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クラシコムの売上総利益の特徴と考え方(CFOノート)

㈱クラシコムCFOの山口です。
私たちは、投資家をはじめ様々なステークホルダーの方に、よりクラシコムという会社を理解していただき、共に健やかな関係性を築いていきたいと考えています。

そこでCFOノートでは、当社の財務諸表の特徴や変化を、その背後にある経営思想と絡めて説明する少しマニアックな記事をこれから出していきたいと思っています。

なお、フィードバックは大歓迎です。経営陣は十分に議論を尽くした方針で事業運営を行っていますが、取り入れることがより適切と思える考えがあれば常にアップデートする心構えでおりますのでお気づきの点などあれば是非お願いします。

クラシコムの売上総利益の特徴。変動費は全て売上原価へ。売上高の変動による損益インパクトが掴みやすい構造。

売上原価に含めるコストの範囲は企業によって実は少しずつ違います。
当社の場合、売上原価がほぼ変動費で構成されていて、変動費は全て売上原価で処理されています。

具体的な主な売上原価の構成は下記3つとなります。

①商品原価
②物流費用(販売商品の管理・顧客への配送料)
③決済手数料

まず把握していただきたいのは、②と③が売上原価に計上されている点です。他のEC企業を見ると、②と③は販管費で処理しているケースも散見されます。

各段階利益を計算する際の②と③のコストの取扱いによる違いを図示するとこうなります。

パターンA(クラシコムはこちら)
パターンB(こちらを採用する企業も多い)

このように取扱いが異なるパターンがあるため、売上総利益率や原価率を比較する場合には、この点にご注意いただきたいと思っています。
パターンAとパターンBを比較した場合、パターンAを採用している企業は売上原価に含めるコストが多いため、売上総利益はパターンBよりも低く見えることになります。逆に販管費は減るため、どちらを採用しても営業利益は変わりません。

当社の23年7月期における売上原価率は約57%ですが、ここには十数パーセントの②と③の変動費が含まれています。
他社と比較した場合に、比較した企業の売上原価率が40%台だと収益力は他社の方が高いと思われるかもしれません。ただ、もしその企業が②と③を売上原価ではなく販管費で処理されているなら、売上総利益率としては実質は同程度と考えてください。

比較企業がどこまでの費用を売上原価に計上しているかは、有報からは少し分かりづらいですが、注記に販管費の主な内訳が記載されており、そこに物流費用などが記載されていることが多いため、それが手がかりになります。正確に比較したい場合には、各社のIR窓口などへ問い合わせて確認するのがいいと思います。

変動費を全て売上原価としているため、売上総利益が売上高から変動費を差し引いた、いわゆる限界利益になっており、販管費は売上に連動しない固定費で構成されています。
上記②や③を販管費としている場合には、変動費の一部が売上総利益では加味されず、販管費の一部となるため、外部からは直接原価計算による損益分岐の分析は難しくなります。当然企業内では変動費と固定費を分解して管理会計をしていることが多いと思いますが、外部に開示するPLと内部で活用する管理会計上の利益が別の概念となり、経営管理上の複雑さが増えてしまいます。
当社の場合は分ける必要がないPLのため、経営管理の面でも社外の方が分析するうえでもシンプルに取り扱えることになります。

23年7月期のPLを読み替えた場合の直接原価計算での代表的な分析は、下記のようになります。

このように捉え直すと、限界利益率や安全余裕率が高く、健全な経営体質となっていることがより分かっていただけると思います。

売上総利益の特徴についてまとめ

当社の売上総利益の特徴についてまとめると、以下の通りです。

特徴1 売上原価には物流費や決済手数料などの変動費も入っている
   → 他社比較時は要注意
特徴2 PLをそのまま直接原価計算とみなすことができる

当社ではすべての判断基準としてポリシー:正直・公正・親切を大事にしており、IRにおいてもこれを意識して、誠実なコミュニケーションを心がけています。
PLにこのような特徴があることから、投資家にとっても下記メリットがあると考えています。
1)直接原価計算による財務分析を経営とほぼ同じレベル感でできる
2)そのため売上成長による営業利益等へのインパクトも試算しやすい(変動費が販管費に含まれることで営業利益等を過大に試算することを防ぐことに繋がる)

