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口移しサドル

「この自転車ともいよいよお別れね」私は長年使っていた自転車を、今日手放すことにした。もう古いために新しい自転車に買い替えるからだ。

 この時ふと視線が自転車のサドルに向かったとき、淡い初恋の思い出がよみがえった。
 どのくらい前だろう。初恋の相手とデートをしたとき、この自転車で二人乗りをした。私が後ろに乗っていたらサドルに座っていた相手が自転車を止めて、口にしていた飴を口移しで貰う。

 今思っても顔が赤くなるような思い出の自転車に私は、少し寂しさを感じた。だけど決めたこと。最後に自転車にサドルに腰掛けると、「覚えている」と声をかけたのは初恋の相手。
 そのまま交際してついに結婚の約束をした。一緒に生活するために引っ越しをするから手放す自転車。

 すると彼は後ろのに座ると、「最後だからな」と言って私にいきなりキス。そしてまた飴を私の口の中に「覚えてくれてたんだ」私の一言に、彼は「ずっと忘れないよ」と、ほほ笑んだ。

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