見出し画像

202009(未掲載) 縄文遺跡と温泉と山の花…、みちのく青森で癒やされる

(本来、以下の原稿を2020年の9月号用として編集部に送ったが、新型コロナが今後どのような展開になるか不明なので、書き直してくれと言われ、以下の原稿はボツにされた。タイムリーなネタで、読みたい人もいるはずと思い、旅から帰って休む間もなく仕上げたのに、浮かばれなかった。せめて、ここで公開しておきたい。)

 2020年、今春は緊急事態宣言のため、山歩きに出かけられなかった。いつもなら関東近郊や、時に新潟あたりの山まで足をのばすのだが、もちろん自粛した。

 県境越えが可能になった6月末、山仲間と一緒に青森の岩木山、八甲田山を目指した。3泊4日の旅。雨のため、前半はとりあえず観光とした。

 空襲を受けなかった弘前には古い建物が残っていて、国指定の重要文化財が多い。江戸時代の豪商の家屋や、明治の洋館、津軽藩主を祀った寺社などの文化財を、レンタカーで1日半かけて観て回った後は、縄文遺跡巡り。

 北海道・北東北縄文遺跡群は、世界遺産登録を目指している。大森勝山遺跡と小牧野遺跡。どちらも環状列石を主とする遺跡で、国指定史跡。青森山田高校の生徒たちに発見された小牧野遺跡の環状列石は、直径55mと日本最大級の大きさ。石の組み方も独特。

 青森の縄文遺跡と言えば、代表格は三内丸山遺跡。以前来た時は無料で見学できたが、今年から有料になっていた。復活したばかりというガイドツアーに参加。1000年の間に大量の土器や石器などが丘のように積み重なった南盛土、いくつもの復元竪穴建物、そして遺跡の象徴とも言える聳え立つ復元大型掘立柱建物。縄文時遊館で板状土偶なども見学し、秋田との県境近くに湧く古遠部(ふるとおべ)温泉へ向かった。

 山小屋のような質素な一軒宿だが、玄関でアルコール消毒と非接触体温計による検温、そして使い捨てスリッパと、コロナ対策を整えていた。

 早速、お風呂へ。鉄分を含む源泉が、湯口から勢いよく注ぎ、浴槽から贅沢にあふれ出している。先客は日帰りの地元客2名。津軽弁の会話はフランス語かと思うほどさっぱり分からない。浴槽脇に斜めになって寝転べば、背中の下をお湯がざあざあ流れていく。

 夕食の食卓はグループごとに離され、互いが向かい合わせにならぬよう間隔を空ける配慮。焼きたての魚を運んでくれる女将は、当然マスク姿。イワナはぱりっと焼き上がり、骨まで食べられる。お次は熱々の天ぷら。エビの大きなこと! 久しぶりの山仲間との会食に会話も弾むが、大声にならぬよう控えめに。冷たいビールの後は、高清水のワンカップ。

 翌朝、宿周辺は小雨が降っていたが、弘前市内へ出ると次第に晴れて、雲を被っていた岩木山も、やがてリンゴの木の上に頂を見せた。

 が、スカイラインを上ると雲の中。八合目からリフトで九合目へ。歩き始めると、登山道脇に気になる花が咲いているが、撮影は後でゆっくりと。40分ほどで岩木山神社奥宮が祀られる標高1625mの山頂に着いた。残念ながら、周囲は真っ白で何も見えない。

 ヒュッテ近くから少し下ると、お目当てのミチノクコザクラが点々と咲いていた。薄紅紫色の可愛い花。白いイワウメも雨に濡れて風情がある。久しぶりの高山植物に心が癒やされた。

 下山後は、千年の秘湯、蔦(つた)温泉に1泊。チェックイン時、アルコール消毒と、渡航歴と体温確認を全員の署名付きで提出。館内では従業員も客もマスク着用、レストランのテーブルは一定距離空けて食事、という態勢だった。

 温泉は、源泉湧き流し。ブナの浴槽は泉源の上に作られていて、底板の隙間からぷくぷく、空気に触れていない新鮮な温泉が常時湧き出している。湯の中に全身が溶けていきそう。

 最終日は八甲田山に登る予定だったが、山頂は雨と風が強いため断念。北側の山麓へ回ると、雨は止んだ。人気(ひとけ)のない田代平湿原の木道を歩けば、トキソウ、ツルコケモモ、キンコウカなどがそっと群れ咲いている。皆、夢中になって花の写真を撮った。気がつけば、頭上に青空が広がっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?