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うそのなかのほんと

これは、とあるセミナーに参加していたときのはなしだ。その瞬間はたしかに救われたのだが、まさかの全てがうそだった。でも救われたのも事実なので、とてもむずかしい。真実とはなんなのか。救いとはいったいなんなのか。

SNSで目立っていたかれらのセミナーに参加しよう、とおもったのは完全におもいつきだった。当時は失恋したばかりで、とにかく救いがほしかった。むりやりでも前にすすみたかった。

そのセミナーでは登壇者がふたりいて、どちらも実績がすごい。ぼくは前のほうに座り、メモをとりながら真剣にきいた。途中、「おふたりにとってのしあわせってなんですか?」と質問した。回答内容はおぼえていないけど、もう涙があふれそうだった。ほんとうに、ギリギリのところで持ちこたえた。ノートはメモでいっぱいになった。

二次会への道中、ぼくはそのひとに、じぶんの恋のはなしをした。うんうんときいてくれて、「大丈夫、大丈夫だよ」「人生はまだつづくから」といってくれた。涙がほろりとおちてきた。もういっぱいいっぱいだった。

かれは仕事の実績も、経歴も、それにともなうオーラもすごくて、ぼくはかるいファンだったのだが、あとから驚愕の事実が発覚した。それは、すべてがうそだったのだ。最初から最後まで、なにもかもがうそで、事実はまるで遠くのばしょにある。あのときの救いはなんだったのだろう、あの涙はなんだったのだろう、とおもった。いったいなにが正解なのだろうか。

かれは今どこでなにをしてるのかわからない。SNSもきえてしまった。すべてがうそだとしたら、セミナー中のことばも大半がうそで、経験談もストーリーも全てが捏造なのだろう。でも、こころから話してるようなことばもあった。あのことばは本当だったのか、うそなのか。あの表情は、本当なのかうそなのか。どこまでが真実で、どこまでがつくり話なのか。

せめて、「大丈夫、大丈夫だよ」というあのことばだけは本当であってほしい。事実、ぼくはだいじょうぶだった。あれから今まで生きてきて、こうして文字をかけているからだ。


−ブログやメルマガに書くまでもない話
(by 20代起業家)

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