【全編無料】新馬戦回収率176%の新種牡馬傾向予想【2023】

おねがい

 100円の有料設定となっていますが、有料部分は0文字なので、全編無料で読めます。ただ、自分でいうのもなんですが約1万9千字におよぶ結構な力作なので、もしこのノートがお役に立てば、購入して支援いただけるといただけると大変うれしいです。

はじめに

 日本ダービーが終わり、今週からいよいよ新馬戦が始まります。新馬戦といえば新種牡馬。今年はやはりダービー馬レイデオロが一番の注目株でしょう。他には同じくダービー馬で、12番人気の大穴を開けたロジャーバローズ、癖がありそうなディープ系のアルアイン、輸入種牡馬からは実績抜群のブリックスアンドモルタルの活躍や、芝ダート両刀で日本で初供用されるサンダースノーの適性、海外での種牡馬成績は振るわないカリフォルニアクロームの逆襲などにも注目が集まりそうです。
 血統を重視する予想家としては、この新種牡馬の傾向をしっかりと予測することで、調教派や回顧派、データ派には掴めない穴馬券を獲得することができると思っています。これは自慢になりますが、私の昨年~今年にかけての新馬戦では、画像の通りそれなりの成績を出せています。購入約23万円、払戻約40万5千円で回収率176%です。

2023年5月までの新馬戦成績
2022年の新馬戦成績

 もちろん自身の血統分析が正しいのか、常にデータをみて検証する必要はあります。逃げ粘る持久力が武器だったキタサンブラックが切れ脚鋭いイクイノックスやソールオリエンスを産むわけで、予測が外れるリスクも十分あります。しかしもし、統計的に信頼できるデータ数が集まる前に、生産者や調教師すらはっきりとは知らない種牡馬の特徴を掴むことができたなら…。穴馬券をとるのは容易です。予測が外れるリスクは、穴馬券をとれる期待と比べれば些細なものではないでしょうか。
 本稿では、2023年に産駒がデビューする新種牡馬を、特に新馬戦から買えるかどうかに注目して解説、予測します。みなさんの馬券購入の一助になれば幸いです。なお、プライベートに近い種牡馬まで考察するときりがないので、2022年の種付け数で上から14番目までを扱います。また、見出しの馬名横の()内は、2020年から2022年までの種付け数の推移です。
注1:各種牡馬の競争成績や血統は、JBISサーチに準拠します。
注2:「中長距離」「スプリント」など距離区分は、SMILE区分に準拠します。

1.レイデオロ(196→170→174)

概要

 社台SSで繋養。父キングカメハメハ、母父シンボリクリスエス。3代母にウインドインハーヘア(ディープインパクトの母)の良血。母母父はスプリント指向のシーキングザゴールド。その子である2代母レディブロンドはスプリンターズSで掲示板。母ラドラーダはマイルで高い能力を発揮、全弟レイエンダもマイラー。自身は東京2000~2400などを中心に好走したが、産駒は比較的短い距離が中心になるかもしれない。牝馬なら母系次第でスプリントをこなす馬も出てくるだろう。
 また本馬は比較的早熟で、ホープフルS(当時はGⅡ)まで無敗で勝ち星を重ね、皐月賞は敗れたもののダービーを勝ち、菊花賞を回避してジャパンカップに出走し連対。4歳時も天皇賞秋を勝つなど一線級で活躍したが、5歳のドバイシーマCで6着になってから成績が悪化。以降一度も馬券に絡むことなく引退した。母も2代母も同じ傾向(レディブロンドはやや特殊な事情もあるが)で、新馬戦からクラシックにかけて狙いたい血統といえる。
 母父はシンボリクリスエスで、ダートを走れそうな要素はミスタープロスペクターのクロス3×4ぐらい。サイアーラインがミスプロなので、ストーム系やA.P.インディ系の牝馬と配合すればダート馬も出るかもしれない。しかし社台系からは、サンデーフリーな東京巧者なのを重用されて、ディープやスペシャルウィークなどを父に持つ馬と交配されている印象。
 これは本来晩成型のディープらに対して完成の速さを補うことができると考えられる。いわば、ディープ産駒が、ディープの日本芝適性とストーム系などアメリカダート系の完成の早さを掛け合わせてダービーに強くしていたのに対し、レイデオロは自身が日本芝適性が高い上に早熟なのを生かし、日本芝適性が高いディープらの血を母系からさらに入れられる。これまでのディープ系黄金配合(母系ストーム系など)よりもさらに高い日本芝適性を発揮する可能性が十分あるだろう。
 しかしその反面、この配合ではダート要素が皆無になる。よって、「芝で惜しい競馬が続くのでダートを試してみよう」というタイプは切ったほうがおいしそうだ。戦績とミスプロ系なのもあって走れると期待されて、人気することも多いだろう。
 逆に最初からダートに出てきた馬や、芝に出してみたけど全然ダメだった馬が仕方なくダートを使ったときに穴を開けるかもしれない。特に馬体重が大きく出やすい牡馬。ダートの妙味は、非社台系の馬に多いだろう。

適性条件

母父サンデー系で芝のマイル、特に新馬戦または若駒限定戦
牝馬で芝のスプリント、特に母父ダンツィヒ系など
母父アメリカダートの早熟血統で牡馬のダート、新馬から1勝クラスぐらい

苦手条件

長距離戦
母父サンデー系のダート、特に人気馬のダート替わり
母父早熟血統の古馬混合戦

2.モーニン(190→178→167)

