くまモンとコウペンちゃんをこよなく愛する、人生の旅人です。一編の小説が人生を変えること…

くまモンとコウペンちゃんをこよなく愛する、人生の旅人です。一編の小説が人生を変えることもある。そんな物語の力を信じています。小学館「第3回日本おいしい小説大賞」で最終選考に『羽釜の神様』が選ばれました。

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  • 女子高生×ミニチュアハウス

    後藤葵はミニチュア作りが大好きな女子高生。 つらいときも、悲しいときも、ミニチュアを作っていれば、すべてを忘れられる。 そんな葵のミニチュアが注目を集めて、人生が大きく動き出す。 さまざまな出会いと別れを繰り返しながら、「本物の愛」に辿り着くまでの、一人の少女の10年間の物語。 *ミニチュアハウスは「ドールハウス」とも呼ばれていますが、本作では「ミニチュアハウス」にしています。 *作中、文章が途中で途切れているのは、葵が高速で心の中でおしゃべりしている様子を表す演出です。

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文学賞の最終選考に残ると、何が起きるのか

 noteビギナーは自己紹介から始めるのが定番のようですが、自分の職業について知られたくないという諸事情があり、迷っていました。  しかも、今までの経歴も変わりすぎているため、知り合いにすぐに特定されてしまいそうで…。  そこで、自己紹介がてら、文学賞の最終選考に残った時の話をすることにしました。noteには小説家を目指して文学賞に応募している方も大勢いらっしゃるので、参考にしていただければ幸いです。 応募したのは新しい文学賞  私が応募したのは小学館の「第3回 日本お

    • 愛なんか、知らない。 第5章 ⑧再生の家

       おじいさんは家の中を覗き込んでいる。 「いやあ、細かい、細かい。教科書を束ねてあるのまで作ってるよ、これ。ここの段ボールからプラモがはみ出してる。いや、すごいね」  おじいさんの瞳はキラキラ輝いてる。 「すみません、家の中まで入っちゃって。鍵が開いてたんで」 「ああ、泥棒がカギを壊しちゃったみたいだから」 「えっ、そうなの? 初めて聞いたけど」 「近所の人が勝志んところに連絡入れたみたいだよ。ドアノブが壊されてるって。でも、足の踏み場がなくて、泥棒も中に入るのを断念したみ

      • 愛なんか、知らない。 第5章 ⑦ゴミ屋敷の真実

        「うっわ~、これはすごいな」  私は目の前に広がる光景に、ただただ圧倒されていた。  私の前には、ゴミに飲み込まれるように建っている家がある。門の表札には「海老原」って書いてある。 「これって、ゴミ屋敷だよね」 「そうだね」  一緒に来てくれた心と共に、しばらく無言で見つめていた。  今までテレビで見たことはあるけど、本物の迫力と言ったら。。。  その家は、外壁が黒ずんでいて、見るからに手入れしてない家という感じだ。屋根には青いビニールがかけてある。屋根瓦が落ちているのかも

        • 愛なんか、知らない。 第5章 ⑥どういうこと?

           夏休みが終わり、海老原さんに注文されたミニチュアハウスを何とか仕上げた。  失礼なおっさん、もとい勝志さんから「そんなに時間がかかるの?」って言われたのが悔しかったっていうのもあるけど、やっぱり生活費が丸々なくなるのが不安で、「早く仕上げて、他の仕事をしよう」って気持ちが強くて。  お父さんの書斎の豆本づくりは心にも手伝ってもらった。  写真を見ている限りでは、家具も物もそんなに多くなくて、スッキリした家だから、思っていたより作業が少なかったのも助かった。  美由紀さんに

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        • 愛なんか、知らない。 第5章 ⑧再生の家

        • 愛なんか、知らない。 第5章 ⑦ゴミ屋敷の真実

        • 愛なんか、知らない。 第5章 ⑥どういうこと?

