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かりんのかんづめ ~マウントってさぁ~


 大好きなモデルのたきまきさんがInstagramで、海外から仕事で帰ったご主人が、お土産にシャネルのバックをくれたという内容をあげていた。
 
 #シャネルマウント

 とハッシュタグをしていた。
 たきまきさんなら、マウントになんてならない!石原さとみが高嶺の花と言っても良いのと同じ!かっこよ!と思った。

 そこで今日は、格好良くマウントをとってみたいと思う。
 

 私は大学を出て、すぐに高校の家庭科教員として道東の網走近くで働くことになった。
 教育委員会から電話で聞かされた勤務先は学校名も町も聞いた事がなく、動揺した。

 北海道は広さと比例して町村も多く、道民でも聞いたことがないという事や、聞いた事があっても場所が不明ということはよくある。
 むしろ、北海道あるあるかも知れない。 

 本来は大学を出て、通信教育で小学校の先生になる気満々だった私が、急遽、高校家庭科教員となったため不安で仕方がなかった。
 
 とは言え、目の前の事を一生懸命やるようにと育てられてきた。生来の性格も中途半端が嫌い。

 赴任した高校は、各学年2クラスで1クラスの生徒数も少なく、30人位だったかと思う。

 当時からすでに廃校寸前で、町内の生徒だけでは存続が出来ないという状態。
 そこで、他の町から生徒が来るように町をあげて入学生徒に手当の付与など取り組みを開始した頃だった。
 
 初日から先輩教員から言われていた。
「うちは、すごく穏やかな生徒が多くて、去年まで平和な学校でした」
「そうなんですね」   

 先生は、「でした」と過去系で言った。
 
「今年から、色んな所から生徒が来ます。引き継ぎのため各中学へ生徒について聞きに行ったところ。正直、波乱が起きる可能性が高いです。覚悟していてください」
 ・・・何を覚悟すると良いのか。当時の私には何もわからなかった。

 救いは、同期のメンバーが自分を含めて四人いたこと。英語科で同い年の女性教員、理科と体育に少し年上の男性教員。

 一か月もすると、新一年生のやんちゃな男子生徒は正体を現しはじめた。
 鐘が鳴っても教室に入らずに立ち歩いている、注意を促しても廊下に座り込んで中へ入らない。 

 機嫌の悪い日には、私が数日かけて徹夜で作ったプリントを配るとすぐにぐちゃぐちゃと丸めて、私に向かって投げ飛ばして来た。
 
 怒った事のない、大学を出たばかりの23歳の娘は戸惑う。だが、戸惑いを顔に出しては絶対にいけないことはさすがに解っていた。

 即座に大声で、「いい加減にしなさい!」と大声で怒鳴る。
 正解がわからないので、色んな方法を試してみるしかなかった。

 怒鳴る、諭す、褒める、時に優しくする。話し合いを設ける。担任教諭から言ってもらう。

 授業づくりだけでも、死ぬほど忙しく。今の働き方改革の真逆を行く日々だった。
 授業から始まり、放課後の掃除、部活の参加。ここですでに午後6時。
 しかし、授業作りはここからになる。
 夜の10時帰宅の日が続いた。とんでもない日は、11時の日もあった。
 授業作りだけではなく、行事や部活に校務分掌がある。
 それらを考えると、土日も休めない。
 
 せっかく作ったプリントを再び生徒がこちらに投げて来たらと思うと、辛く。
授業終わりに、教員トイレで何回泣いただろうか。

 「あ、一週間過ぎたな・・・」と思った時に、一か月過ぎていた事が何度もあった。

 こんなに、こんなに働いてやっと頑張ったご褒美なんだと感じられたのは冬のボーナスだった。

 その金額を見て感動した。

 大学時代のオシャレな先輩が持っていたブランドのバックが余裕で買えるに違いない。
 だが、考えた。
そのバック、本当に欲しいだろうか?
・・・今は特にそこまで欲しくない。

 そこで、両親に海外旅行をプレゼントすることにした。

 両親は子ども二人を大学に通わせるために貯金し続けて。海外旅行に行った事など一度もなかった。

 母が冬のソナタのチェ・ジウにはまっていたため、韓国旅行に決まった。
 大学時代にお世話になった叔母さん、母にとっては妹さんにもプレゼントをした。
 
 母は韓国での叔母さんと父との3ショット写真を見せてくれた。

「職場の若い子にね、娘が海外旅行に行かせてくれたって言ったの。そしたら、良い娘さんですねって言われたんだよ」と嬉しそうに笑顔で話していた。
 
 私も、本当に嬉しかった。
 地獄のように忙しく心が壊れそうな出来事が連続の日々も、報われた気がした。 
 もう十数年も前の話ですが、思い出すと学校の先生には本当に頭が下がります。



 
 え?これは何の話か?

 親孝行マウントです!!格好良いマウントの取り方になってましたか?

 
 ・・・あれ、違うかな?
 マウントってむずいなぁ。

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