概要

 優駿SSで繋養。父ヘニーヒューズ、母父ディストーテッドヒューマー。アメリカ産で、ストームキャット系×フォーティーナイナー系の本格的ダート血統。一応母母父が欧州芝血統コジーンで、2代母がアメリカの芝1700mGⅢで3着ではあるが、影響はかなり限定的。
 本馬はデビュー以来一貫してダートを使われ続けたが、5歳暮れの阪神カップに出走すると、13番人気ながら1着のイスラボニータから0.6秒差で6着に健闘。上り3位の33.7と芝でも一定のパフォーマンスをみせたが、次走同条件の阪急杯で凡走。再びダートに戻されている。最晩年にはセントウルS、スワンSにも出走したが凡走。やはり芝への適性は限定的とみるのが妥当だ。
 適性距離はGⅠレベルだと1400~1600m。1200mのGⅠコリアスプリント(国際基準ではリステッド)も、メンバーレベルは疑問ながら勝利するなど、ややスプリントよりの資質もある。
 この適性はヘニーヒューズ、ディストーテッドヒューマーいずれの血統としてもかなり短め。上り上位で差す競馬も多かったことから、アメリカ的なスタート直後の加速力とスピードの持続力を削った代わりに、ギリギリ芝スプリントも走れるほどのスピードの絶対値を手に入れたといえる。
 スプリントよりのスピードと、ヘニーヒューズ×フォーティーナイナー系とくれば、期待できるのが新馬戦。本馬もデビューから根岸Sを含む6戦5勝で挑んだ4歳時のフェブラリーSを勝利している。他方、次走のかしわ記念で凡走してからは成績が途端に悪化。5歳までは交流重賞のさきたま記念2着など好走することもあったが、グレードレースでの勝ち星は挙げられず。さきたま記念を最後に日本のグレードレースで馬券になることもなくなった。
 体力の完成が速いため、ダート血統との配合でダート馬が出るのはもちろん、サンデー系との配合かつ短い距離の若駒戦なら、芝でも勝ち馬を出せるだろう。特にサンデー系のなかでも完成が速くてスプリント適性も高い、フジキセキ系やミッキーアイル、リアルスティールなどとの配合に期待が持てる。ヘニーヒューズも、芝全体の成績はかなり悪いが、芝1200mの新馬戦に限れば、38回出走して複勝回収率83%、単勝適正回収値(注:https://targetfaq.jra-van.jp/faq/detail?site=SVKNEGBV&category=47&id=650)なら100%越えと好成績。
 反対に4歳後半になっても一線級で活躍するには、母系から晩成のサンデー系やロベルト系の力を借りる必要がありそう。特にブライアンズタイム系(フリオーソなど)やゴールドアリュール系(コパノリッキーなど)との配合なら、若駒戦での期待値は下がるが、逆に若いうちに勝ち上がってしまえば、そこからある程度は息の長い活躍が見込めるだろう。さらにこれらは芝でもある程度の適性を持っている種牡馬で、土であるアメリカダート競馬とはやや異なる日本の砂競馬への適性も高めてくれることも期待できる。メイショウハリオやテーオーケインズの母父でもあるマンハッタンカフェ、産駒のダート勝率が高いオルフェーブルやネオユニヴァース、サンデー以外ではカジノドライヴやシニスターミニスター、サウスヴィグラスなどでも同様の期待が持てるだろう。

得意条件

母父アメリカダート血統(A.P.インディ系以外)のダート新馬戦
母父フジキセキ系などで芝短距離の新馬戦

苦手条件

母父ブライアンズタイム系やゴールドアリュール系以外で古馬戦

3.ブリックスアンドモルタル(178→180→127)

概要

 社台SSで繋養。父ジャイアンツコーズウェイ、母父オーシャンクレスト。いずれもストームバード直仔で、ストームバードの3×3という日本ではまずお目にかかれないクロスが発生している。本馬はアメリカ、北米の芝マイルから中距離を中心に好走。BCターフなど、GⅠ5勝すべてを芝で上げている。
 父ジャイアンツコーズウェイはイギリスなどの芝マイル~中距離でGⅠ6勝を挙げた芝馬。ただし引退レースのBCクラシックでも2着に走っており、ダート適性の高さも示した。さらにその母父、すなわちモルタルからみた父母父はレッドゴッド系のラーイ。これはファンタスティックライトなど欧州の芝で高い適正を示す馬を多数輩出した名種牡馬。実際、ジャイアンツコーズウェイ産駒の重賞勝ち馬は日本に4頭いるが、エイシンアポロンのマイルCSをはじめすべて芝。さらに母父のオーシャンクレストもアメリカ芝競馬のデルマーダービーを勝っており、産駒も基本的に芝指向。その子であるモルタルの母もフランスの芝2400GⅡで2着、同距離のリステッドで1着と、高い芝適性を示した。
 とはいっても本馬が日本の高速芝に適応できたかはかなり怪しい。産駒も日本で主流のディープやキンカメ系と、東京芝2000で真っ向勝負しても勝ち目は薄いだろう。日本の芝で勝負するには、まず母父からサンデーorキンカメを入れること、さらに馬力で押していける道悪レースを得意とするだろう。エイシンアポロンのマイルCS勝利も道悪を5番人気でという形だ。また、ジャイアンツコーズウェイ産駒の重賞勝ち鞍は六つだが、そのうち三つが良馬場以外。回収率でみても、芝の複勝回収率はやや重100%、重131%、不良267%。単勝回収率は微妙で勝ち切れていないようだが、あきらかにパフォーマンスを上げている。
 また、六つのうち三つが坂のないコースでもある。どちらにも当てはまらないのは、スズカコーズウェイの京王杯だけ。場所別にみても、複勝率が高い順に函館181%、福島145%、京都106%。いずれも直線に上り坂がない(函館はむしろ下り坂)。札幌や小倉の成績も悪くない。
 ストーム系ではあるが、新馬戦に強いかはかなり疑問だ。ジャイアンツコーズウェイは12週間でGⅠを5勝した、極端な欧州的叩き良化型。日本での産駒成績をみても、新馬戦では平均人気が5.2番人気だが平均着順は7.1着。複勝、単勝ともに回収率は60%前後。キャリアやクラス別にみても、成績、回収率いずれも経験を積んでからのほうがよい。
 ただし初年度に限っては、社台系種牡馬ということもあり、特に社台グループの所有馬はしっかりと仕上げて望んでくるだろう。この手の馬は人気しがちで回収率は高くならないだろうが、かといってむやみに切ってもいいことがない面倒なタイプだ。レース自体を見送るのも一手だし、対抗、単穴ぐらいの評価にして、馬連や三連複の相手にしてみるのも良さそうだ。
 また、ジャイアンツコーズウェイの系統ということで、配合相手を選べばダートも走れるだろう。まず母系にはサンデー、特にディープは欲しくない。キズナやリーチザクラウンなどダートも悪くない種牡馬ならなんとかなるだろうが、美味しいといえるほどかは微妙。ロードカナロアなどミスプロ系なら走れる程度。数は多くないが、アメリカ産馬など完全なダート血統の母を持つ馬なら十分買えるだろう。しかしダートの新馬戦には、血統も実績も完全にダート指向の馬が出てくることが多く勝ち切れるかは疑問。むしろ芝血統が勝ちきれなくて仕方なくダートを使ってくることが増える、未勝利~2勝クラスの成績が良くなると予想する。

