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「私の青い星~Bluestar~」第三話 創作大賞2024 #恋愛小説部門

第三話


 七月三十日になり、ようやく八月の二週間分のシフトが完成した。
 ディッシュウォッシャーの大きな機械の陰に隠れて、私は自分のシフトと黒崎健吾のシフトを指でなぞった。
 私が夜の時間帯に入っているのは二週間のうち三日。そのうち二日が黒崎健吾と一緒だった。
あと、私の昼間の時間帯が十四時から十八時という日が二日あり、両日とも十八時から黒崎健吾が出勤予定だった。つまり、二週間のうち四日会えるということだ。
 私はその日が待ち遠しかった。少しでもきれいになりたいと思った私は、アルバイトの帰りに駅前のファンシーショップに寄って、新しいヘアブラシとヘアゴムを買った。
校則が厳しい島田南高校では禁止されている、薄桃色のスパイラル状のヘアゴムを選んだ。
都会の高校生は化粧をして登校していることを、雑誌で知ったが、私の住む藤枝市近隣の高校で、化粧が許されている高校は存在しない。
少し悪びれた生徒は、色付きのリップクリームをして登校することもあるが、生活指導の教師に叱られるのがおちだった。
 私は、これぐらいなら大丈夫だろうと、明るい藍色のヘアゴムで肩まで伸びた髪を後ろで一つ結びにして登校したところ、「青いゴムは駄目だぞ。」と注意されてしまった。
 ヘアゴムの色は、黒、紺、茶と決まっていた。もちろん染髪は許されていない。眉毛の形を整えることは黙認されているが、アイブロウで描くのは禁止。透明であってもマニュキアは付けてはいけない。
私はそれを当然のこととして受け入れていたから、あまり窮屈には感じていなかった。けれど、東京からきたという黒崎健吾から見たら、私は田舎の少女そのものに違いない。数年前まで、雑誌に載っている読者モデルのような女子高生と一緒に高校生活を送っていたはずだ。もしかしたら、そのうちの誰かと交際していたかもしれない。都会の高校生の暮らしなど、想像することさえできなかった。
 私は、薄桃色のヘアゴムで肩まで伸びた髪を編み込んで二つ結びにして鏡をのぞいた。もしかしたら、自分が思っているほどにお洒落ではないような気もしたが、それでも可愛さは増したように思う。
 
 



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