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あの日本当にタイムカプセルを埋めたのか?【3】

最初から読む/マガジン→あの日本当にタイムカプセルを埋めたのか?

2011年―オレ、30歳。

日本が大きな悲しみに包まれた年。

オレはサラリーマンをやりながら物書きの仕事をして暮らしていた。特に不満もなく、淡々とやりたいことを可能な限りやるという生活を送っていたのだが、あの災害により、サラリーマンとして従事していた業務内容が継続できなくなり、大幅に路線変更を余儀なくされた。オレのライフスタイルに影響がでた。どうやって生きていくか、今一度考える時が来た。

そこから数年、だましだましサラリーマンの仕事をこなしつつ、できる限り貯金をして、2014年には脱サラをした。覚悟を決め物書き一本でやっていくことにしたのだ。大きな災害を目の当たりにして、非常に自己中心的な考えかもしれないが、これから何が起きるかわからないからこそ、やりたいことをやりきっておきたいと思ったんだ。

恵くん、ゴロー、ユミミ、ヒデキたちに報告をすると、「こんなタイミングで…?」と心配していたが、オレの背中を押してくれた。

2016年―オレ、35歳。

作家としてはかなり苦しい生活だったが、SNSやWEBサイトでの発信はずっと続けてきた。立ち止まったらそこで終わってしまうような気がして、オレは走り続けた。【Twitter】で常に情報発信し、面白そうな雑誌の編集部や編集プロダクションには積極的に顔を出しに行った。小さなWEBライティングの仕事も、全力でやってきた。そうするとちょっと運がめぐってきて、WEBサイト時代からオレの作品を読んできたというファンが、出版社の編集長に出世して連載のオファーをしてきたのだ。オレは喜んで引き受けた。ストックはかなりある。これでしばらくは食いつなぐことができる。

一方、プライベートでは札幌の実家に住む親の体調が芳しくないということで、急遽、1週間ほど札幌に帰省することになった。いまならパソコンやスマートフォン、通信環境さえあればどこででも仕事ができるのがありがたい。オレは仕事を抱えつつ札幌へ飛んだ。

2011年の災害がきっかけとなり、日本各地で防災対策の見直しが進められた。札幌も例外ではなく、以前に比べて災害に対する意識が強くなったように思う。

そういえば恵くんからも、「小学校の校舎が経年劣化・耐震構造の問題で工事がスタートしました」と【LINE】で連絡が来ていた。

恵くんは20代で結婚して、実家にご両親と住んでいるらしい。そのため、恵くんの子供もオレたちの小学校に通うこととなり、恵くんはパパとしてPTAの役員…しかも会長として頑張っているそう。もともと取りまとめることが好きなんだな、たぶん。その証拠に、以前【mixi】でつながったみんなと今度は【LINE】で繋がり【なかよしLINEグループ】でみんなに情報提供をしてくれている。

その【LINE】を眺めていて…オレはふと思った。

親の顔を見た後、小学校に行ってみようかな…と。

◇    ◇    ◇

実家から小学校までは30分もかからなかった。子供の頃は家から小学校までかなり遠く感じていたが、きっとオレが大人になったせいなんだろう。

通学路はきれいに舗装され、小学校の周りには古い建物はほとんどなく、新しいマンションがニョキニョキとはえている。ノスタルジーのかけらもない、見慣れない景色へ変貌を続けていた。

校舎も恵くんの言っていたとおりに工事がスタートしていた。校舎には足場が組まれ、仮の校舎が広い校庭の一部にあり、すでに仮校舎で子供たちが授業を受けているようだった。

校舎や中庭を観てみたい…オレは思った。ずっと【タイムカプセル】のことが気になっている。もしかすると現地を見ればなにか思い出せるかもしれない。しかし卒業生といっても部外者なので、そうそう校舎内や敷地内には立ち入りができない。アポイントメントをとれば入れるのだろうか…?そう思っていた時、後ろから声をかけられた。