適性条件

母父キンカメ系orサンデー系の芝スプリント〜マイル、特に道悪や坂のないコース
母父ミスプロ系orダート血統でダートの未勝利~2勝クラス、特にダート替わり

苦手条件

母系にサンデーやキンカメがない馬の芝レース、特に東京など王道コース
母父サンデー系で、前走芝からダート替わり
長距離戦
新馬戦含む若駒戦(初年度に限り、社台系所有の馬は除外)

4.ニューイヤーズデイ(158→117→121)

概要

 社台SSで繋養。父ストリートクライ、母父ディキシーユニオン。マキャベリアン系(ミスプロ系)×ディキシーランドバンド系(ノーザンダンサー系)という、日本では父系母系ともにかなりなじみがない血統。
 ニューイヤーズデイ自身は、アメリカのBCジュベナイル(ダート1900m)を勝ったのち、調教中のけがで早々に引退し種牡馬入り。2015年生まれが初年度産駒で、マキシマムセキュリティなど既に2頭のGⅠ馬が出ている。
 父のストリートクライはダート馬だったが、その父マキャベリアンはフランス芝競馬のスプリンターで、その母はアイルランドオークスの勝馬と血統自体は芝指向。ストリートクライの産駒もややダートよりなものの、オーストラリア芝競馬でもシャトル種牡馬として成功。特に牝馬は芝適性が高い馬が多く、GⅠ25勝(!?)と33連勝(!?!?)の記録を打ち立てた歴史的名牝ウィンクスなどを輩出した。もちろん、ダートでもゼニヤッタ、ストリートセンスといった名馬を送り出している。
 このマキャベリアンのサイアーラインは日本での活躍馬がほとんどいないものの、母系では芝の大物を複数輩出している。今年産駒がデビューするシュヴァルグランとヴィルシーナ、ヴィブロスの3きょうだいやヴィクトワールピサなど、サンデー系の母父として高い適正を示した。気の長い話になるが、本馬も母系に入ってサンデーをサポートする側に回れば、大物を出せる確率はかなり高いだろう。
 対して母父ディキシーユニオンは、その父ディキシーランドバンドがアメリカのダート1800mGⅠを勝利、母父はシアトルスルー系(ボールドルーラー系)で本馬と同じくBCジュベナイルなどを勝ったカポーティ、母シーズアタレントはダート1400mGⅡを勝利とガチガチのダート血統。芝ダート兼用血統の父とダート血統の母の間に生まれれば、当然その産駒はダート寄りになる可能性が高くなる。
 芝の要素を強く持っていたマキャベリアン自体がダートで買える種牡馬だったので、よりダート指向が強い本馬はよりダートで活躍する馬を輩出する種牡馬になるだろう。芝適性も備えているのは、日本の砂競馬にも向くはずだ。しかし、母系とキャリアに気を付ける必要はありそうだ。
 まず、新馬戦が得意かはかなり怪しい。マキャベリアンの本質はヨーロッパの芝競馬なのだから、叩いて良化する傾向でも全くおかしくない。さらにストリートクライの日本でのダート新馬戦の成績は3-3-2-6で勝率21%、複勝率57%。これだけ見れば適性がありそうだが、平均人気が驚異の2.4番人気。平均着順は3.5着で、複勝率も勝率も人気の割には物足りない。適性が高いだけにごり押しできているが、体力は完成していないということだろう。
 むしろキャリア(出走回数)別にみると、明らかにキャリアを積むほど成績、回収率ともに上昇していく。キャリア0~3走では勝率7.8%で複勝率21.6%、3~5走は勝率7.9%で複勝率26.3%なのに、6~10走では勝率13.9%で複勝率55.6%と一気に良化し、11~15走でも勝率19.4%、複勝率32.3%と好調を維持。明らかな衰えがみえるのは21走目以降だ。未勝利戦でデビューすると周囲が競馬経験があるのに自分だけないという不利を背負うため、キャリア0走の成績が悪いのは仕方がない。しかし3~5走でも大して良化せずに6走目以降で一気に良化するのは、むしろ晩成血統によく見られる傾向。ウィンクスでさえも、3歳まではGⅡで複数回着外に沈んだが、3歳暮れでGⅠを初制覇し、そこから戦勝記録を伸ばしている。

ストリートクライのキャリア別戦績。複勝率、連対率は6~10戦の成績がかなり良く、勝率は11~15戦が最高。

 二つ目に母系。先に述べたとおり、サイアーラインの本質は芝で、サンデーの母系に入ると芝の大物を出す血統。これは反対に言うと、ニューイヤーズデイの母系にサンデーを入れても、それなりに芝適性の高い馬が出てくる可能性はあるだろう。ただし、ディープのような素軽さを極めた血統よりも、タフな芝を走れるステイゴールド系や、母系マキャベリアンでヴィクトワールピサを出したネオユニヴァース系などの牝馬と配合した方がよさそうだ。これらの配合は、ダート中距離×芝中長距離なのだから、距離は中距離~中長距離、牝馬であればマイルがギリギリ、というところになるはずだ。
 よくいえば両刀、悪くいえばどっちつかずの血統なので、芝3600mみたいな極端な条件でなければ、どうしても走れない苦手条件はなさそう。幸い種付け数は十分なので、◎を打つならしっかりと条件を絞り、芝なら芝、ダートならダートに徹底的に向いた馬だけを選別して買いたい。

