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あの日本当にタイムカプセルを埋めたのか?【1】

1993年ーオレ、札幌在住。小学6年生。

その年は、ちょうど小学校の開校100周年で、記念式典があった。

記念イベントの一環として、学校の中庭の、一番日当たりのいい場所にあるエゾヤマザクラの近くに、【タイムカプセル】を埋めるイベントがあったんだ。

【タイムカプセル】なんて名前はカッコいいが、実態は何の変哲もない大きな木箱だった。

当時1学年3クラス、1クラス30人くらいだったので、1年生から6年生まで合わせると約540人。未来の自分へメッセージや将来の夢を描いたカード、図工の時間に作った作品、自分の宝物など…全校生徒がみんな思い思いのものを用意した。タイムカプセルは、腐食しないように工夫はされていたが、こんなもので本当に10年、20年と中身が無事に保管できるのか、子供ながらにちょっと不安だった。

エゾヤマザクラからちょっと離れた場所にはすでにタイムカプセルを埋める深めの穴がすでに掘られていた。力持ちの先生たちが箱を運んで穴にセットする。そのあと、みんなで順番に箱に土をかけていくと、箱はあっという間に土に隠れていった。全部の土を戻す作業は時間がかかるので、先生たちがその日の放課後やってくれるということだった。

教室に戻り、帰りの会で、ヒデキが声をあげた。

「先生、タイムカプセルはいつ掘り起こすの?」

うちのクラスの担任、サワダ先生はすぐさまこう答える。

「開校110周年の時、掘り起こしてみようということになっているんだよ。つまり、みんなは成人して大学生か社会人になったころかな」

オレはその時【ずいぶん中途半端だな】と思った。なんだったら開校150周年とか、もっといい記念日に掘り起こせばいいのではと…しかし、教員たちが、この学校のために50年もタイムカプセルを管理するというのは大変なんだろう…だからせめて10年くらいなら…

「10年も埋めてあったら、埋めた場所を忘れてしまわないかしら?」

クラスのマドンナ的存在だった、ヒロミちゃんが心配する。

「じゃあこうしよう」

サワダ先生はみなに【提案】をした。

「埋めた場所がわかるように、みんな花の種をまこう。花の苗でもいいぞ。先生も用意するから、もしお家に余っている花の種があればもってきてくれ」

強面のサワダ先生がそんなロマンティックな提案をするなんて、一瞬驚いたが、女子たちはそんなことは気にせず、何の花がいいかすぐ相談をはじめた。男子たちはどんな花がいいかなんて皆目検討がつかない雰囲気だった。

「センセー!野菜の種でもいいですか~?」

クラスのヒョウキンNO.1のヨシオが、冗談っぽく質問したので、先生は笑って答えた。

「おお、ヨシオが食べたい野菜でもいいぞ~。もし育ったらみんなで集まって食べるか?」

みんながドッと笑った。

後日みんなで花の種をまいたり、花の苗を植えたりして【目印】をつけた。ヨシオが本当にジャガイモを植えようと持ってきたんだけど、種芋じゃなくて冷蔵庫から親の眼を盗んで持ってきたフツーのジャガイモだったな。そんなんじゃ育たないよなんてみんなで笑い転げたっけ。

その後、卒業式を迎え…中学生になり、高校生になった。

新しいコミュニティに属することで、新しい人間関係が生まれ、連絡が取れる昔からの友達は次第に少なくなっていく。まして、オレは大学進学とともに、札幌を離れ東京で暮らすようになったので、札幌時代の友達とは物理的に疎遠になってしまった。

ただ、数名だけ…本当に両手で数えられる人数だがつながっている友達はいた。腐れ縁の幼馴染、ファミコン仲間の友人、漫画を貸し借りする子、委員会で意気投合した下級生…年賀状や電話連絡などでたまに近況報告をしていた。

オレの記憶はだんだん希薄になっていく。対して目立つ子供でもなかったし、クラスの隅っこで、みんなに内緒で小説とか書いたりしていた地味な子供だったからか、クラスメイトの名前を思い出そうとしてもだんだん思い出せなくなってきた。卒業アルバムも実家において来てしまったし…いま街中で「久しぶり!」なんてクラスメイトから声をかけられても判別しようがないくらいだ。

そんな危ういオレの記憶だが、忘れたくても忘れられないのは、印象深かった2~3の事柄。運動会でいちどだけ一等をとったこと、初恋のおもいで、そして…【タイムカプセル】を埋めたこと…

あの【タイムカプセル】
いま、どうなっているのかな…

2001年ーオレは、東京で20歳になった。

大学生活はまあまあ順調で可も不可もなく…サークルに入るのは性に合わないし、恋人ができる雰囲気はない…単位は落とさず、適当にバイトをこなす日々。なかなかいいキャンパスライフを送れていると思う。あとは、時間ができると小学生時代からずっと続けている趣味…小説の執筆をしていた。