「あれ?真人じゃねえの?」

聴き覚えのある声の方向に振り向く。
そこにいたのは【竹内 隆夫】だった。

「見たことある背中だと思った。真人は背中でわかるよな」

【竹内 隆夫】は、腐れ縁の幼馴染。幼稚園から高校までずっと顔を合わせていた友人。母親同士が仲が良かったため、家族ぐるみの付き合いだ。だが、今となってはマメに連絡を取り合う仲ではなかった。そもそも隆夫はめんどくさがりな奴で、メールを送っても返信はなく、大事なことは電話で済ませたい男だ。よって、【mixi】や【Twitter】みたいなものはやっていないし、【なかよしLINEグループ】には入っていない。ここ最近はオレが一方的に近況報告メールを送るだけだった。

「隆夫、なんでここにいんの?」
「それはこっちのセリフだよ。なに?仕事で帰ってきてんの?」
「親に用事があってさ…」
「ああ、うちのカーチャンから聴いたわ。真人の母ちゃん、調子悪いんだってな?」
「入院手続きとかいろいろあってさ。で?隆夫は何してんの?ここで」
「労働ですよ。この旧校舎の工事やってんの」
「…ということは、この工事は親父さんの会社が請け負ってるのか」

隆夫は大学に進学せず、高卒で父親の経営する建設会社に就職し、父親の右腕としてバリバリと働いている。

「そ。俺は現場監督。自分の母校を建て替えするなんて、変なめぐりあわせだよな」
「建て替えちゃうんだね」
「耐震工事だけで済むかと思ったけど、相当古いからなぁ。あれこれ検査して部分的になおすくらいなら建て替えた方が安く済みそうなのよ」

隆夫はそういうと、腕時計に目をやった。

「俺、これから昼休みだから、立ち話もなんだし…裏にあるケータ母ちゃんの店いかね?」
「あそこまだあるの?!」
「ケータの母ちゃん、相変わらず店を回してるんだぜ。かなり年期入ってるけど現役だよ。ここの現場始まってから、ずっと通ってるんだ」

【ケータ母ちゃんの店】とは、オレたちのクラスメイト【高橋 圭太】の両親が経営している喫茶店のことで、小学校の真裏にある。小学・中学の頃、みんなでこの店に寄り道するのがお約束だった。

喫茶店のドアを開ける。カランコロンとドアにつけてあるベルが鳴る。この音、昔と変わっていない。

「いらっしゃいませ~!あら、隆夫ちゃん。今日も来てくれたの。いつもありがとね~」
「現場の近くにこの店があるから助かってますよ」
「あら~うれしいわぁ。うちの圭太も隆夫ちゃんくらい頻繁に顔見せに来てくれたらいいのにねぇ」
「今度帰ってきたらよろしく伝えてよ」

隆夫はすっかり常連となっているようだった。ケータ母ちゃんの甲高い声が響く。この声も昔と変わっていない。

「今日は、懐かしい奴を連れてきたんだよ。ケータ母ちゃん覚えてるかな?これ、この店によく一緒に来ていた真人」

隆夫はオレの肩に手をかけてずずいとオレの身体を前に押し出した。

「お久しぶりです。佐倉真人です。小中の時はお世話になりました」
「まこと…?あ!まこっちゃん!まこっちゃんね?あららら、昔はあんなにちっちゃかったのにすっかりすらっとイケメンになっちゃったわね!」

ケータ母ちゃんが大げさなくらいほめてくれるので悪い気はしない。挨拶もそこそこにオレたちは窓際の席に座る。

「まだナポリタンあるんだ」
「昔と全然味変わらなくて感動するぞ。食うか?」
「食べる」
「すんません!ナポリタン2つくださーい」
「はーい。すぐ作るからね~」

ケータ母ちゃんが元気にキッチンでナポリタンを作り始めた。オレの親よりも年上だったように記憶しているのだが、すごく元気。やはりずっとお店に出続けているからなんだろうか。若々しい。今朝会ってきた自分たちの弱弱しい両親たちとは大違いだ。

隆夫がお冷を一口飲み、静かに言った。

「すっかり変ったろ、この辺」
「ほとんどマンションになったな。畑だったところも駐車場になってたし」
「変わらないのは、パン工場と公園とかくらいだな。この辺に住んでいる卒業生ももうあんまりいないだろ。学区内に住み続けているのめくるぐらいじゃねえの?このまえ土曜にこの店来たら、たまたまめくるがいたよ」