適性条件

母父ステイゴールド系などのタフなサンデー系で、芝中・中長距離、キャリア5戦目以降
母父ダート血統orミスプロ系の牡馬で中・中長距離でキャリア5戦目以降、特にダート替わり

苦手条件

極端な長距離戦
新馬戦以外の若駒戦
(新馬戦は苦手というほどではないだろうが、期待値がついてくるかは疑問)

5.サンダースノー(152→160→124)

概要

 ダーレージャパンSCで繋養。父はデインヒル系(ダンツィヒ系)のヘルメット、母父はキングマンボ系の傍流ドバイデスティネイション。ヘルメットはデインヒル系らしく、オーストラリアの2~3歳限定戦の芝1400~1600mGⅠを3勝。ドバイデスティネイションもイギリスの芝1600mGⅠを勝利。芝のマイラー血統が凝縮されている。しかしサンダースノーは、芝ダート両刀の馬として成功。芝ではフランスの1400mと1600mのGⅠをそれぞれ1勝と血統通りの走りをしたが、ダート2000mのドバイワールドカップの連覇やUAEダービーも勝利し、競走中止となったがケンタッキーダービーにも出走するなど、ダート中距離でも高い適正を示した。
 このダート適性の理由を血統に求めるなら、母母父のヌレイエフになるだろう。ヌレイエフはサドラーズウェルズやフェアリーキングの伯父にあたる芝血統で、産駒も芝マイルの傾向が強い。しかしキングマンボやゴールドアリュールの母父であるなど、馬力を引き出しやすく、母系に入るとダート適性を高めることがある。

母父ヌレイエフの賞金上位20頭。太字は芝ダート双方で実績あり、赤字はダート実績のみの馬。サンデー系を中心に、芝血統との配合でも多くのダート馬を出していることが分かる。

 このヌレイエフの特徴が出たのがサンダースノーなのだから、A.P.インディ系などにはかなわないにしても、当然ダート適性は十分に高い。母系からアメリカダート血統を補えれば、ダートで十分活躍できるだろう。
 ただ、むしろ馬券的なうまみは芝の新馬戦や若駒戦にありそうだ。オーストラリアは2歳短距離戦が主流で、2歳限定の芝1200mゴールデンスリッパーSが、日本でいう日本ダービーのような位置づけになっている。いわば、芝のスプリントを走れる高速適性とダッシュ力、それを2歳までに身に着ける完成の速さが問われるのがオーストラリアの環境で、デインヒルはここで大成功を収めている。他方、日本の競馬は3歳中旬にある芝2400mの日本ダービーが中心で、これに強いディープとキンカメがリーディング争いを繰り広げてきた。つまり、デインヒル系は日本の主流種牡馬に比べて、芝のスプリント力と完成の速さで圧倒的に優位にあるといえる。
 これがダートになると、出てくるのはアメリカの血脈の馬が多くなる。アメリカ競馬はクラシックを走らせてさっさと引退させ、種牡馬にして種付け料を稼ぐというビジネスライクな文化で紡がれてきた。昨年わずか6戦で現役を退いたフライトラインはその典型だ。つまり、アメリカもオーストラリアと同じく完成が遅い血統は淘汰されるのであって、この点でデインヒルの優位性がなくなってしまう。日本のダートは土ではなく砂、という点では芝も走れる本馬に優位性があるかもしれない。雨が降って高速化した場合などには、より顕著になるだろう。
 よってダートも十分買える条件ではあるが、アメリカ血統には走れない芝レースかつ、日本血統には走れない2歳時のスプリントで買うのが一番儲かるのではないだろうか。特に洋芝の函館と札幌、中でも6月から開催される函館の新馬戦や函館2歳Sでは注目したい。
 母父には、オルフェーブルやフリオーソ、ホッコータルマエといった、露骨に叩き良化型の馬以外であればなんでもよさそう。また、この手の早熟血統は気性の前向きさにも優れており、それが新馬戦から走れる一因にもなっている。その反面、一度精神的に崩れるとそこから立て直すのは難しい。特に神経質な牝馬が一度気性難を発症したり大崩れしたりすると、放牧や叩きを挟んでも治らない可能性があるので、深追いするのは危険だろう。立て直せたとしてもそれに時間がかかると、せっかく体力に差がある期間を無駄にすることになってしまうので他馬に追いつかれる蓋然性が高くなり、オッズに見合わない走りも多くなりそうだ。
 新馬戦に強いという適性を崩さずに距離を中距離まで広げて主流適性も追いかけるなら、母系にディープインパクトやハーツクライ、少し気が早いがエピファネイアなどが入った馬が良さそうだ。ただしそれでもクラシックレースやJC、天皇賞秋など主流の大レースを勝てるのはトップオブトップのみ。数世代に1度出ればいい方だろう。

適性条件

芝スプリントの新馬戦、特により早い時期の開催や洋芝、道悪
母父ダート血統のダート、特に2歳戦や雨で高速化した馬場

苦手条件

古馬混合戦
芝中長距離以上
一度大敗してからの立て直し、特に牝馬

6.カリフォルニアクローム(143→154→148)