結果として投資家とのコミュニケーションの場面において、フェアさを守りながら期待値を摺り合わせることが容易になっていると感じています。ポリシーの観点からも、できる限りこのPL構造を継続していきたいと考えています。

クラシコムの利益の考え方

会計的な側面で見た場合のクラシコムの特徴をお伝えしてきました。次に、経営的に利益をどう捉えているかの説明をしていきたいと思います。

唐突ですが利益とは何でしょうか?
計算式としては、売上から様々な事業運営に伴い発生した費用を差し引いた結果として残った残額となります。これに関しては異論はないと思いますが、差額として捉えていない点にクラシコムの面白さがあります。

少し問いを変えます。
利益は誰のものでしょうか?
伝統的な会計上の利益は、一般的に株主のものと捉えられています。
税金負担まで考慮した後の最終利益は、確かに会社法でも株主への分配原資へと繋がります。利益剰余金となり、配当原資とできるからです。
ただ、この捉え方は正解ではあるものの充分ではありません。
稼いだ利益は、株主への還元原資であると同時に、借入金の返済にも使いますし、将来の成長のための再投資に回すこともあります。また、安定した経営基盤のための内部留保として一部を貯めることもサステナブルな経営のためには必要であり、持続的な企業価値の向上を通じて長期的には株主価値に繋がると考えています。

この点は、キャッシュフロー計算書をイメージすると理解しやすいと思います。営業CFは利益が出発点になります。調整はするものの、利益がベースになっていることが分かります。
そこで生み出された資金が、投資CFや財務CFに流れていくことになるため、利益は様々な対象への分配原資であることが感覚的にご理解いただけると思います。

少し別の視点から利益を考えてみたいと思います。
営業利益と売上総利益の間にある利益概念を整理すると、下記のようになります。

すでにご説明したとおり、当社の場合は販管費は固定費となっているため、売上総利益は次のように読み替えが可能になります。

売上総利益 = 付加価値 + 人件費以外の固定費

営業利益の意味合いは、先ほどご説明した通りです。
EBITDAは営業利益に減価償却費やのれん償却費など資金流出を伴わない非資金費用を足しているため、分配原資であることの意識を一歩進めた収益性指標となっています。
付加価値は、役員や従業員も分配先として捉えた、より広い分配概念に基づく指標です。逆の捉え方をすると、社外の委託先などは分配先としてスコープ外になっています。

人件費以外の固定費は、サステナブルに経営していくために必要な様々なリソースのうち社外から調達したことに伴う費用です。言い換えると、変動費以外の社外協力者への分配額となります。

当社では、変動費を売上原価で処理することによって、売上総利益を付加価値より更に広い分配原資としてシンプルに捉えることが可能となっています。
そして多くのステークホルダーを意識した分配原資であると捉えているため、フェアな分配を常に意識した経営に繋がっています。

売上総利益は、会社、従業員、株主のもの。その1/3を株主へフェアに分配

23年7月期における売上総利益率は約43%で、ここ数年は大きく変動していません。
当期も継続してEBITDAマージン15%という収益性水準を目標としていますが、それは売上総利益の約1/3については株主還元等に振り向けられる利益に売上総利益を分配しようと考えているからです。売上総利益は、会社、従業員、株主のもので、その1/3が株主の取り分としてフェアであるという創業からの思いもここには込められています。

残りの2/3については、事業運営に必要な経営リソースの調達のために分配していることになります。どのようなリソースがいま必要なのか、それをどう調達するのかによって分配割合は変わってきますが、2/3という点を意識しコントロールをしています。

分配の適切なバランスは状況に合わせて変化する可能性もありますが、売上総利益を広く分配原資として捉え、利益にも適切に分配することを常に意識していることが安定した収益性を維持した経営に繋がっていると考えています。

長くなりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回は重要なステークホルダーである株主への分配に関する当社の考え方とルールについて、背景を含めて詳細にご説明する予定です。

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