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ジンジャーハイボールと彼 〜第九話〜

 六月中頃には珍しく、暑い日が続いていた。
急にきた夏の気温、この時期の北海道には珍しく30℃近くの日が続いた。

 月末となり、徐々に気温も下がったため今日は過ごしやすい日となりそうだった。
 だが、俺の鼓動は気温の下降とは裏腹に、どんどん上昇している。初めて教壇に立ったとき以上に緊張していた。

 まさか、憧れの人とデートをすることになるなんて。

 今日のデートコースは、南区の定山渓と中山峠までのドライブデート。相手はテレビに出るアナウンサーでもあるので、なるべく人込みの少ない場所へ行くことにした。

「おはようございます」
 彼女は、黒いワンピース姿で、足元はリゾートで履くようなデザインのサンダルを履いていた。

「あ、おはようございます。どうぞ乗ってください」
 まずい、どうぞの部分で声が裏返った。もともと、声が低いから低い声から高音は変なやつにしか見えない。

「日下部先生、声が裏がえりましたね」
「あっ・・・」
 笑われてるぅ!!
 年上の方だから、可愛いで済ませてもらえないだろうか。キモイや変な奴にだけはなりたくない。


「緊張してくださっていますか。私も、すごく緊張してます」
 可愛い!!美人なのに、可愛い!!
色っぽいボブヘアの横で揺れるピアスが最高だ。

「緊張していないと言うと、嘘になります。声も裏返りましたし。めちゃめゃしてます」
「そんなタイプに見えないです。生徒の前でも保護者の前でもいつも堂々としていますよね。お若いのに、素晴らしいなと思っていました」

「いやいや。あのう、良ければ。今日は先生はつけずに日下部でお願いして良いでしょうか。自分も長瀬さんと呼びますので」
「あ、そうですね。私も、それが良いです。日下部さんと呼ばせていただきます」


 札幌市南区の奥へ行くと、山の景色が広がる。定山渓では、足湯をしてくつろぎ、お昼を近くのカフェですることにしていた。

 お昼は、混み合う時間をずらすため、朝一すぐの十一時に入るという計画を立てていた。
「やっぱり朝一だと、まだお客さんが来てなくてよかったですね」
「はい、長瀬さんの作戦通りですね」
「いいえ、でも朝はやくてごめんなさい。本当はもっと遅い時間のお昼がよかったですよね。仕事柄、いつも早起きなもので」
「いえ、緊張してコーヒーしか今朝は飲んでいないので、早く食べられてよかったです。それにしても晴天でよかった」
「本当ですね。足湯も、すごく楽しかったです。観光客の方も朝一はさすがにいなかったので安心しました」

 よかった、楽しんでくれている。自分も楽しい。
 カフェは、外の木々や山々を展望出来るお店だった。エプロン姿の店員が会釈し、テーブルに料理を置いた。
「一つ目のピザです」
「あ、ありがとうございます」

 店員は料理について、説明をしだした。
「具材は野菜もお肉もすべて北海道産となっています。産地については、その日によって異なることもあるのですが。本日は、テーブルに置いているこちらをご確認ください」
 そう言って、テーブル横に置いている小さな黒板を指さした。
「へぇ、こだわってますね」
「本当ですね、美味しそう。さっそく食べましょう」

 ほかの予約客はいなく、入ってくる様子もなかったので、気になることなく過ごすことができた。
「美味しいですね。それに、私けっこうお野菜の産地とか気にするタイプで。今日はお肉がふんだんなピザを食べたので、夜は新鮮なお魚を食べようかな」
「食生活を気にするって、さすがですね」
 まずい、自分は帰宅するとビールを主食に酒のつまみ程度のものしか食べていない。

 その後、定山渓の温泉街を一通り散策し、お土産の菓子などを購入してから中山峠に向かった。 

「中山峠まで時間がかかります、もし眠くなったら寝て大丈夫なので」
「いえいえ、寝ないですよ」
 彼女はそう言って笑顔で外を見ていた。

「長瀬さんはお休みの日、何をしてますか」
「お休みの日ですか、していることと言ったら家のこと、買い物ですね。あとはヨガとか。日下部さんは?」
「いや、部活があるのでそこまでプライベートばっかりにはならないんですが。同じ感じですね。掃除・洗濯が終わったら買い物やドライブ行ったり。犬の散歩もあるので」
 もう一つ大事な趣味があったが、言えそうもないので伏せておいた。

「あっ、そういえば最近は映画を見てます。海外ドラマも好きです」
「え?僕も海外ドラマを実は見るんです。もちろん映画も。どんなのを見てますか」
「私は、セックスアンドザシティとか」

 意外だった。怜奈さんとは真逆な気がしていた。
「昔、見たときはなんとなくだったんですが、今見ると面白くて」
「そうなんですね」
 意外な面がどんどん出てくるが、嫌な気持ちにはならず、そのギャップも面白さとなった。

「日下部さんは、どうですか」
「ああ・・・。マーベルとかですかね」
「え、本当ですか!私もです。息子が好きでよく昔から一緒に見に行っていたんです。好きなキャラクターとかいますか」
「え⁉好きなキャラクターですか・・・、いや全体的に好きなので。長瀬さんはあるんですか」

「はい!ブラック・ウィドウです」
 食い気味の返事だった。

「ああ・・・、そんな感じする。・・・ところで、ヨガはヨガスタジオとか行くんですか」
「前は行ってたんですが、最近は自宅でYouTubeで見られるヨガとかくらいです」

 あぶない、話を早急に変えてよかった。

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