概要

https://www.jbis.or.jp/horse/0001211258/

 アロースタッドで繋養。父ラッキープルピット、母父ノットフォアラブ。ラッキープルピットはA.P.インディ系。ノットフォアラブは、自身の競争成績はパッとしないものの、全兄にダートGⅠ2勝のリズム、いとこにウッドマンの良血を買われて種牡馬入り。産駒も一流馬はいないが、ダートでGⅡ勝ち馬などを出した。本馬はモルタルと異なり、血統、成績ともにガッチガチのダート血統。芝を走れる要素はほぼない。
 一応、日本以前に繋養されていたチリではそれなりに芝の勝馬を出していたようだが、芝ダート問わず重賞は勝てていないらしい。血統的には良血とはいいがたい、いわばブラックタイドの子のようなイメージだ。
 本馬はタピットの系統らしく、5歳の暮れになっても元気にBCクラシック2着に好走している。これはアメリカダート血統には珍しい傾向だ。しかし「パイロの新馬戦はうまい」という例外があり、それがいつの間にか「A.P.インディ系は早熟早枯れ!」みたいに流布されている。なので、馬券購入者がカリフォルニアクローム産駒も早熟早枯れだと思ってくれるなら馬券妙味が出そう。
 以上から買いたくなる要素がない場合、特に馬券購入者がカリフォルニアクロームについて理解していない初期の間は、適性でごり押しできる新馬戦以外の若駒戦では無条件で切ってしまってもいいだろう。頭数も多くないので、さほど困らないはずだ。
 芝も多少走れるダート血統ということで、土ではなく砂の日本ダートへの適性は比較的高そう。マジェスティックウォリアーが芝指向のダートでもパフォーマンスを落としにくいのと同じように、雨が降って高速化した馬場などに特に向くだろう。芝に出走してくる産駒は少ないだろうが、実際ほとんどの馬には適性がないはず。走れるとしたら、まずは大型の牡馬よりも牝馬がいいだろう。さらに小回りのローカルで雪が積もっているなど、非常に特殊な条件下であれば買えるかもしれない。


適性条件

キャリア5戦目以降のダート戦、特にマイル~中距離
重馬場の高速ダート

苦手条件

新馬戦以外の若駒戦
芝レース

7.シュヴァルグラン(128→91→78)

概要

 ブリーダーズスタリオンで繋養。父ハーツクライ、母父マキャベリアン。ジングシュピール、ダノンシャンティなどを輩出したグローリアスソングの牝系。グロリアスソングはヘイローの直仔だし、ジングシュピールはサドラー系の海外馬ながらJCを勝っている。日本の芝への適性はかなり高い。

グローリアスソングの牝系から、日本馬を中心に目立った成績のある馬を抽出。赤は牝馬。

 また、マキャベリアンもヘイローの血を持っており、トップラインを含めてヘイローのトリプルクロスが発生している。本馬は有馬記念やドバイシーマC、天皇賞春などタフな条件でも好走した。他方クラシックには出走すらできず、3歳秋から本格化し、7歳までGⅠ戦線で好走した典型的な芝の晩成血統。これはディープ産駒でクラシック戦線を賑わせた姉妹と大きく異なる点だ。
 ハーツクライは父サンデーサイレンスで母父トニービン。トニービン系の代表馬は、ダービーを勝ち春天も2着のジャングルポケット、その産駒で、同じく春天2着でジャパンカップを勝ったトーセンジョーダン、菊花賞を勝ちジャパンカップで連対したオーケンブルースリ、秋天を5歳で勝ったエアグルーヴや6歳で勝ったサクラチトセオー(これが初GⅠ制覇)など。いずれも芝の古馬戦や長距離戦、東京の中・中長距離戦で活躍した。ハーツクライ自身も、初GⅠ制覇は古馬になってからで、ディープインパクトを退けて有馬記念を勝利した晩成中長距離血統。クラシック戦線をにぎわせた姉たちと違い、この特徴が強く出たのが本馬なのだろう。さらにマキャベリアンもニューイヤーズデイの節で解説した通り、叩いて良化するヨーロッパ的な血統だ。
 以上から、本馬はとにかく完成に時間がかかる晩成血統で、完成すれば芝の中長距離を走る産駒が多くなるだろうと予想する。反対に若駒戦は得意ではない。単純な芝適性の高さから、スローペースになりやすい新馬戦では、母系にアメリカ血統やデインヒル系などがいれば無条件に消すまではいかない。ただし、芝1800m以上と新馬戦としては長距離のレースを選んだ方がいいだろう。さらに本馬と同じく晩成のロベルト系などであれば、強く疑ってかかるべきだ。
 ダートは、サンデー系としてはやや適性が高めのはず。まず父ハーツクライの産駒が、ダート替わりでも好走することが多い。そして母父マキャベリアンもダートがこなせる種牡馬。さらに母母父がヌレイエフ。サンダースノーの項で解説した通り、母系にヌレイエフがいるとダート適性が強化されることがある。ただし、あくまで本質は芝。ダートを走るには、まず馬力のある牡馬であること、さらにアメリカダート血統が母父であるのが条件だろう。この条件を満たす馬なら、メンバーが手薄になる3歳春以降の未勝利戦などでダート替わりすると妙味を生み出すかもしれない。

適性条件

古馬の芝中長距離戦
母父アメリカダート血統の牡馬でダートの3歳未勝利戦、特にダート替わり

苦手条件

母父アメリカダート血統orデインヒル系以外で、新馬戦以外の若駒戦

8.スワーヴリチャード(123→84→81)

