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漫文駅伝特別編『矢文帖』第10回「ユン散歩の歩み」如吹 矢ー

あなたは歩かない散歩番組をご存知だろうか。

YouTubeの苦肉祭チャンネルで配信中の「密着!ユン散歩」はユンボ安藤氏の日課である散歩にカメラが密着してその様子をお届けする番組だ。

そのカメラ、いや、キャメラを回すのが私、如吹矢ー。
iphoneというアップル社の製品を使いこなし、ユンボ安藤のプライベート映像という禁断の果実を捉えている。

時に、あえて手ブレを駆使して深作欣二作品ばりの臨場感を生み出し、時に小津安二郎作品ばりに正面から顔面を記録する。
また、広角カメラを巧みに使い視聴者の皆様の口角を上げようと試みている。どうでしょう?

はっきり言わせてもらうが、散歩ですぐに歩いているうちは素人である。

散歩ですぐ歩くやつは魚が捌けない寿司職人のようなもの。いや、真面目に手品をするマギー司郎のようなものだ。

エリマキトカゲと歩く散歩の時代は終わった。

ユンボ安藤の散歩はまず座るところから始まる。棋士の戦いと同じようにまず着席から始まるのだ。

そして、これから歩くことがいかに面倒かを語る。
それは直接「だりい」と口にすることもあれば、突然最近観た映画を語りだし間接的に歩くことへの反抗を示したりする。

ジェームズ・ディーンが着ていたような赤いスイングトップを愛用するユンボ安藤の「理由ある反抗」である。

しかし、そのまま座り続けていても地球が呑気に自転を続けるだけなので立ち上がる。男は地球を油断させてはいけない。

ユンボ安藤は言う「歩きたい時に歩くのが散歩」と。もう哲学である。ちなみにユンボ安藤の本名は安藤哲也。名は体を表す。

そして、この発言からわかるようにユンボ安藤はどこか詩的な男である。
人の皮を被ったポエム。それがユンボ安藤なのだ。

ここで、ユンボ安藤の散歩中に漏れ出た語録を一部紹介しよう。

「俺なんて口をひらけばラブソングだよ」

「東京には何でもある。ここになきゃねえよ」

「戦争が生み出したのはファッションしかない」

「野菜はキャベツ太郎しか食わない」

「道路の自転車専用レーンは突然、無責任になくなる」

「アロエで治んないものは治んない」

「コートが一番似合うのは乞食」

「中野を歩けば、虹の黄昏にぶつかる」

「屋外だけが散歩じゃない」

このような発言が散歩中に息を吐くように出てくるのである。

いざ、立ち上がって歩きだすとユンボ安藤は足を引きずっている。痛風である。

それもそのはず。世界の英雄たちはみんな痛風に苦しめられたという。

アレクサンダー大王、カール大帝、ナポレオン、ガリレオ、ダヴィンチ、ミケランジェロ、ユンボ安藤。

皆、痛風で苦しんだ。痛風は欧米で王の病気と呼ばれているらしい。

そんな王の病気の痛みに耐えながら、ユンボ安藤は歩くのだ。視聴者の笑顔のために。時に致死量とも言われるロキソニンを服用しながら。私はその姿を「沈痛」な面持ちで見ている。ロキソニンだけに。

あまりに症状が重い時は自転車にまたがり散歩する。油断しているとユンボ安藤は散歩の概念をぶち壊す。「散歩はデスクワーク」と発言した時には、私は驚きのあまりその場から全力で西に走った。ユンボ安藤の歩みが世界からSANPOと呼ばれる日も近いだろう。

そういった具合に都内各所を思いつきで闊歩するユン散歩。是非ご視聴ください。

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