隆夫から【めくる】…つまり恵くんの名前が出たのでびっくりした。

「会ったんだ?恵くんと」
「おう。子供つれて、チョコレートパフェ食わせてた。世間話をちょこちょこっとして…あ、真人のことも言ってたぞ」
「オレのこと?」
「東京で小説家としてずっと頑張ってるからすごい、尊敬してるって。あいつ、昔から真人の作品のファンなんだってよ」

恵くんからそんな風に思われていたとは…オレはちょっと照れてしまう。隆夫はそんなオレに気づかず続けた。

「あと、”あれ”を探してるって言ってたぞ」
「あれ?」
「記念行事で埋めた【タイムカプセル】。めくるが言うには、真人が探してるから、絶対見つけ出したいって」

恵くん、まだ気にかけてくれてたんだ…
そう言えば、隆夫とは【タイムカプセル】の話をしたことなかったな。オレは軽い気持ちで問いかけた。

「隆夫は開校記念に埋めた【タイムカプセル】覚えてる?」
「ああ、中庭に埋めたな」

隆夫がはっきり言いきったので、オレは驚いた。

「え!覚えてるんだ?」
「事前にエゾヤマザクラの近くに掘った穴があっただろ?放課後何人かであの穴に入って遊んでふざけてたら、職員室の窓からたまたまサワダが見てたらしくて…すごい剣幕で怒ってさ…ってあれ?これ穴の記憶か…でも確かに埋めたよ。土もかけた記憶あるし…」
「サワダ先生に怒られた?その遊び記憶にない…オレ、一緒にいた?」
「真人は用事があるってその日は先に帰ったんじゃなかったかな」

やはり、【タイムカプセル】は埋めた。しかしどこへ?オレの記憶と隆夫の記憶をすり合わせれば、【タイムカプセル】のありかが分かるかもしれない…

そこへアツアツのナポリタンが運ばれてきた。いったん話を中断して、ナポリタンを味わう…子供のころと同じ見た目!同じ匂い!同じ味!オレは感動を覚えた。変わらないものがここにまだあった。そんな嬉しさがあった。

「うまい~!これこれ、この味だ。懐かしい~」
「だよな~。色々思い出すぜ。真人と食ってると特に…」

ナポリタンを食べながら、隆夫と話をしながらいろんなことを思い出した。授業のこと、放課後のこと、当時の流行、友達の顔、先生のこと…だが、ふと…違和感を感じた。

思い出の時系列の中で、ひとつふたつ…あるべきピースがかけているような…何か大切なことを忘れている気がした。忘れているのは何かの出来事なのか誰かのことなのか、違和感の正体は掴めない…でも…何か…何か…胸につかえるものが…

「どうした?」

あまりにもオレが怖い顔つきをしていたのか、隆夫が心配して声をかけた。

「あ、いや…思い出せそうで思い出せないことがあって」
「【タイムカプセル】のこと?」
「それもあるけど」
「なんでそんなに気になるわけ?中に大事なもの入れた?」

隆夫は食後のコーヒーを飲みながら、俺に訊く。

「【タイムカプセル】の中身は未来の自分へのメッセージを書いて入れたんじゃなかったかな…と思うんだけど…書いた記憶も入れたかどうかもあいまいで…」
「あ~!確かにそんなの書かされたなぁ。それを確認したいのかよ?観たって、こっぱずかしくなるだけじゃないのかぁ?俺たぶん、Jリーガーになるとか書いたぞ。恥ずかしい」
「隆夫、いいとこまでいってたじゃん、サッカー」
「いやいや、高校に行くとな、上には上がいるんだよ。俺なんか全然だめだよ。それがあったからスッパリあきらめて就職したんだし」

隆夫は時計を見た。

「おっと、そろそろ現場に戻んねーと」

隆夫は伝票をさっと取った。

「ケータ母ちゃん、お勘定お願いします。あと領収書ちょうだい」
「はいはい。いつもありがとね~」
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「まこっちゃん、いま東京に住んでるんでしょ?いつまで札幌にいるの?」
「たぶん1週間くらいです」
「じゃあその間にまたいらっしゃいよ。お母さんにもよろしく伝えてね」
「はい。ありがとうございます」