概要

 社台SSで繋養。父ハーツクライ、母父アンブライドルズソング。ドバイシーマCでも3着に走ったが、ダービー連対、ジャパンカップ勝利、安田記念3着など、東京芝の幅広いカテゴリーで好走。大阪杯優勝や宝塚記念3着などの実績もある。
 同じく父ハーツクライのシュヴァルグランと違ってクラシックから好走できたのは、母系のアンブライドルズソングの影響が大きい。アンブライドルズソングはファピアノ系で、コントレイルの母父でもある。ディープやハーツの母系に入ると、クラシックまでにしっかり仕上げてくれる血統といえる。また、2代母キャリアコレクションはシアトルスルー系で、2歳牝馬限定アメリカダートGⅠのBCジュベナイル2着など早い時期から好走。本馬は晩成型のハーツクライに完成の早い肌馬をあてる、現役馬ではドウデュースやダノンベルーガなどに近い血統構成だ。
 サンデー×ミスプロという、ディープやキンカメ系と交配するとインブリードが発生する血統の為、ノーザン系やロベルト系との交配が比較的多めな印象。アウトブリードをよしとする日本ではやや扱いやすさには欠けるところが否めないが、サンデー系の肌馬との交配も一定数あるようだ。
 どこが適性になるかは、母系によって決まりそう。まずノーザン系の中でもストームやフレンチデピュティなどと交配すれば、完成の早い血統になり新馬からクラシックにかけて走れるだろう。特に牡馬ではダートをこなす馬も出てきそうで、ダート替わりにも注目したい。ロックオブジブラルタルやハービンジャーなどダンツィヒ系であっても、同じく早熟血統になるだろう。この場合砂適正が削れるかわりに芝適性がより強化され、クラシック戦線に名乗りを上げる馬も出るかもしれない。ただし、ダンツィヒ系の中でもウォーフロント系はアメリカダートが本流なので、ストーム系やフレンチデピュティと似たような傾向になることが多いだろう。
 反対にロベルト系やサドラーズウェルズ系、将来的にありそうなサトノクラウン(トライマイベスト系)などとの交配では、基本的に晩成血統になりそう。この場合も、ブライアンズタイム系以外との交配では、基本的に芝適性が高くなり、ダート適性は落ちるはずだ。すると若駒のときに芝でスピード不足だからダートを試す、といようなパターンで人気になるなら、消すことで妙味があるだろう。反対に、芝からダートに移ったが伸び悩み、3歳夏以降にもう一度芝に戻すようなパターンがあれば、これが万馬券を産むかもしれない。芝戻りは基本的に人気が出ないが、このころには体力が完成している可能性があるからだ。
 他には、ディープやロードカナロア、気が早いがエピファネイアなどの肌馬と交配すれば、単純に芝中長距離適性、なかでも東京や阪神外回りなど広いコースの適性がぐんと強化される。特にカナロアとエピファネイアはインブリードも最低限で済む。しかしこの手のコースは単純な力比べになりやすく、馬券的な妙味は芝のスプリントやダートで消すことにありそうだ。

適性条件

母父ストーム系などアメリカダート血統で、芝の新馬から若駒戦
母父ストーム系などアメリカダート血統の牡馬で、ダート替わり
母父ダンツィヒ系で芝マイル、特に新馬から若駒戦、牝馬
母父サドラー系やロベルト系で、3歳夏以降のダートから芝戻り
母父が芝のリーディング上位種牡馬で芝中距離以上、特に東京や阪神外回り

苦手条件

母父ストーム系などのダート血統以外でダート、特に牝馬
母父エピファネイア以外のロベルト系やサドラー系で、新馬戦以外の若駒戦

9.アニマルキングダム(117→81→46)

概要

 日本系種牡馬協会が導入。父ルロワデザニモー、母父アカテナンゴ。ブラッシンググルーム系×ヘロド系という、日本ではほぼ見られない配合。ルロワデザニモーはダートにも出走経験はあるが、北米、アメリカ芝競馬のGⅠで勝利した馬。母はドイツ牝系で、ドイツの芝2000mGⅢの勝ち馬。その母父、すなわち本馬からみた母母父はダンシングブレーヴ。かなり芝競馬に偏った配合。
 しかし本馬は、デビューからオールウェザーと芝を使われ続けるも、ダート経験なしでいきなりケンタッキーダービーに出走し優勝。さらにオールウェザーのドバイワールドカップも勝利と、ダート中距離に高い適正を示した。芝GⅠでも勝ち鞍こそないものの、BCマイルとガルフストリームパークターフH(北米)でいずれも2着と、芝でも好走した両刀。
 すでにオーストラリアとアメリカで種牡馬として活躍している。産駒は基本的に芝適性で、北米で2022年の芝最優秀牝馬にあたるリーガルグローリーをはじめ、オーストラリアでもオーストラリアンダービー勝馬のエンジェルオブトゥルースを出すなど、牝馬はスプリントからマイル、牡馬は中、中長距離で活躍する馬が多い。
 オーストラリアで一定の成功をおさめてはいるが、それは2歳スプリントというオーストラリアらしい完成の早さとスピードが求められる分野ではないという点には注意。むしろ晩成の中長距離という、真逆の適性だ。だからこそ、軽種牡馬協会が導入して日本に来られたのだろう。
 すでに日本で活躍している種牡馬としては、バゴがかなり近いイメージになるだろう。牡馬は中長~長距離で、牝馬はマイルから中距離で好走。特に古馬になっても衰えない強みもありそうだ。
 反対に、ダート適性と若駒戦適性はかなり疑わしい。ディープやバゴと比べれば多少走るだろうが、ダートの短距離新馬戦なんかは最悪だろう。すでに日本でも産駒が6頭走っており、イッツリットなど中央では3頭が5勝を挙げているが、4勝がダートで残りは芝1200m。一見芝スプリントやダートに強いアメリカらしい血統にみえるが、これは父系ではなく生産地、すなわち母系がアメリカだから。ダートに適性が高いというより、日本の高速芝を走れるサンデーやキンカメ的な素軽さを削られたせいでダートを使っていたにすぎないといえるだろう。ケンタッキーダービー勝ち馬ということで産駒がダートで人気するなら、切った方がオッズ妙味が取れそうだ。

適性条件

3歳後半以降の芝中~長距離戦

苦手条件

芝のスプリトンで若駒戦
母父サンデー系でダートの新馬戦、特に牝馬やスプリント戦

10.アルアイン(104→108→107)

