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消印有効

吟行というものがあるが、旅行先で歌を詠むことをやってみようと思った。奈良が大変気に入っていて、2015年から毎年出かけている。他にも、思い立って週末に一泊で出かけることがある。今年は妙な感染症の流行で外出を控えたが、それでも7月に丹波篠山、10月に奈良、11月に大阪へ出かけてきた。10月の奈良から、絵葉書を買って歌を詠んで自分宛に投函する、ということをやっている。本当は、そういうことのできる友達でもいればよいのだが、友達がいないので自分宛なのである。尤も、自分も時間が経てば他人と同じなので似たようなものだ。原則として、一泊一通としている。今年は奈良に二泊、大阪一泊なので、都合3通の短歌付き絵葉書を投函した。歌のほうはともかくとして、その土地の消印のある葉書に値打ちがあると思うのである。

ところが、消印がないままに届くのだ。3通出して2通に消印がなかった。日本郵便のコスト削減の一環か。仮にコスト削減だとして、一体どれほどの費用が浮くというのだろう。消印くらいはちゃんと押しましょうよ、と言いたいが誰に言ったらよいのかわからない。消印がないと間抜けなことが起こる。

大阪に出かけたのは国立民族学博物館のバックヤードツアーというものに参加するためだった。週末を利用して一泊だったので、それほど時間に余裕があるわけもなかった。博物館の売店で絵葉書を買って、歌を詠んで、翌日出かけた天満宮近くのポストに投函した。そのまま、天満宮にお参りして、地下鉄で移動して、高津宮に参拝、高津に行って生國魂神社を素通りするわけにもいかず、そこから歩いて一心寺、四天王寺、通りかかった堀越神社とまわって市立美術館で天平展を観て、天王寺駅から御堂筋線で新大阪へ出て、新幹線で東京へ戻った。

大阪天満宮近くのポストに日曜の午前中に投函した絵葉書は都下の団地の自宅に月曜夕方に届いた。消印は無い。そればかりか、国立民族学博物館の絵葉書だと思ったものは国立歴史民俗博物館のものだった。似たような名前の博物館どうしで営業協力か。民族学博物館は大阪だが、民俗博物館は千葉県佐倉市だ。大阪から出したという証拠がまるで無い。日本郵便の皆さん、投函された郵便物には消印を押しましょうね。

だいたい、葉書がなければどこで詠んだ歌なのかわからないような歌しか書いていないのである。あと、昔、観光地でよく売られていたベタな絵葉書が見当たらない。なんだか妙に小洒落れた絵柄ばかりで、「こんなん一体誰が買うんですか」というような昔あった絵葉書が容易に見つからない。

なんて文句ばかり垂れているが、こんな歌しか詠むことができないのだから、葉書に頑張ってもらって、消印をちゃんと押してもらわないと、何をやってるのかわからない。

古寺の秘仏と聞いて驚嘆す抱き合うガネーシャ何を語らむ

初めての寺に参りて聞く話古い友との会話を想う

紅葉の週末の街賑やかに感染三波人波うねる

一応、歌の説明をつけておこう。一首目は奈良の十輪院で見た小さな黒いガネーシャの像だ。2人というか2神というか2頭というか、とにかく小さな2体のガネーシャが抱き合っている像だ。寺の人の話によると、これがどこかの廃寺の秘仏の御本尊だったというのである。後で調べてわかったのだが、ガネーシャを秘仏の御本尊とした寺は結構あるらしい。「驚嘆」するほどのことは無いのである。

ガネーシャといえば、学生の頃、インドに遊びに出かけて土産に買ってきた柘植のガネーシャの像がある。拳大で、職場の自分の机に置いていたことがあった。たまたまその職場でIT関係の面倒を見てくれていたのがタウロさんというインドの人で、私の席にガネーシャがあるのを面白がっていた。あるとき、タウロさんが帰省して土産に柘植の象の人形を買ってきてくれた。私はガネーシャが知恵の神だと聞いていたので、あやかりたいと思って机に置いたのだが、タウロさんは、私が象好きだと思ったのかもしれない。

二首目は大和郡山にある慈光院に参詣したことを詠んだ。この寺は参拝料が他よりも少し高いのだが、抹茶をいただくことができる。私たち夫婦だけしか参拝客がいなかったこともあり、お茶を出して頂いた寺の方としばらく雑談を楽しんだ。茶道の話だったが、すっかり意気投合して大変愉快だった。初めてお目にかかったのに、昔なじみの友人と話しているような気がした。

三首目は大阪で詠んだ。七五三の時期でもあったで、街は着飾った家族連れが大変多かった。また、先に書いたような事情で出かけたので、宿を民族学博物館に近い千里中央にとった。宿の方も結婚式が何組も行われていて、こちらも大変賑やかだった。コロナの感染が第三波に入ったか、というような時期だったので、人波と感染の波が重なっているかのようだった。

毎日自分宛に葉書でも出そうかな、と思わないこともないのだが、続かないとなんだしなぁ、と思い、とりあえずは出かけた時だけにしておく。

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