お会計を終え、店を出る。

「真人、ここからどうすんの?家帰るの?」
「本当は学校の中とか、中庭とか見たかったんだけどさ…」
「ああ…そういうこと?ちょっと工事時間帯は無理だけど、夜なら何とか…」

どうやら、工事をやっている時間帯は安全面からむやみやたらに一般人を入らせることは無理だが、夜ならば”こっそり”…という提案らしかった。

「ちょっとまたあとで連絡するわ。必ず電話するから」
「よろしく。オレ、この辺ふらっとみて実家に戻るよ」

隆夫と別れ、オレは学校の裏手から遠回りして実家に戻ってみることにした。

懐かしい通学路、きつい坂道。この道はマラソン大会のコースでもあった。楽しい思い出はたくさんあったはずなんだけど思い出せるのはほんの少しだ。

坂道沿いには酒屋や小さな個人商店があったはずだがもうなくなっていてアパートやマンションになっていた。ちょっと寂しい。そして坂道を下ったところに大きめの公園があって、その脇に古い小さな駄菓子屋がある。ここも小学生の寄り道コース。駄菓子屋はもうつぶれてるのでは…と思ってたけど、店はやっていた。子供たちが店先にたむろしている。

駄菓子屋ではお菓子はもちろんだけど、おもちゃも結構買ったな。カプセルトイ…昔はガチャと言ってたけど、よく回してた。光と音が鳴る小さな光線銃が当たるって書いてあったから100円入れてハンドル回したのに、出てきたのはミニ四駆用のモーターだったってこともある。2回まわしたけどお目当ての商品がでないってこと、ざらにあった。そうやって”世の中の汚さやずるさ”を知って大人になっていくのだ、子供は。

そういや、子供の頃に買ったおもちゃはどこにやったんだろう?捨てられてしまったのか?いつの間にか失くしてしまったのか?もう思い出せない。大事なものだったはずなのに。

色々なことを思い出しながら、通学路をゆっくり歩いていく。

子供のころから稼働しているパン工場の煙突が、白い煙を吐き出していた。

変わらないもの、変わるもの
昔はあったもの、今はないもの
子供の頃の自分の幻影と、大人になった自分…

胸に何か、引っ掛かるものがある。ノスタルジーによる錯覚か思ったけど、そうじゃない。やはり、なにか忘れているような気がする。

とっても大事な何か…

◇    ◇    ◇

夜10時。
隆夫から電話がかかってきた。

「おい、今から小学校行くぞ。外出てこい。家の前にいるから」

慌てて支度をして玄関を出ると、隆夫が車で待っていた。オレは助手席に乗り込む。シートベルトを装着すると、車は静かに走り始めた。

「めくりにさぁ、夜中に真人と小学校探検しに行くんだけど来る?って電話してみたんだよね」
「え?恵くんと連絡できんの?隆夫が連絡先交換してるなんて、意外」
「あいつが一方的に教えてくれたんだよ。クラスメイト全員とつながりたいんだと。あと、めくるは真人に会いたいってずーっと言ってたからさ…教えておかないと恨まれそうで」

隆夫はそう言って笑った。

「あとみんなにも連絡してみるって言ってた」
「みんな?」
「LINEグループがなんとかって言ってたぞ。騒ぐと通報されるから大人数じゃなきゃいいんだけど…」
「そのグループはオレと恵くん、ゴローにユミミ、あと2学年下のヒデキってやつの5人だけだよ。でもみんなそれぞれ家庭があるし、こんな夜中にいきなり言われても来れないんじゃないの」
「俺たち独身は優雅なもんだな~」
「隆夫とちがって、オレ、好きで独身なわけじゃないんだけど…」
「真人って早々に結婚しそうだったのに。ロマンチストだから婚期逃しまくってるよなぁ」
「余計なお世話だよ」

隆夫は、車を小学校裏の駐車場に止め、トランクから懐中電灯を取り出し、オレに手渡す。

「中庭見たいなら、一応持っていって。明かりないから」
「サンキュー」

正面玄関のほうに回ると、恵くんがオレたちの姿を見つけ、笑顔で手をふった。

「真人くん!隆夫くん!こっちこっち!」
「めくる、声がでかい。静かにしろ。通報されるから」

隆夫が恵くんを諭す。恵くんは声のトーンを落として続けた。

「真人くん!ずっと会いたかったよ~!札幌に滞在してるんだってね」
「1週間ほど実家にいるんだ。連絡してなくてごめんね」
「そっかそっか~。ヒデキくんと二人で、真人くんにずっと会いたいっていっててさ~。LINEみて、仕事終わらせてすっ飛んできたんだよ。ね!」

