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【活動録】第23回カムクワット読書会

本日は、2024年1回目の読書会を行いました。課題作品は先日サイン&トーク会に参加した高瀬隼子さんの『め生える』。

参加者は3名ともに何度も顔を合わせたことのある方々で、それぞれどこかの読書会等ですれ違っておりました。

会場は何度も使っているお店から変えようと思い、UNI COFFEE ROASTERYでした。おしゃれな内観で広々としていてとても良いお店でした。しかし、ここで私がぽかをしました。

カフェ開催の際は、予約できないお店では事前に座席を確保するのですが、入店行列ができておりました。何人か店内にお客さんの姿が見えたものの、順番に呼ばれるのだろうと疑問を抱きませんでした。

開催時間が迫るも列は進まず、参加者の方も次々と現れて列に加わり、それでも一向に列は進みませんでした。

その時、ひとりの方が「これは入店待ちの列ではない」と気づきました。

半時間あまり並んだ列を抜けると、すんなりと入店できました。列に並ぶ心理は、昨年の読書会で課題作品にした中村文則さんの『列』に詳しい。

無事に(?)入店できました

読書会:高瀬隼子『め生える』

作品の感想

わたしは本作品を読む前に、X(旧Twitter)で古川真人さんのポストを見てしまいました。

理髪店がぼんぼこ潰れたあとにウィッグ屋が居抜きする光景など、コロナ禍の反映(と変奏)が随所にみられる。
……カタストロフィがある者にとっては文字通り崩壊である一方、別のある者にとっては福音……

古川氏の1月7日のポストより

そのため、物語に登場する仕掛けをコロナ的に読んでしまいました。他の方に聞いてみたところ、上記のポストを未読でもそのように読めると言われて一安心しました。

この作品を語るうえで、「ハゲている」ことをどのように捉えるかが必要だと思う。自分自身にハゲている部分がある人、身近にハゲている人がいる、それをいじり(いじめ)ていた……。

急に大多数がハゲていく社会は、先天的ハゲにとって「福音」だろうか。佐島のように上位カーストと付き合う機会を得たと感じる人もいるが、やはりそれ以前に植え付けられたコンプレックスはぬぐえない。

真智加にも琢磨にも、ハゲ以前の世界におけるコンプレックスは残っていて、占い師のようにその世界における特別性を乗りこなす器用さは感じられない。

一方で、ハゲてしまうことで「落ちた」テラにも変化がある。大学をやめて、職を転々する生活。その中で髪の毛を渇望するこころは、ハゲ以前の彼女にはないものと感じた。

その姿が真智加に優越感のようなものをめ生えさせたが、それが幸せかはわからない。価値観が転倒した世界では、コロナによって引きこもり趣味が市民権を得たような変化はあったのかもしれない。

世界はキュビズム的?

ハゲいじりのなぜ

ハゲをネタにしたお笑いが存在する。それは江戸時代から続いているものらしい。
これは日本特有のものだろうか。海外ではハゲている俳優をセクシィであると表する一方、本人たちは「恥ずかしい」と感じているらしい。

この恥じらいをカギにして考えてみると、人がなぜ服を着るかに繋がるように思う。禁断の果実を食べて、葉っぱで身体を覆った人間は、エデンから追放された。

肌を晒すことは恥ずかしい。だから、服を着るし髪の毛を生やしている。ハゲていることは、恥ずかしい部分を晒しているのだから、笑いが生まれても仕方ない。

果たしてそうだろうか。たとえば、出家をする際に髪を剃る。それは俗世と切断する行為とされている。目立たずに仏の道に帰依するための行為であり、それは恥ずべきことではないだろう。

しかし、これは自発的、あるいは何らかの理由があって行うことであり、自然にハゲるのではない。

自ら制御できない物事によって階層がつくられる。それをそうあるものと受け入れるのではなく、なぜそうなのだろうかと考えていきたい。

気になった場面

75頁の謝罪会見でウィッグを外しているシーンは、ハゲ以降におけるスタンダードの萌芽。
104頁で髪の毛が残っているアイドルの髪を引っ張って笑うのは、現在のハゲいじりの変奏。
161頁で佐島が「平等」と連呼したのは、「不幸な平等」の呪文。豊かなブルジョワジーを打倒して、みんなで貧しくなろうという行いにみえるが、それを愚かだと断罪するのは傲慢か。

4冊の何かがめ生える

今後の予定

【第二十四回】綿矢りさ『パッキパキ北京』

2月24日(土)10:30に横浜にて開催します。最大であと6名を募集中。参加をご希望の方は、X(旧Twitter)にてDMをお願いします。LINEをご存じの方は、そちらからのご連絡でも問題ありません。

難しい話しをしなくても、感想がまとまらなくても、この作品が気になった方は、お気軽にご参加ください。初参加の方も大歓迎です。

表紙の主張が激しい課題作品

岩波文庫から課題作品読書会

3月に開催予定。こちらは外国語小説(赤帯)か日本語小説(緑帯)でアンケート後、課題作品アンケートを行う予定です。

あなたの課題作品にしてみたい岩波文庫の小説を教えていただけると嬉しいです。

赤か緑か、それが問題だ。

文系ゼミ的活動

4月以降に開催予定。たとえば、イーグルトン『文学とは何か』を課題作品に、4~5回に分けて考えて発表する会。

こちらはレンタルスペースやオンラインを活用する計画です。

また、各回で担当を決めて進行をしていただこうと思います。受け身になるのではなく、発表もすることで理解が深まるかと思います。

おわりに

カムクワットな小説を通して、皆様とお話しできることを楽しみにしております。本年もどうぞよろしくお願いします。

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