されていました。
マイケル・キスクのLand Of The Freeのコーラスへの参加。
そしてTime To Break FreeでのVoとしての参加です。

Land Of The Freeはこのアルバムにしては珍しく、サビに向かうにつれカイのハイトーンが目立ってくる曲です、しかしサビのコーラスの部分でキスクの伸びやかで艶やかなあの声がすっと入ってきて美しく歌い上げます。
しかもサビの部分はキスクのハイトーンに合わせてカイが低音部分を歌うのですが、このカイの低音がキスクの高音とよく合うんですよね。
こうなるとキスクのコーラス参加ではなく、サビをキスクとカイで一緒に歌っているみたいなもんです。

こうしてチラチラと影を見せつつ、曲の最後の方はキスクが熱唱。
そして事態を理解してああキスクが今回参加しているのねとリスナーのニヤニヤが止まらないうちにインストのThe Saviour、雄々しく盛り上がるAbyss Of The Voidを挟んでTime To Break Freeでとどめを刺されます。
ファッファフォファファ~~ンとどこか吉本新喜劇を思わせるコミカルなイントロの後、ハンセン節全開の楽曲に、要所要所遊びを絡ませる余裕を持ったキスクのハイトーンが乗る。
長年離れてお互いが身につけていったものが再度結集した、これこそ我々が長年待ち望んでいた(あの時点での)彼らの最高の音楽です。
カイのギター(メロディ)にキスクのVoが乗ると相乗効果で通常の数倍から数百倍(当社比)の魅力が発生するという事はみなさんご存じの事かと思いますが、二人の間のケミストリーの存在を確信する瞬間ですね。

キスクはハロウィン脱退後しばらくの間メタルの世界からは距離を置こうとします。(正確にはハロウィンにいたころからメタルから距離を置こうとしていた結果がカメレオンなのでしょうけど)

しかしそんな彼の才能を惜しみ、カイ・ハンセンやトビアス・サメット、デニス・ワードといった人たちが定期的に歌う場を提供したりバンドを組んだりした結果、彼はハロウィンに再加入、ハロウィンは今何度目かのピークを迎えています。

個人的には守護神伝に匹敵するピークを迎えていて理想的な結果じゃないのかなと思ったりも。

このアルバムはその貴重な第一歩目のアルバムとも言えそうです。

ちなみにレコードですが、当初discogsを探してみたところ2種類あることがわかりました。
1995年に発売されたオリジナル版は価格が28000円~で送料込み31000円程度。
2020年に発売されたリマスター版は9900円~で送料込み14000円程度。
どちらもおいそれと買えるものではありません。

それこそ死ぬまでに買えたらいいな程度に思っていたのですが「阪神梅田本店 中古&廃盤レコード・CDフェス2023」で1995年のオリジナル版に出会ってしまいました。
価格は17380円、めちゃくちゃ悩みました。
会場に足を踏み入れ15秒ぐらいで見つけて、とりあえずそれを手に取り、1時間ぐらい手に持ちながら会場内の他のレコードを物色。
その間何度もチラチラ見ながらにやにやしていました。

今まで一度もヤフオクや中古屋の店頭、中古レコードフェスでも見かけたことが無く、これを逃したらもう二度と出会えないかもしれないなと思い。
また個人的にリマスターよりオリジナル版のジャケットの方がデザインが好みという事もあり、また行く前に一杯ひっかけた酒の酔いも手伝った結果購入してしまいました。

そしてレコードで聞くとこのアルバム一層素晴らしいですね。
A面はRebellion In Dreamland、Man On A Mission、B面はAll Of The Damned、Gods Of Deliverance、C面はSalvation's CallingにLand Of The Free、Abyss Of The Void、D面はTime To Break Free、Afterlifeと随所に名曲、佳曲を忍ばせていてどの面を再生しても外れがありません。

まさか死ぬまでに手に入れれたらいいなと思っていたレコードが手に入るとは。

逆に私明日死ぬんじゃなかろうか。

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