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        • 女子高生×ミニチュアハウス
          54本

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          愛なんか、知らない。 第5章 ⑤ざわつく心

           その日は、お父さんと久しぶりに会うことになっていた。  お父さんは結弦君が生まれてから、すっかり子煩悩になった。土日は結弦君のお世話をしてるみたいで、Pacebookでもよく「息子とブロックで遊びました」とか「公園に行きました!」って投稿してる。  もう、私以上に愛情を注いでいるのは明らかだから、複雑な感情を通り越して呆れてる。私もフォロワーになってるのに、私にこういう写真を見せても何とも思わないってところがね。。。  心は、「自分では葵にも愛情を注いできたって思ってるん

          愛なんか、知らない。 第5章 ⑤ざわつく心

          愛なんか、知らない。 第5章 ④ミニチュアハウスの注文

          「葵さん、ちょっと時間ある?」  老人ホームでのワークショップを終えて片付けていると、スタッフさんから声をかけられた。 「葵さんにミニチュアハウスを作ってほしいって方がいて。入居者さんの息子さんと娘さんなんだけど。ちょうど今日、面会に来てるから、話を聞いてもらってもいいかしら?」 「あ、はい、もちろん、喜んで!」  老人ホームでのワークショップはすっかり定着した。最初は一つのホームでやってたけど、好評だからって、系列のホームにも出向いてワークショップをするようになった。なん

          愛なんか、知らない。 第5章 ④ミニチュアハウスの注文

          愛なんか、知らない。 第5章 ③ガクチカって何ですか?

          「後藤さんって、インターンシップにはもう行ったの?」  しばらく、私は話しかけられたことに気づかなかった。 「後藤さんってば」  強く言われて、やっと気づいてノートパソコンから顔を上げた。 「え?」 「インターンシップに行ったの? って聞いたの」  ここは臨床心理学のゼミの教室。同じ3年生の鹿島さんが、ムッとした顔をしていた。 「あ、ごめ、ごめんね、気づかなくて」 「いいけど。すごい集中力だね」 「あー、実験のテーマを何にしようか悩んでて」 「なら、私と同じチームにならない

          愛なんか、知らない。 第5章 ③ガクチカって何ですか?

          愛なんか、知らない。 第5章 ②ミニチュア作家の日々

           お母さんが突然いなくなって1年半ぐらいになる。私は20歳を超えてしまった。  その間、一度も連絡はなかった。家の電話にも、お母さんのスマホにも。いつお母さんから連絡が来てもいいように、スマホもちゃんと充電してある。  それなのに連絡がないのは、もう二度と、家に戻ってくる気はないってことなのかな。私と暮らす気はないのかな。  お父さんから、お母さんがネットで話題になってるって聞いた時は驚いた。 「あいつ、尼さんになってるみたいだよ」 「は? 尼さん?? どういうこと???」

          愛なんか、知らない。 第5章 ②ミニチュア作家の日々

          愛なんか、知らない。 第5章 再生の家 ①21歳、春。

           目の前に桜の花びらがハラハラと舞い落ちて来た。  私は反射的に片手でつかむ。ゆっくりと握りこぶしを開くと、淡いピンクの花びらがひっそりと手のひらに乗っている。白い掌をほんのりと染めるように。  見上げると、青空をバックに桜の木が枝を広げ、花があふれんばかりに咲いていた。池は花びらで桃色に染められている。  こんな光景、本当なら感動して見とれて、ミニチュアで作れるかなあ、なんて思うのに。今の私には全然響かない。 「葵~、あっちで待ってるって」  受付に聞きに行っていた心が

          愛なんか、知らない。 第5章 再生の家 ①21歳、春。

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑫19歳、冬。

           心さんとの二人暮らしは、おずおずとはじまった。 「おずおず」って言うのは、お互いに距離感に戸惑っていて、手探り状態で暮らしはじめたから。  初日は、「仏壇に、僕のお母さんの位牌と写真も置いていい?」とおずおずと聞かれて、私は「もちろん! どうぞどうぞ」って即答した。 「きっと、おばあちゃんとおじいちゃんも、仲間が増えて喜ぶと思う」 「ありがとう。お母さんも、話し相手ができて寂しくなくなるかな」  仏壇に位牌と遺影を飾って、お祈りをする心さん。遺影のお母さんは若くてキレイで

