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心奪われすぎる

映画をあまり見ない。小説もあまり読まない。
心奪われすぎて実生活に支障がでるからだ。
フィクションだとわかっているのに、その物語が自分の中に入ってくる。
自分を追い出す、というか覆い尽くされて自分がなくなる。

小学生の頃、枕くらい分厚い本を読むのが好きだった。なかなか終わらないから。「モモ」とか「冒険者たち」とか永遠に読んでいたかった。物語の中に住んでいた。現実の生活なんてうっすら人ごとで、どっぷり他人とか他動物の人生を生きていればよかった。
大学生くらいまではそんな感じだったと思うけど、いつの間にか、小説を読まなくなり、映画を見なくなった。
自分の物語をなんとかしなくてはならないのに、フィクションにのっとられている場合ではないと感じたのかもしれない。

それから、とくに何かに没入するようなこともなく、すこし斜め上から見下ろしながら、ポンコツの自分をなんとか操縦するのに精一杯。
同時にそれはなにかいろんなものにフタをして、つまりつまんない日々。
これが大人になるってことなのかな。働いて、帰って寝て、大人は粛々と生活していくものなのか。

しかしある日、友人の家で淹れてもらって飲んだお茶に、人生後半を持っていかれることになる。

なんじゃこりゃあ!
なんでこんな香りがするの?なんでこんなに色薄いのに味がすごいの?烏龍茶ってサントリーのあれじゃないの?どうして花みたいな香りがするの?どうして?なんで?・・・・

すぐ台湾に行った。行ったからといってわかるどころか、かえって謎だらけになり、知りたい、わかりたい、もっと飲みたい、もっと上手に淹れたい、そういうものに駆り立てられて手探りのままうろうろして今に至る。

蓋碗の中で湯にひたっている茶の葉。ほんとうに美しい。
ずっと眺められる。いつのまにかその中につかっていて、お茶と自分の区別がなくなっていく。
この感覚って、温泉だ。
ぬるめの温泉につかっていると、だんだん湯と自分の境目が溶けだしてわからなくなる。自分がなくなっていくような、しーんとした感覚。
この没入感は、あのころ物語の中で生きていたあの感じ。
文字のない物語を読んでいる。終わらない物語だ。


そして最近、突然猛烈に心を奪われたものがある。
アニメ「ハイキュー!!」だ。突然ハマった。生活の全部がそれになった。
録画を見返すのでは飽き足らず、「ハイキュー!!」漫画全45巻を大人買いした。そして店はさっさとおしまいにしてこの年末は読みふける!!
つもりだった、のに開封できない。
オットが「開封は元旦から」というのだ。
だって、1巻どっちが先に読むのよ、奪い合いになるじゃん、というと
「あるーぅひ、あるーぅひ、もりのなっか、もりのなっか、みたいに読んでいったらいいじゃん!」
漫画で輪唱。聞いたことない。そうしないと先に読んだらストーリー全部しゃべるからいやだと。まあそうだな。言っちゃうな。仕方ない。
ひとまず届いた箱は四次元空間(荷物部屋になってる和室。魔窟)にしまって今年中は封印することになった。ああ。読みたい・・・

仕方ないのでYouTubeをうろうろしては泣いたりしている。
今、夏休みの合同合宿のあたり見てる。できない、このままじゃ勝てないと悟る。できないことができるようになりたい、もっと上手くなりたい、もっと見えるようになりたい、もっと、もっと・・・

高校生たち・・・なんて眩しいんだ。
そんな折読んだある記事にぎょっとした。


「動物が生殖する前の、鳥がパタパタ恋のダンスを踊るような時が一番美しい。人間も生物的に美しいそういう時期は一瞬しかない。その瞬間を芸術として残そうとしたのが裸像を描くことなんだなと、最近つくづく実感するんです。若い頃は、裸の絵って何やろうなと思ってたんですけど」

芸術家の村上隆氏のインタビューだ。

まさにそれだ。
ハイキュー!!は、「生物的に美しいそういう時期」の物語だ。
物理的に背も伸び細胞は若くぴちぴちで疲労はすぐに回復し何者でもないから何者にでもなれる、まだまだ上へ、そういう成長を、ただ眩しく、なつかしく見ているのだろうか?
醜悪に老いたものが失われたものを愛でる、そういうことなのか・・・

でもなんかちがうな、

むしろ今、日向翔陽として飛んでいるし、影山として悔しがっているし、スガさんとして泣いたりしている。
全部自分の物語として、ハイキュー!!を生きている感じなんだ。

だからもっとやりたいし、強いやつを見たら悔しいけど倒したくなるし、もっともっと上手く、すげえって、見たことない景色が見たい。
そうずっと思っている。

そういう世界を透かして、ちょっと自分の現実を見ている。
次に攻略するべきは「玉露」だな、などと思っている。
日本茶界のキングオブキング、玉露。なのにぜんぜん知らない。
こんなすげえやつがいたんだ。まだまだ実力が足らない。
もっと知りたい。たくさん対戦したい。もっと上手くなりたい。
日向翔陽ならきっと軽々と、いつか軽々と淹れる。輝くような玉露を。

何言ってんだこの人。ちょっとわけがわからなくなってきたけど、つまり今心を奪われすぎている。

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