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手巻き寿司と手間のおはなし

最寄りのスーパーは魚が不味い。そのへんで買っても魚が美味しい地域はいいなあ。海辺の宿で、持ち込んだスーパーの魚が豪華な煮付けと海鮮丼に変わったとき、心底ずるいって思った。

切ない話で、我が家で美味しい魚が食べたくなったら電車に乗って買い物に行くのだ。家事の手抜きの手巻き寿司には、実は交通費がかかっているのよ。

刺身と具材を盛って、お吸い物と付け合わせ。
今日の夜ごはんはこれでおしまい。みなさんどうぞ、いただきます。
わたしは長女の、夫は長男の専属板前。子どもたちの食べるペースに海苔を巻く手が追いつかない。なかなか大人の分に手が回らないから、かえっておしゃべりが弾む。

「小さいころ、手巻き寿司あった?」
4人の兄弟を女手一つで育てたパワフルな母を持つ夫。狭くて暖房のよく効く彼の実家を思い出し、なかば答えを期待して聞く。

「よくあったよ、築地近いし、すごい量」
「いいね。うちは1人分の手巻き寿司セットが出てきたけど、美味しかったから嬉しかったよ」
一方、わたしの実家はほとんど個食。だけど、自分で巻くのはビュッフェみたいで楽しくて、全然寂しくなかった。

今の我が家とほど近いわたしの実家。そのころから近くのスーパーの魚は美味しくなくて、母は車に乗って魚を買いに行っていたらしい。

手抜きの手巻き寿司に隠された手間を、子どものころからなんとなく知っていた。


「きょうは、おにぎりの日だねえ」

笑うと目がなくなって、緩んだ口元に海苔のあとをつけた子がいう。正しくはおにぎりではなく手巻き寿司だけど、俵万智みたいでいいね。
おにぎり記念日。

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