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2021.2.6 SUN なくしてしまうものはなんでなくなってしまうんだろう

息子の受験が山場を迎えている。
とうとう本番、自分で探してきて決めて願書を出した大学の入試、昨日もあったし、あと来週もうひとつ残っている。

昨年末から体調を崩し、なんとも低調な正月年明けだった。
それはまあ、受験生への心配でやられてんな、という自覚はあった。

その心配の原因は複雑多岐にわたるが、まずは「ちゃんと願書提出できるのか」あたりがピークだった。
自分の時とは隔世の感あり、「ネットで出願」だとぅ?受験方式も様々な形式があってさっぱりわからない。わからないから不安なのだ。

「ちょっとハタで見てる」というテイで、リビングのテーブルにて息子の出願作業を見守る。
大学の受験ページにアクセスし、まずは登録してマイページを作成。
受験する学部や受験形式を選択。
共通テスト利用、A方式B方式、3教科型2教科型、記述式とマーク方式、
試験日も様々で、それをぽちぽち選択していくとどんどん受験料が上がっていく仕組みだ。「あなた、5千円で合格チャンス増やします?どうします?」はーいこの際お願いしまーすとかやってるとあっという間に5万円とかになった。恐怖。

という話をお客さんとしてると、知人の娘さんはどうしても私立有名大学に入学したくてありとあらゆる学部学科を受験し、受験料だけで30万近くになったそうだ。未知の世界。まじでSFより怖い。

クレジットカードで決済すると出願書類ページにアクセス可能となる。プリントアウトして記入し、高校がくれた調査書と一緒に簡易書留で郵送する。

しかしこの作業全国の受験生の保護者はどこまで関与しているのだろうか?
子ども所有のパソコンやメールアドレスはコロナ禍でずいぶん普及しただろうが、どのご家庭にもプリンターってふつうにあるもの? まぁあるか、年賀状印刷したりするだろうしな、いろいろ隔世の感あり。

願書送ったがなかなか受験票届かねぇなと気を揉んでいると、マイページにアクセスして受験票プリントアウトするんですって。いまどきー。

この一連の作業を息子と一緒にやって、やっとなんか安心した。
いつのまにかパソコンの操作は流暢になっていて、マイページ作成も暗証番号もさくさく決めて手際よく進めていく。
ぜんぜん教えてないのに、道具は与えておくと使い方勝手に習得するんだね。
封書の閉じ口に「〆」って書くんじゃぞ、などという初級ビジネスマナーを教えたりはしたが親の出番はクレジット決済くらいだった。

この安心は健康によかった。
ずっと心をじくじくと痛めてきたものがすっと晴れた。
高校三年生、思ったよりしっかりしてたし、案外そんなもんかと思えた。

あとは、試験当日、無事に元気で会場にたどりついて名前書いて問題解くだけだ。
しかしまさかたったこれだけのことが困難を極めるとはな。
時はまさにコロナ第六波、日々学校から「3学期7例目の新型コロナウイルス感染症の感染者が確認されました」というお知らせメールが届く。2年生は学年閉鎖になったらしい。もういつ誰が感染してもおかしくないわけで。
息子がどこかで拾ってきて感染してしまうのはもうしかたない、だが親が感染して移してしまうのだけはせめて避けたい。
そう思うから、もうほんとうに人との接触を最小限にして暮らしている。
店も半開き、喫茶しない、お茶の販売とテイクアウトだけ。
水中に沈んで、竹筒だけで息してるみたいな日々、今はそれでいい。

2月3日、息子誕生日。そして試験の日。朝会場まで車で送る。
「問題用紙配る試験監督に、今日オレ誕生日なんっすよって言ってみて」
「なんて反応するかね」
「おめでとう!!って拍手が巻き起こって会場中ハッピーバースデイの合唱が響き渡るんじゃない !?」
「ないね」「だな」
などと言いながらバカ笑いする。
今晩何食べたい?
「寿司!!ピザ!!ハンバーガー!!  緑の要素は一切いらないんで!!」
というリクエストを受け、デパートの鮮魚コーナーにて大量に陳列されてる恵方巻を求める人々をかきわけ、ちんまり置いてある握り寿司を購入、あとは焼き鳥とか。ケーキ買って帰る。