恵くんの後ろには、すらっとした長身の男・ヒデキがいた。

「お久しぶりです。真人さん」
「ヒデキ!久しぶりだなぁ?こんなに背でかかったっけ?逞しくなったな…昔は本ばっかり読んでひょろひょろしてたのにな」
「なんか無駄にでかくなっちゃって…」

懐かしさがこみあげて、会話がはずむ…しかし隆夫が割って入った。

「おいおい、再会の挨拶はあとからゆっくりできるから…とりあえず目立つとやばいんだし、とっとと中庭見に行こうぜ」
「ごめんごめん。いこう」

オレたちは中庭に移動した。全く明かりがないので、隆夫から借りた懐中電灯で足元を照らす。少し進んでいくと、ぼわっと大きな影が見えた。中庭のちょうど真ん中くらいにある、エゾヤマザクラだ。一瞬強い風がびゅっと吹いて、枝がゆれた。葉がこすれてカサカサ音を立てている。

「この周りのどこかに埋めたんだよなぁ…」

オレは足元をじっと見てみるが、暗くてよくわからない。

「目印になるようにみんなで花の種とかいろいろ植えよう!ってサワダ先生とみんなで花壇作ったはずなのに、それっぽいの全然残ってないんだよね」

恵くんは、子供が小学校に通っていることとPTA役員になったことにかこつけて、定期的に中庭を探索しているらしいのだが、それっぽい場所は見つからないという。

「サワダのパフォーマンスだったんじゃないの?あいつ理想だけは立派だったからな」

隆夫が苦々しく言う。

「隆夫、【タイムカプセル】用の穴に入って遊んでサワダ先生に怒られたって言ってたじゃない?あれどの辺か覚えてないの?」
「とりあえず最初、サワダが職員室の窓からこっちを見てて…2階だったよな?たしか。あそこが職員室だったはずだから…」

皆は隆夫が指さす校舎の窓を見上げた。オレはなんとなくの位置を推測する。

「あの角度から、穴の中まで見えるところだろ…あまり離れると中が見えなくなると思うから、校舎寄りかな…」

オレがうろうろしながら考えていると、恵くんがぱっと思いついたように言った。

「ぼく、明後日平日仕事休みだから、日中職員室に入らせてもらえないか、ちょっと確認してみますよ!」
「さすが現役のPTA役員!」
「めくるさん、【タイムカプセル】の式典を担当していた先生方って、あいかわらず全然連絡とれないんですか?」

ヒデキが恵くんに尋ねる。

「各学年の担任から1人ずつ選ばれたんだよね。だから6人いるんだけど…2人はもう亡くなってるってことだった。連絡とれたのは2人、連絡とれないのも2人。連絡とれた先生方に訊いたら、主導権握ってたのはサワダ先生らしくて、全然覚えてなかったんだよね」
「サワダはなんで連絡とれねえの?」

隆夫がぶっきらぼうに聞く。

「サワダ先生、僕が高校生くらいの時まで年賀状くれてたんだけど、そのあと離婚しちゃったらしくてさ…離婚した後、連絡付かなくなっちゃったんだ。失礼を承知で元奥さんにも聞いたんだけど、連絡先知らないって…」
「なんかサワダっぽいな」

隆夫はあきれたように吐き捨てて、話をつづけた。

「許可もらえるならユンボで掘ってみてもいいんだけどさ…今回の工事、中庭はいじらないから無理だろうな…そういや【タイムカプセル】ってどんな形?金属?プラスチック?オレ、埋めたことは覚えてるんだけど、形がわからないんだよな」
「え?木の箱だったじゃん」
「そうだっけ?」