概要

 ブリーダーズスタリオンで繋養。父ディープインパクト、母父エッセンスオブドバイ。ディープ×プルピット系(A.P.インディ系)の配合で、シャフリヤールの全兄。母ドバイマジェスティはダート1400mGⅠのBCフィリー&メアスプリントで優勝している。アルアインの血統には「例外」が多く仕込まれており、これが馬券購入者の盲点になる可能性がある。
 まず、ディープ×アメリカダート血統ではあるが、母系が完成を早めるのにさして役立っていないところ。ディープ自体は晩成の傾向があるが、それにストーム系などアメリカダート血統を入れてダービーに間に合わせるのがディープ系の定石。コントレイルやキズナ、マカヒキなどがそうだ。しかしエッセンスオブドバイはプルピットの系統で、これは比較的晩成の血統。ドバイマジェスティも、BCフィリーを勝ったのは引退レースとなる5歳のときで、これがGⅠ初制覇だった。それでも皐月賞を勝てたのは、ハイペースになった結果先行して粘る力が問われる消耗戦になり、直線の爆発力がものをいうダービーとは真逆の適性が要求されたから。実際アルアインは好位につけて勝っている。マイルCSで番手につけて3着というのも、スピード持続力の証明だろう。

アルアインが3着以内に走った重賞レースのデータ。通過順は全コーナー6位以内で、全コーナーを番手で通過したレースも三つ。中山をはじめ、GⅠのあるメインコースの中では直線の短いコースでの好走も多い。また、芝重賞勝ち馬としては遅い上り35秒以上の勝利も多い。8レースのすべてが、この条件のいずれかに当てはまっている。

 さらに、得意な条件になればこれまでの凡走が嘘だったかのように巻き返すのはディープらしくない。本馬はGⅡで着外に飛んで9番人気まで落とした大阪杯で、再び好位につけて優勝している。大阪杯の阪神内回りと皐月賞の中山は、直線の坂が険しく小回りで直線が短いコースという点で共通点が多い。
 以上から、アルアインは本質的には、ディープから日本の高速芝適性を受け継ぎつつも、母方のようにダートスプリントのダッシュ力とスピードの持続力にも優れた馬だったと評価できる。これはダービーを上り最速で勝ったシャフリヤールとは真逆の適性だ。この違いは、馬体重にも表れている(アルアイン引退時526kg、シャフリヤール22年JC出走時450kg)。
 よって、母系から完成の早いダート血統、ストームやクロフネなどを補えば、ダート中距離で勝ち上がる馬も出てくるだろう。特に牡馬には期待が持てる。また、サドラー系など欧州芝血統が入れば、完成は遅くなる替わりに芝の重馬場や小回りコースを押し切って勝つ馬が出てきてもおかしくない。反対に、ディープから主流適性を補うことができない都合、ダービー馬を出すのはなかなか難しそうだ。ディープ系ながら、ほかのディープ産駒が走れない馬場で高い能力を発揮するだろう。

適性条件

母父アメリカダート血統の牡馬でダート中距離以上、特にダート替わり
母父サドラー系などで中山芝や阪神内回りのなどの古馬戦、特に重馬場や逃げ、先行馬

苦手条件

東京芝中~長距離の良馬場など、上りの速さが要求されるコース
母系にダート血統がない馬のダート、特に牝馬

11.ロジャーバローズ(97→87→68)

概要

 初年度はアロースタッドで繋養。2年おきにイーストスタッドと往復する国内シャトル種牡馬。父ディープインパクト、母父はジャックルマロワ賞などを勝ったリブレティスト。母リトルブックはイギリス産で、リブレティストは凱旋門賞勝ち馬のアレッジド(リボー系)産駒の肌馬と配合されたダンツィヒ直仔。母母父はリファール産駒のリファーズスペシャル。ディープインパクトの母父アルザオもリファール系なので、本馬にはリファールの4×4のクロスが発生している。母系の競争成績に目立つ点はないが、血統的には2代母がカルノーマズレディで、ジェンティルドンナのいとこにあたる。母父がダンツィヒ系なのも同じ。
 ディープにイギリス芝血統の肌馬をあてたとなれば、普通は古馬になってからの成績に期待したくなるところ。しかし本馬はダービーを12番人気で勝った後、故障で引退したため、古馬になってからのパフォーマンスは推測するしかない。
 推測する手掛かりの一つには、ダービー制覇前に凱旋門賞に出走登録していたことがあげられる。血統的にも欧州芝適性は高そうだが、調教師らがタフな馬場への適性を感じていた可能性がある。
 また、脚質も重要。京都新聞杯を逃げて2着、ダービーも全コーナーを2番手で通過する押し切り勝ち。逃げ、先行からの押し切りは欧州芝血統の十八番であり、ディープらしさはもちろん、母系の適性もかなり高い割合で引き継いでいたことがうかがえる。
 もう一つの着目点として、母父リブレティストのマイル適性があげられる。前述のジャックルマロワ賞を含め、芝の1600mGⅠを2勝というダンツィヒらしい戦績。その産駒も、イギリスの芝1200mGⅡを中心に勝ったリブラノなどスプリント、マイル適性が高い馬が多い。本馬の母母父も、イギリスの芝1200mGⅠを勝ったジユニアス。母系からはかなりスプリント、マイル適性が補強されている。
 しかし本馬自身は2000mでデビューし、唯一出走した2000m未満のスプリングSでは2番人気で7着に惨敗と、かなり短距離適性が低いようにみえる。本馬の産駒も中長距離適性に振れる可能性もなくはないが、ここまで血統面でスプリントに寄せられれば、普通は短い距離に適性を示すことが多い。とはいえ、ディープ産駒系は基本的にスプリントには強くない。特に牡馬。となると、マイル~中距離あたりが適性になるだろう。イメージとしては、やや距離を伸ばしたミッキーアイル、といったところになりそう。
 きっぱりと適性がないと言い切れるのはダート。母系をアメリカ産のガチガチダート血統で固めても走れるか怪しいと思えるほど、芝のスピード血統を詰め込まれている。
 逆に芝短距離血統、特に早熟傾向のダンツィヒ系が入っているおかげで、芝の新馬戦適性はかなり高そう。特に母父からストーム系など完成の早いアメリカダート血統や、あまりいないだろうがデインヒルなどの血を供給された馬であれば期待が持てるだろう。新馬戦の中でも、1200mはヘニーヒューズなどのダート血統がそのまま走ってしまうことが多いため、1600m以上の比較的長めの新馬戦で特に有利だろう。

