マガジンのカバー画像

エッセイ 「専業主婦、社長になる」

15
44歳、お気楽専業主婦が、故郷にある父の会社を継承することになりました。9歳の頃、家を出て行った父。なぜ三女の私が事業継承者なのか?全てが実話です。月に一度以上更新します。
田舎の中小企業の事業継承について、家庭環境を含めて赤裸々に知ることができます。マガジン開設時(20… もっと詳しく
¥550
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
1はじめに

1はじめに

はじめに

このエッセイは、事実に基づいて、44歳の専業主婦である私が二代目社長になるまでを記録するものである。

15 死期を感じた日

15 死期を感じた日

2024年5月。
いつも通り、給与計算の為に新幹線に乗って出張へ出かけた。
夫の仕事の都合がつかず、子どもを通学路の途中まで見送り、仕事モードのスイッチを押した。

本当はわざわざ東京から新幹線に乗って片道3時間もかけて出張しなくても良いのだろうが、そこは二代目社長となる身。
毎月顔を見せることで生まれる信頼関係もあると信じているので、多少の無理をしてでも事務所へと出向く。

14 経理と横領

14 経理と横領

ドラマや映画、または実際のニュースで、会社の銀行口座から「横領」するという話を見聞きすることがある。ある時は、銀行員だったり、ある時は、社長の右腕社員だったり。「信頼していた人物が!」という驚きと共に、横領事件は発生する。
 「実際にそんなことがあるのか?」と思うのが一般的だろう。

私は現在、父の会社の経理をしている。
と、言っても、一部分だけで、経理全般ではないが。
東京の自宅から、会社の口

もっとみる
13 展示会

13 展示会

父の指示で展示会へ行ってきた。約20年ぶりの展示会。
この日の為に、バッグを新調した。ビジネスシーンでも通用するように、紺色のブラウスを着て、展示会会場へと向かった。

仕事らしい仕事は久しぶりだ。
経理の仕事は、東京都内にある自宅のパソコンで作業している。
出勤する場合も、カジュアルウエアで構わないので、身なりを整え、名刺を持って出かけるということに胸が高鳴った。

開始時刻と同時に到着したが、

もっとみる
12 名刺づくり

12 名刺づくり

展示会に行くにあたって、名刺が必要となった。社員に、私用の名刺を発注してもらった。
メールアドレスも専用のものを作ってもらった。大抵はmyouji(苗字)@会社名.co.jpとなる。
私は結婚してから姓が変わっているので、父とは同じにならなくて済んだ。

2 詐欺

2 詐欺

死ぬ死ぬ詐欺

これは、少し前に世間を賑わせた類の詐欺ではない。
私が、実際に遭遇した、親族内で起こった詐欺の話であり、それは今なお継続中である。
私が中学生の頃だった。
「お父さん、あと5年か10年しか生きられないから」

3 初出勤

3 初出勤

2022年3月。
息子が幼稚園を卒園し、春休みに入った。
夫に子守を任せて、父の会社に出勤した。東京の自宅から片道3時間。
父の会社の最寄り駅である田舎には、タクシーさえ止まっていない。
田んぼに挟まれた農道をすり抜けて、事務所へ入ると、相変らず散らかっていた。

4 父、不在の家

4 父、不在の家

私の家は6人家族。
父、母、姉二人、私、弟。
父は私が9歳の頃、一人家を出てしまったので、それから我が家は5人家族となった。

5 フェードアウト

5 フェードアウト

父の会社に出勤しても、毎日通えるわけではない私に任される仕事などなかった。 
従業員たちは、突然現れた社長の娘にどう接するべきか戸惑っているようだった。

6 知らせは年賀状

6 知らせは年賀状

2023年元旦。父から年賀状が届いた。
交友関係が広い父は、毎年年賀状の画像や文言を工夫して作成していた。
元旦ののんびりした朝、私は心臓を射貫かれた。

7 電話ふたたび

7 電話ふたたび

2024年1月。
スーパーで買い物をしていると父から着信があった。
毎度のことながら、父からの着信は心臓が飛び出るほど驚く。
父は滅多なことでは、私には(私以外の家族にも)連絡をしてこない。

10 経営状況

10 経営状況

二十年前、私が一年間だけ父の会社で働いていた時は、明らかに自転車操業であった。
月末の支払いと入金のタイミングで、口座に現金が足りなくなることがあり、懇意にしている一社のみ、支払いを翌月5日にしていたことを知っている。
だから、きっと今でも自転車操業でなんとか黒字を出している程度だろうと高をくくっていた。