オレがそう言うと、恵くんが続けた。

「そうそう…確か…木の箱みたいなのをサワダ先生と何人かの先生が持って穴に入れた記憶ある」

恵くんの言葉にヒデキは納得いかない様子だった。

「え?ポリバケツでしたよ?」
「ポリバケツ?あの水色のやつ?」

ヒデキの証言に僕はびっくりする。

「僕、記念式典の時のことすごく覚えてるんですよ…【タイムカプセル】はこれです!って言って、布をはずしたらポリバケツを2個底面で向かい合わせにしてテープでくっつけたものが出てきたんだ。僕、ずっこけちゃって…」
「うそ…そんな発表会覚えてないなぁ…みんなは覚えてる?」
「そういわれてみれば、作った記念誌の中で、小学校の思い出写真を集めたページを作ったんですけど、式典っぽい写真あった…これなんなんだろうと思って掲載しなかったけど…あれが【タイムカプセル】だったのかもしれない。あとで写真データ探してみる」
「え…なんでオレ、木の箱だと思ってたんだろう?」
「いやでも、確かに先生が運んでたのは木の箱でしたよ?」
「木の箱の中にポリバケツが入っていて、その中にメッセージを入れていたのかな?」

4人の記憶が合致するところとそうでないところがあることが不可解だった。そして、隆夫が【タイムカプセル】の素材について疑問を持った。

「そもそも…建設やってる俺から言わせてもらうとさ…ポリバケツでも木の箱でもちゃんと密閉処理なり腐食防止をしておかなきゃ10年も20年も地中に埋めておくのは現実的じゃないぜ。器がダメになったり中身が腐る可能性がある。まして札幌は雪が積もって溶けるんだしさ。せめて金属の箱とかじゃなけりゃ」
「そういわれてみればそうだよねぇ」

隆夫の話を聞いて、オレの疑問が再燃した。

「やっぱり…【タイムカプセル】は埋めてなかったんじゃないのか?」

恵くんが不思議な顔をする。

「どういうこと?だって、ここにいるみんなは少なくとも何らかの【タイムカプセル】を埋めて、土をかけたり、土をかけるところをみているのに…」

「いや…オレたちは、【タイムカプセル】が本当に埋められたかどうかまでは確認していないじゃないか。土を最後までかぶせるのは先生方がやるといっていたから。やっぱり…公務員で異動あり・定年制の先生方が、10年も20年もタイムカプセルがどこに埋まっているかを管理しておくなんてありえない。引継ぎもできるだろうが現実的ではないよ。また、隆夫の言うとおり、長期間埋めておくのであればもっとまともな容器でなければ耐えられない…とすると…」

オレの推理をじっと聞いていた隆夫が口を開く。

「埋めたふりをして、本当は埋めていない可能性もある、ってことだな?」

「そう。例えば…【タイムカプセル】は別なところに保管してあって…土に埋めたダミーのカプセルは放課後取り出して処分、穴を元通りに埋めただけ…ってことも…」

「あ!」とヒデキが声を上げた。

「どうかした?」
「あの、僕、小学4年から6年までずっと図書委員だったんですけど、図書館のカウンターのうしろに、司書室兼倉庫があったの覚えてます?僕が小学6年生の時、そこに学校内のいろいろな資料を集めまして、先生方と有志の生徒が集まって、ラベリングしたり、処分したりしたんですよ…かなり古い書類もあったんで、もしかしたらそこにいろいろ残ってるかもしれません!」

4人は顔を見合わせた。

「とりあえず、今日はもう夜も遅いし…解散しない?んで、また明後日、小学校に集まらねえか?もし、めくるが学校と交渉して校舎内に入っていいってなったら、色々調べられるかもしれないし」

隆夫の提案に、みな賛成だった。

「ドキドキしてきたね」
「僕も、ワクワクしてきました!」

恵くん、ヒデキはとてもうれしそうだ。

「【タイムカプセル】なんて今更開けてもがっかりするだけだと思ってたけど、俺も、ちょっと気になってきた」

クールな隆夫もちょっとだけ乗り気になる。

オレも、正直ドキドキしていた。

ずっと気になっていた【タイムカプセル】の行方が分かるかもしれない。

いや、それ以上に、昔の仲間と何か一つのことをやろうとすることが今のオレにはとても刺激的で、楽しいから、こんなに胸が弾んでいるのかもしれなかった。

出て来い、【タイムカプセル】

(つづく)


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