適性条件

芝マイル~中長距離
芝の新馬戦、特に母父アメリカダート血統、1600m以上

苦手条件

ダート、特に時計のかかる良馬場

12.ホークビル(95→55→53)

概要

 ダーレージャパンSCが繋養。父キトゥンズジョイ、母父ジャイアンツコースウェイ。母トレンサは北米芝競馬のGⅢで2着。本馬はエクリプスSなどをはじめ、イギリス、ドバイなどの芝中~中長距離GⅠで活躍。サドラー系×ストームバード系だが、キトゥンズジョイ、ジャイアンツコーズウェイともに一筋縄ではいかない複雑なラインだ。
 キトゥンズジョイはサドラー系の中でも、エルプラドの系統にあたる。エルプラド自身はサドラー系らしい欧州芝的な血統と戦績だったが、北米で供用されるとメダグリアドーロなどをはじめとしたダート中距離馬を多数輩出し、北米リーディングに輝いた。その産駒であるキトゥンズジョイは、ジャックルマロワ賞(フランス、芝1600m)勝ち馬であるリアーファンを父に持つ牝馬との交配で生まれた。ダートのダッシュ力と芝マイルのスピードがうまく合わさったのか、自身も産駒も高い芝適性を示した。本馬の他にステファニーズキトゥン、日本ではジャンダルムを輩出するなど、芝の短い距離で好成績を収めている。
 ジャイアンツコーズウェイはブリックスアンドモルタルの項で解説した通り、ダートも走れる芝のマイル~中距離血統。すなわちキトゥンズジョイもジャイアンツコーズウェイも、欧州やアメリカ芝の短い距離で高いパフォーマンスを発揮しながらも、実績、血統ともにもアメリカダートの要素が入っているということになる。
 これが日本に芝でどう生きるかを考えるなら、キトゥンズジョイとジャイアンツコーズウェイの日本での成績を考えるべきだろう。両者ともに芝の短距離からマイルが適性。また、ジャンダルムが7歳でスプリンターズSを勝ったように、古馬になっても勝率が落ちにくい。ダートをこなす馬もいるが、それなら母系からもっと本格的なアメリカダート血統か、日本の砂競馬で高い適正を示した種牡馬の系統の肌馬と交配する必要があり、単体で砂適正が高いとは言いづらいだろう。

適性条件

古馬の芝短距離~マイル、特に重馬場
母父アメリカダート血統でダートマイル~中距離、特に未勝利~2勝クラス付近

苦手条件

芝の中長距離以上
母父サンデー系などでダート

13.エピカリス(88→50→35)

概要

 レックススタッドで繋養。父は砂の一族ゴールドアリュール、母父はサドラー系のカーネギー。母母父がマルゼンスキー、3代母父はフランスの芝で活躍した、セントサイモン系のダイアトム。
 母系にダートの要素はほとんどなく、半兄(父ハーツクライ)のメイショウナルトは小倉記念、七夕賞を勝っているほど。またそもそもゴールドアリュール自身がサンデー×ヌレイエフで芝血統の詰め合わせ。本馬の産駒がダートをしっかり走ろうと思えば、母系から本格的なアメリカダート血統を補強する必要があるだろう。それでもゴールドアリュール系であるだけに短距離の適性は高くならないはず。狙えるのは1700m以上くらいからだろう。
 そして数は多くないだろうが、血統表にある馬の個々をみると馬力のある芝血統が集まっているのだから、母系もヨーロッパの芝血統だった場合、道悪のローカルなどごく特殊な条件で穴を開ける可能性がある。逆にエピカリス産駒が芝で穴を開けた場合、かなりの特殊馬場といえそう。

適性条件

母父ダート血統、ダート1700m以上。特に古馬戦。
母父ヨーロッパ芝血統で芝の道悪、特にローカルの穴馬

苦手条件

良馬場の芝
ダート短距離、特に母父ダート短距離血統以外

14.アポロケンタッキー(77→61→54)

概要

 レックススタッドで繋養。昨年他界しており、22年産が最終世代となる。父ラングフール、母父はミスプロ系のゴーンウエスト。ラングフールはダンツィヒ直仔だが、メトロポリタンSなどアメリカの1400~1600mダートGⅠを3勝したダート馬。最近では、テイエムサウスダンの母父といえばイメージしやすいだろう。ラングフールの母父ブライアーティックもダート馬で、かなりしっかりとしたダート血統。さらに本馬の2代母はレイクレディはヴァイスリージェント系のソルトレイク産駒で、アメリカのダート1900mGⅡで2着2回。母系からもダート要素を凝縮された、根っからのダート馬。
 本馬は東京大賞典や日本TV盃勝利をはじめ、川崎記念2着など、ダート中距離で活躍。血統から見るとやや長めではあるが、おおよそ血統通りの好走距離といえる。
 これだけ似たような血統が詰まっていれば、産駒にもおおむね同じ傾向を伝えるはずだ。仮に母父にディープインパクトを入れたとしても、芝馬をだすのはかなり難しいだろう。
 加えてさらに、晩成の中長距離傾向というのが馬券的な妙味を産みそうだ。ダート短距離適性がある馬は相当少なくなるだろうし、マイルでもかなり厳しそう。これほどの中長距離特化ダート馬はなかなかいないので、長い距離に出てきたときは押さえておきたい。
 またラングフールは4歳秋で初めてGⅠに出走した晩成血統。母系から早熟血統を補われても、本格化するのは3歳秋以降になるだろう。特に番組体系的に、2歳時はダートのマイル以下に出走することも多いだろうし、産駒デビューからしばらくは人気馬を消す形でお世話になることが多そうだ。

適性条件

3歳秋以降のダート中・中長距離

苦手条件

若駒戦
芝レース
ダート短距離

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