見出し画像

【週末ストーリィランド】「風のように、また。」第10話

 翌日。
「さあて、現像現像っと」
 バイトが上がった悠生は、フイルムケースを片手に、いそいそと控室から玄関に向かっていた。

「何だユウ、どこかに行くのか?」
 そんな様子を見て、彼のOBである海の家のマスターが声を掛ける。
「ええ、昨日いい写真が撮れたんで」
「ああ、風吹橋か」
「そうなんですよ……え?」
 軽く流して出て行こうとした彼の足が、思わず止まる。

「先輩、何でその事を」
 悠生の驚きなど全く気にせず、マスターは話を続けた。
「今月の観光案内に載ってただろう?『数年に一度現れる伝説の橋を再現』って」
「ちょっと、待って下さい」
 その言葉の一箇所に、悠生は引っ掛かる。
「再現、って?」
「ホログラフィ、なんだよ」
 マスターが記憶をたぐり寄せる。
「地元の観光業者が、集客のために考えた一大プロジェクトでな。昨日投影テストを行ったらしい」
「投影……テスト?」
 背中に嫌な感触を覚えた悠生。
「『橋を見た二人は必ず結ばれる』ってのがキャッチコピーらしいぞ。ユウも誰かと行ってみたら……」


 その時、店の外でドサッという音がした。
 慌てて飛び出した悠生の表情が強張る。
 足元にバイオリンケースを落とした久深が、ガクガクと小刻みに震えていた。

「……久深ちゃん」
「嘘、でしょ?」
 焦点が定まらない瞳が、悠生に向けられる。
「落ち着くんだ」
「嫌っ!」
 肩を押さえようとした悠生の手を振り払った彼女は、踵を返して走り去って行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?