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【小説】「straight」113

「ん、何か付いてます?」
 何気なく光璃を眺めていた悠生は、彼女と視線が合い、慌てて言葉を付け足した。

「……俺は、あの二代目をぶん殴った訳だから、本社復帰はあり得ないよ。クビにならなかったのが奇跡なくらいだ」
「そんなこと無いと思いますよ」
 光璃は、両手に抱えていたアルミ缶を彼に差し出した。
「こうして毎回、新商品の試作品を送ってくるということは、期待されている証拠です」

「それが余計なんだって……」
 極力それを見ないようにしていた悠生だったが、やがて諦めたように彼女からアルミ缶のひとつを受け取った。
「再発売だけで充分だってのに、人はすぐに欲を出したがるからなぁ……これはダメ」
 最初の一缶を、ぽいっと光璃の手に戻す。
「次は……なになに『straight~as a bird~』あなたも鳥のように空を飛びたいと思った事はありませんか? なんだこれは、ホント……」
「『商品コンセプトが雑過ぎる、もっと飲む人の事を考えなくちゃ』でしょ?」
 毎日のように聞いている悠生の台詞を真似て、光璃が言った。
「やっぱり、自分がいなきゃ駄目だって思っているんだ」
「あの馬鹿息子、わざと失敗品を送ってるんじゃないだろうな」
 悠生の脳裏に、してやったりと笑っている中年男の顔が浮かんでくる。

 ムスっとした表情の悠生は、腕組みをしながら言った。
「こうなったら、意地でも戻らないよ」
「そうそう、私のためにもねぇ❤︎」
 ニコニコしながら、光璃が彼の腕に抱きついて来た。

「こ、こらっ、勘違いするな。あれは光璃がゴールしてもスピードを落とさなかったから仕方なく……」
「その後、優しく頭を撫でてくれたじゃないですか。あの時ようやく分かったんだ、澤内さんも私の事を好きなんだって」

「勝手に人の心を解釈するなあ!」
 辛抱堪らなくなって、悠生は彼女の腕を振り解いて飛び上がった。
「さっさと学校に戻るぞ、本大会に向けて練習練習っ!」

「ちょっと、こっちの話を決着させるほうが先じゃないですかぁ!」
 光璃は慌てて、彼の後を追った。

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