かりんのかんづめ 〜非モテ女子な中学時代〜
中学時代、小学校から気になっていた男の子がいた。目がくりっとして、可愛い唇をしたスポーツ万能な男の子だった。
当時、女子は学校帰りや休みの日に遊ぶと、学校で誰が気になっているか、という会話を楽しんでいた。
その男の子とは、小学校時代はよく会話をしたり放課後に皆で遊んだりしていた。だけど、中学では話をしなくなり、廊下ですれ違った時に見かけるくらいだった。
また、学校行事の体育大会などで活躍している姿をチラっと見る事があった。
気になる男の子を応援している子もいたけど、私にその気力がなく、そこまで恋愛体質ではなかった。
そんな私にも、バレンタインデーはチョコを渡したい!という意欲が湧いて来た。
簡単なチョコを作り、ラッピングは少し頑張ったのを覚えている。
だが、結果は。
渡せずに終わった。
最後の勇気が出なかったか、タイミングが合わなかったか、は覚えていないけど。
せっかく夜中に起きて、親に気付かれないように作ったのに。可愛いラッピングを見たのは自分だけだったな・・・と思いながら食べた事は覚えている。
ある日、他クラスでよく話をする女子から自宅に電話がかかって来た。
「どうしたの?」
「あ、かりん?あのね、かりんてA君の事が好きって言ってたよね?」
「え、うん」
一体なんの話だろうかと、検討がつかなかった。
「あのね、実は最近。一緒に何人かで帰る事が多くて。仲良くなったんだよね」
「そうなんだ」
もしかして、一緒に帰ろうってお誘いかな?と少し期待をしてウキウキで話を聞いていた。
「それで、実は私さ、告白されちゃって。付き合う事になったんだよね」
「え・・・・」
ウキウキは、すぐにどこかへ行ってしまった。
確かに、彼女はモテる子だった。サラサラのセミロングの髪の毛が綺麗で、前髪も流行りの形に手鏡で整えている姿をよく見かけた。
当時の私は、天然パーマでショートカットの髪型。プラス、眼鏡をしていた。
なぜその眼鏡を選んだの?と思うようなアニメ『キテレツ大百科』に出てくる勉三さんのようだった。
(ちなみに、余談ですが勉三さんには美人の彼女がいます。プチ情報でした)
モテ女子、とは真逆の中学時代。
「なんか、本当にごめんね」
「ああ、ううん。大丈夫」
言葉とは裏腹に涙が流れてきた。
13歳にして、初めての経験。
好きな人が友人と付き合う、という救いようがないパターン。
「それでね、お願いがあって。マリアちゃんもかりんがA君を好きなの知ってるでしょ?だから、私が付き合ってる事はマリアちゃんに言わないでほしいの。絶対に言わないで、内緒にしてね」
マリアちゃん(仮名)は、学年でも影響力の強い姉御肌だった。私は、たまにカラオケやご飯に数人で行って遊んだり仲良くしていたので、私に同情をして何か攻撃をされないかと懸念したのかもしれない。
「ああ、うん。わかったよ」
困惑の最中、失望していた。
「ありがとう!じゃ、その件は頼むね」
安心したのか、電話はすぐに切れた。
・・・・・。
なぁぁんで、この子なんだ?!
男ってやつは馬鹿なのか?!
今なら、そう怒りに変えられるけど。当時は悲しむ事しか出来なかった。
今になって考えると、中学生の男の子なら、彼女を選ぶに決まっている。
当時の自分の所へ今の私が行けるのなら、どんまい!って言うしかない。
大人になり、地元で高校教員として働いていたある日。
「先生!今年で何歳になったの?」
「二十五だよ」
「おお、一番良い時~」
「何言ってるの?高校生が一番良いでしょ」
「いやいや、女として良い時って言ってるの。先生はわかってないなぁ」
生徒はたまに、大人以上に大人びた事を言い出したりする。
放課後になり、学校から車でコンビニへ向かい、買い物を終えて店を出ると、駐車場に止まったトラックから作業着姿のおじさんが出て来た。
そして、トラックの横で煙草を吸っていた。
私は、おじさんが煙草を吸ってる、と思いながら通り過ぎると、驚いて二度見をした。
なんと、そのおじさんは、あのA君だった。
その姿は、薄くなりかけた髪の毛にヤンキー茶髪、日焼けが凄く、若いのに皺やそばかすが見えた。
「あれ?かりん?」
そう言う彼の歯は、ヤニで黄色くなっていた。
目がくりっとして、色白で可愛い唇をした男の子はどこにもいなく。一体何があったのか、若いはずなのに同世代には見えなかった。
具体的にはわからないけど、自由に想像は出来る。
守るべき家庭と、職場での責任感とで戦う日々を送っている。
または、稼いだお金で飲み歩いてギャルと遊んで。不摂生な生活の末に髪の毛薄め、ヤニで歯は黄色め、海で焼いた肌はシワとそばかす、なのだろうか。
もう、わからないし、解明もしないけど。
私の大事な青春の恋を、後者にはしたくないので、家庭と仕事に奮闘している良い男、という事にしておく事にした。
結婚したかどうか、一切聞いてないけど・・・。
もし、後者だとしたら。
あああ、あの時の涙、返してよ!!
13歳の純粋な涙に、チョコレートが報われないよ!!
・・・にしても、やっぱり、当時の勉三さん眼鏡は違ったかな。
あの眼鏡女子には萌えないよね。
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