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「大学を卒業しました」と「大学から卒業しました」のお話 - 言語転移と反応のこと

毎日のように採用担当者が録画した面接のビデオを確認しています。

就職希望者の自己紹介からはじまり、HRが指定した内容で模擬授業で終わります。だいたい30分から1時間くらいの内容です。

自己紹介の部分が終わったら、いつも早送りで内容を確認します。わたしの時給は安くありませんし、他にもたくさんの業務がありますので仕方がありません。

さて、採用試験に臨む中国人日本語教師たちのほとんどが言い間違えるフレーズがあります。それは「わたしは 2022年6月に 北京大学 から 卒業しました。」という誤用です。

正しくは「わたしは 2022年6月に 北京大学 を 卒業しました。」です。

どうして中国人がどうして「大学を」ではなくて「大学から」と言ってしまうのかというと、母語の影響を受けているからです。

中国語では「わたしは 2022年6月に 北京大学 を 卒業しました。」を「我于2022年6月从北京大学毕业。」と言ったりします。この「从」を、英語なら「from」、日本語なら「から」だろうという思い込みが、間違いを生んでしまうのです。

こういった母語の影響を「母語の干渉」と言っていましたが、今では「言語転移」と言うのが一般的です。そして母語のせいで間違えてしまうことを「負の言語転移」と言い、母語のおかげで正しく外国語を使えることを「正の言語転移」と言います。

それで面接のビデオで「大学を卒業しました」と言えた人には、B以上の評価を与えてます。逆に「大学から卒業しました」と言ってしまうと、他の部分が素晴らしくても、大抵 C評価にしています。

負の言語転移は、日本語から中国語でも起きる

でもこの転移は日本語から中国語の時にもみられます。

例えば、日本語で「その時、彼は泣いた」と言ったりします。過去のある特定のタイミングを指して「その」という指示語を使います。そして「その」は中国語で「这」なので、日本人はよく「这个时候,」と言ったりします。

しかし過去の特定の時を指定する時、中国語では「这」ではなくて「那(あの)」を使います。ここをしっかり学習していないと、言い間違えてしまいます。そして、中国人も間違えてるなと思いつつも、文脈から意味を読み取れるので指摘しないことがほとんどです。

いつも正の言語転移ばかりだとよいのですが、残念なことに負の言語転移に振り回されることが多く、さらに自分では間違いに気づきにくいので改善も難しい傾向があります。

正の転移や負の転移は言語だけではない

さらに言語のみならず、わたしたちの持つバックグラウンドがわたしたちに影響を与えることがあります。自分では当たり前と思っていることを、そのまま異文化で行っても上手くいかないというアレです。

例えば、オフィスを掃除するオバさんがいたので、少し手伝ってあげようとしたら、むしろ邪魔するな、仕事を取るなと怒られたという話しを聞いたり、見たりしたりしたことがあります。

友人が中国で設計とリフォームの仕事をしていました。

彼が現場を確認して、ゴミが落ちていたので掃除を始めると、彼のボスが「お前に掃除分の給料は払ってない」とキレだしたそうです。作業状況を確認するのにゴミが邪魔だったし、何よりも現場が汚いことに我慢できなかっただけだったのに、参ったと言ってました。

良かれとして思ったことが、感謝されるどころかキレられる・・・まさに負の転移です。

それで、そういった転移が起こるということを予測しておくことは大事です。どこに地雷があるかわかりません。自分の動機や常識がまったく通じないことがありえます。また相手の好意も、こちらからすると迷惑だったりすることもあり得ます。

そんな時に、これは「負の転移」かもねと思えると、トラブルを深刻化させたり、とっても後悔するようなことを言ったりしたりすることを避けられるかもと思いました。

さて、午後からも面接ビデオを見ます。どんなふうに自己紹介するか、今から楽しみです。今日も最後まで読んでくれてありがとう。また明日。

ぜひぜひ、サポートをお願いします。現在日本円での収入がなく、いただいたものは日本語教材や資料の購入にあてます。本当にありがとうございます。