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑫19歳、冬。

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑪寄り添う気持ち

           けど、心さんから出たのは、意外な言葉だった。 「えと、後藤さんのところに今日行ってみて、居心地がいいなって感じて。僕、ずっと施設では誰かと一緒の部屋で寝起きしてて、寮でも相部屋で。一人だけの部屋って、今までずっとなくて。そういうのもいいなって。社長さんにも自立しなさいってよく言われてたし。だから、バイトもして、毎月家賃は払います」  最後の一言は私に向かって言った。  純子さんと信彦さんは顔を見合わせた。 「そう。立派な考えね」 「それなら、葵ちゃんと二人で暮らして、週に

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑪寄り添う気持ち

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑩暖かな食卓

           私はひたすら戸惑っていた。  仏壇に挨拶してくれたし、なんか、悪い子じゃなさそうな気がする。ってか、私、友達の家に行った時に仏壇にお参りしたいなんて言ったことないし。すごい礼儀正しいんじゃない? おばあちゃんもきっと喜んで 「えっと、それで、住めるんだとしたら、いつから住んでいいんですか?」  心さんは体の向きを変えて、私を見上げた。そこで初めて目が茶色いことに気づいた。 「あ、そそそうですね、仏壇はこのままでいいんだったら、そんなに時間は」 「じゃ、今日からでもいいです

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑩暖かな食卓

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑨はじめまして、同居人さん

          「え? 何? 一人きりって、一人暮らし始めたの?」  純子さんは手を止めた。  その日は、純子さんのワークショップのヘルプに来てた。いつもお願いしてるスタッフさんが急病で来られなくなっちゃって、急遽私に声がかかったんだ。  準備をしながらあくびばかりしてたら、「寝不足? 忙しいのにゴメンね」って言われたから、「いえ、最近、あんまり眠れなくて」って素直に言ったんだ。 「何か悩みでもあるの?」って聞かれたから、「今家に一人きりだから、怖くて眠れないっていうか」と答えた。そしたら

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑨はじめまして、同居人さん

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑧からっぽの家

          「えっと、えっと、じゃあ、どうすればいいの?」 「どうすればいいんだろうねえ。警察に捜索願でも出すか?」  お父さんはずいぶんのんびりした声を出す。 「そんな、他人事みたいな」 「いや、だってさ、オレと理沙はもう他人なんだよね。だから、言ってみれば他人事って言うか」 「……」  私は絶句した。いくらなんでも、取り乱してる娘に言う言葉じゃない気がする。 「まあ、どうせすぐに戻って来るでしょ。タイに行ってた時もそうだったし。しばらく様子を見てたらいいんじゃない?」 「だって、だ

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑧からっぽの家

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑦探さないで

           今年の夏休みは忙しかった。  井島さんにお願いされた教室をスタートしたり、老人ホームでのワークショップを毎月開くことになったり、注文のあったミニチュアハウスを作ったり。  佐倉さんに圭さんのことを聞いても、「こっちも連絡が取れない」としか返ってこなくて。心のどこかで圭さんのことが気になっていても、何もできないまま、目の前の仕事に没頭するしかなかった。  夏休みの終わりに、幼稚園の先生に贈るミニチュアハウスを完成させた。  幼稚園の教室を再現したミニチュア。親御さんたちに送

          愛なんか、知らない。 第4章 ⑦探さないで

          愛なんか、知らない。 第4章⑥あっという間の転落

           しどろもどろになりながらも、何とか、いつも圭さんがワークショップで教えている通りに進めていく。 「えーと、つ、次はこの2枚の布を縫い合わせていきます。は、針と糸は持って来ていた、いだた、いただいたものを使ってください。えと、待ち針でこんな風に留めていくと、縫い、縫いやすくなります」  3人とも、すごく真剣に私の手元を見つめている。もしかして、この人たちは、純粋にミニチュアを作るのが好きなのかもしれない。 「あ、あの、もう少し縫い目を小さくしたほうが、キレイに仕上がりますよ

          愛なんか、知らない。 第4章⑥あっという間の転落