見出し画像

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第9話

 一週間、何も起こらなかった。

(やはり、今年じゃなかったのか?)
(それとも、もう現れたあとだったのか?)

 苛立ちと焦りがピークに達した8日目に、異変が生じた。


「篠原君、あれ!」
 双眼鏡を覗いていた久深が、突然叫び声を上げた。
「……これは」
 彼女が指差した方向にレンズを向けた悠生は、言葉を失った。

 異変は起こっていた。
 しかし、それは二人の想像を遥かに上回っていたのだ。

「……風と光が、呼びあっている」
「上手い表現だ」

 左右の海中から伸びて来た光の帯が、様々な輝きを放ちながら、お互い引き合う様に進んでいく。
 それが合わさった瞬間、根本から更に多数の細い光が出現して、双方の帯に絡みついていった。

 ものの数分で、風吹橋は完成した。

「綺麗……」
 久深が、思わず溜息を漏らした。

 蒼々とした海の上に、忽然と浮かび上がった光の橋。
 風の橋だからか、姿が定まらずゆらゆらと揺れている。その度に、橋の色が瞬きながら変化していた。

「どの色なんだ?」
 悠生は迷った。
「ちょっと待って」
 風吹橋から目を離さずに、久深がタイミングを図る。
「今よ、撮って!」
 反射的に、指が動いた。
 数分間光り輝いていた橋が、中心から順に天に吸い込まれる、その瞬間だった。

 夕焼け空に向かって、何条もの光の帯が伸びていく。
 やがて、最後の光が空に消え、いつもと変わらない夕暮れの海に戻った。


 首が痛くなるまで空を見上げていた二人は、力が抜けてペタンと腰を下ろした。
 お互いに顔を見合せ、ニッと笑う。
「見た?」
「ああ」
「風の色、よね?」
 満面に笑みを浮かべながら、久深が尋ねた。

「何とも言えない色だったな」
 まだ、現実に戻りきれていない悠生は、軽く頭を叩いて答える。
「カメラにもバッチリ収まった。間違いない、あれは風の色だよ」
「やったあ!」
 その言葉を聞いた久深は、次の瞬間悠生に抱きついていた。
「ちょ、ちょっと浅緒さん」
「嬉しい……本当に、嬉しいよぉ」
 戸惑う彼の胸の中で、久深はこみ上げて来た涙を全て流し出した。

 悠生は、しゃくりあげる彼女の髪に、そっと手を掛けて呟いた。

「……おめでとう」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?