札幌に住んでいる友人から、「成人式どうした?」とか「皆で集まって飲んだ」とか近況報告が来たけれど、オレはさほど興味がなかった。誰もが嫌でも大人にならなきゃいけない日が来るんだ。めでたいことではあるんだろうけど…成人だと意識されられる式典の必要性をオレは感じない。それにオレは親に頭を下げて東京の大学に出してもらった。これから大人として生きていく”未来”を考えてのことだ。大学時代をモラトリアムだという人がいるが、オレはそうじゃない。ちゃんとした大人になると、昔誓ったんだ。

大学生のオレは、帰宅するとまず部屋の電気をつけて、お茶を飲むためのお湯を沸かす。そして、パソコンの電源を入れる。一人暮らしを始めるとき、インターネット回線の契約だけは必須だと考えていた。それはネット上に小説をアップロードし、誰かに読んでもらいたいからだった。時期的にやっとADSL回線サービスが展開し始めたころで、個人でも比較的簡単にインターネット回線契約を結べるようになってきた、面白い時代だった。オンラインで友達がどんどんできて、夜なべしてチャット大会したこともあったな。とにかく外に遊びに行くよりもインターネットにかじりついていた時間の方が長かった。

2004年ーオレ、大学卒業の年。

東京にだいぶ慣れてきた頃。
就職活動は妥協しつつなんとなく終わらせていた。特に親を心配させることもなく、人生順調に進んでいた感じ。また、すっかりインターネット中級者になっていたオレは、自分のサイトを持ち、そこに自作の小説を発表し続けていた。ちょっと注目されて物書きとして小銭を稼いでいたりもした。サイトのアクセス数としてはまあまあだったし、知る人ぞ知る存在となっていた…と思いたい。

ペンネームは【桜真実(さくらまさみ)】

中性的な名前で活動していたので、男性から妙に人気があったが、性別を断言することなく作品を発表し続けていた。

ある日、ファンから1通メールをもらった。

「桜先生、招待制のソーシャルネットワークサービス【mixi】ってのががスタートしたんですよ!先生、こういう新しそうなもの好きじゃないですか?招待する権利獲得したんで、桜先生を招待します。ぜひ登録してください!登録したらマイミクとしてよろしくお願いします!」

新しい言葉の羅列で一瞬混乱したオレ。インターネットで検索してみる。

「そ、そーしゃるねっと?えむあい…みくしぃ?まいみく?何じゃらほい?招待制のサービスなの?」

【mixi】は、ネット上でリアルの人間関係を再現したサービスで、サービスの登録者が、サイト内にいる友人知人を探し、つながり、様々なコミュニケーションを取れるサービスだった。

色々調べていくうちに面白そうなサービスだと感じたし、今後流行るんじゃないかと思った。それにコミュニティという仲間が集まる場所を作ることができるから、ファンとの交流もしやすくなるかもしれない…オレは招待メッセージにあるURLをクリックし、ユーザー登録を済ませた。

「名前は…【桜真実(さくらまさみ)】でいいか…」

登録するとあっという間にマイミク申請がたまった。それは自分のサイトに「【mixi】はじめました」とお知らせしたからだった。【mixi】は自分のスペースで不特定多数のユーザーとやり取りができるが、特定の人に【マイミク】申請をして許可してもらうことによって、”お友達認定”を受け、やれることが増えたりするシステム。マイミク申請をくれたユーザーの大半はサイトを見たファン。あとはプロフィールや日記を見てオレに興味を持ってくれたご新規さんが多い。

いろんなひととの交流が面白くて、まんまと【mixi】にはまった。オレはWEBサイトの更新もしつつ、【mixi】の【日記】の機能を利用し、このサイトでしか読めない小説なんかもたくさんアップしたし、虚構の物語のなかに、たまに本当の話…例えば学生時代の思い出話なんかを混ぜ込んで、【桜真実】という架空の人物を作り上げていく…そんな遊び方をしていた。

【mixi】にユーザー登録をしてから1か月たったころだった。

1通のメッセージが届いた。
差出人の名前は「めくる」。

『はじめまして、突然のメッセージお許しください。1月に投稿されていたSS【タイムカプセル】を読んで、不躾だとは思いますがお伺いしたいことがあり、メッセージしました…』

【タイムカプセル】とは、1993年、小学生の時の思い出を面白おかしく書いたショートショートだ。内容の大半はフィクションだが、一部は当時のことぼんやりとぼかして書いた。メッセージの続きを読む。

『あの、ご出身が札幌と書いてあったのと、発表されていた作品や日記の内容から推測しただけなのですが…

ひょっとして桜先生は
【佐倉 真人】くんではないですか?』


びっくりした。


【佐倉 真人】とは、オレの本名だったからだ。

いままで、インターネット上で素性を暴かれたことはなかった。かなり気を使って匿名性を保っていたのに…楽しい世界に浮かれて、いつのまにか本当の自分を特定されるような文章を書いてしまっていたのか?変な汗がでる。

メッセージには、まだ続きがあった。

(つづく)


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