【小説】ある夢の話――籠城と混乱
そこは我が家だ。わたしはそう思う。しかし、二階より高い窓から庭を見下ろしているそこは、明らかにわたしの家ではない。
わたしは恵まれた一軒家に家族と住んでいるが、二階より高い窓はない。それどころか校庭のように走り回れそうな庭などない。
これは夢だ。
わたしは気づいてしまった。しかし、夢は終わらない。足は沼に沈んだごとく重く、身体は温かい。耳は水中にいるときのような音を響かせる。
背後に人の気配があり、ふり向くと懐かしい顔があった。
「そろそろ」
そろそろわたしは外へ出なければならない。庭の囲いの外は危険に満ちている。危険に飲み込まれると、わたしはわたしではなくなり、危険の一部になってしまう。
危険になっていないわたしは、危険になったわたしを想像できた。この家に戻ることができず、ひたすら危険を広めるために、生ける屍となるのだ。
わたしは庭の囲いの隙間から外へ向かうわたしを、窓から見下ろしている。あのわたしは外がこわくないのだろうか。
「こわいさ、でも、外へ出なければわたしは生きられない。だから出ていくのさ」
「でも、外には危険がうろつき、わたしもそれに変わるかもしれないじゃないか」
外から何者かがうごめく音が聞こえる。囲いの外は靄に包まれて、仔細に見ることはできない。
「では、ここに籠もっていて、生きていると言えるのかい」
わたしは窓を見上げて、窓の向こうのわたしに問いかけた。
この家には、危険を逃れてきた人たちがいる。それらはわたしの家にとっては異邦人だが、安全のために場所を提供せざるをえなかった。備蓄は目減りし、自室は誰かのために明け渡していた。わたしは窓辺に追いやられていて、この家を拡張したのだった。
「外は危険さ。内と同じくらいね」
そう言うと、わたしは庭の囲いを越えて、靄に飲み込まれたあるかも
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