しおしおになって息子帰宅。たこ焼き食べながらどうだった?と聞く。
その会場は複数私立大学の受験会場となっていて、入り口で案内されてエレベーターに乗ってさ、とか、受験生に知ってる人がいた、とか
「オレ誕生日なんすよって言った?」
「言うわけないじゃん!!!」 えー

あ、もうすぐ生まれた時間だぁ。
18年前の今は隣の分娩室からの産声きいてたわ。次はこっちの番かと思いながら。
昼過ぎからの陣痛でもうへろへろでさ、もう勘弁して、わたしが悪かった、腹かっさばいて出してとか思ってたよな。
夜、やっと面会にきたパパちゃんの肩にうっすら雪が積もっててね

「ほうほう、しおりや、 産んでくれてありがとうねぇ」

ふざけた調子でそんなこと言うんですよ。
あれから18年。こんなにでかくなりましたよ。
育てたようでいて、勝手に育ってくれた感じで
たいした親じゃなかった
母親らしいことあんまりしてないし
なのにこんなに大きくなっちゃって
もう、出ていってしまうんだなぁ。

どこに決まるかわからないが、いずれにしても春からは県外で一人暮らしだ。どこに決まるかによって動き方も変わるから今は考えないようにしているけど、もう一緒に暮らさなくなるんだ。ちょっとまだピンとこない。

朝起こすこともない。ご飯食べさせることもない。怒ったりすることもない。笑ってバカ話しすることもないんだ。
と思ったら涙出た。
「なに泣いてんのー」 老いた親は涙もろくて困るな。すまん。

2月5日、また違う大学の受験。午後からは面接もあったらしい。
LINEで「なにたびたい?」と聞くと
「ステーキ!!!肉!!!うおおおお」
と返ってきた。了解。

面接は鬼のような面接官がにこりともせず腕組みしており
「かいたことのない汗かいたわー。もー。ヒザの裏とか。もーいや」
そのやりとりを聞いてみたらそんなにおかしな受け答えでもなく
むしろ善戦したんではないか。
つーか、就職時の圧迫面接なんかそんな比じゃねえぞ
てめーの会社なんか誰が入るかバーカバーカつって椅子蹴って帰りたくなるやつばっかだったぞ、などと何の役にも立たない話をする。
この程度のプレッシャーでへろへろになるなんて、高校三年生の人生スキルなんてそんなもんか。
これからもっといろんな理不尽や重圧がやってくるんだろう。
どうかわすか、どう対処するか
もう親の出番はなくて、自分で体得していくしかないんだよなぁ。

そして肉だが、近所のスーパーの精肉コーナーでいちばんでっかい肉のかたまりを買った。
「ワンポンドステーキ」って書いてある。
1ポンドって何グラムだ? 1ポンド=約0.454キロ えげつないな。
ひとまず大根おろしの海に浸け、包丁でたたいて焼いてみた。
もうもうと油煙たててはらぺこの息子に焼いた。
「はーいオーストラリア大陸だよー」
「ワーオ!!!」
肉との戦いはワンポンドステーキの勝ちだった。さすがに完食ならず。
「はー。腹いっぱい肉が食える実家っていいね」
なんとなく、一人暮らしを想像してみたりしてるのかな。

彼自身が決めた道に進み始めるのだ。
それは喜びでしかない。
その先どのくらい夢が叶うのかわからないし、未知で未確定だけど
そのぶん空っぽの希望で光り輝いてる。
そういうのに、金を払ったり、買い与えたり、考えたり、思ったりできるってなんて幸せなことだろう。
と思い言い聞かせると同時に
数ヶ月先の、息子不在のぽっかりとした穴の深さを思うとビビる。
なくしてしまうものは、なんでなくなってしまうんだろう。
ちゃんと大事にできてたかな。ちゃんと悔いなくなくせるのかな。
子どもでありながら、むしろわたしの支えであって保護者であった。
それをなくしてしまうのは、

彼が心配しないよう、心を残して行かないよう
わたしはわたしでちゃんとしなくては
と、準備をはじめてはいます。



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