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草津町で何があったのか、事実関係を整理する

草津って言うとフェミガーって言う
こだまでしょうか? いいえ、ミソオタ

 すっかり冷静さを失った皆さんこんにちは。新橋九段です。群馬県草津町における元町議の性暴力被害の告発と、それに伴う議会や町全体を巻き込んだあれこれは未だに延焼を続けている。ネットではすっかりまともな議論は不可能となり、事実関係を指摘するだけで大量に誹謗中傷されてしまう恐ろしい状況である。彼らは草津町を誹謗中傷するなと私に言うが、そういう彼らが二言目にはやれ病院に行けだの頭がおかしいだのと言ってくる状態だ。

 あまりにもキリがないので、議論の前提として、ここで改めて草津町で何があったのか、事実関係だけを抜き出して整理する。なお、草津町議会などの対応についての批判は別の記事でするつもりだが、結論だけ先取りすれば、草津町の行為は現在から見てもなお問題の多いものであったと評価しているし、セカンドレイプと呼ぶかどうかは全く本質的な論点ではない。

 記事は、事実関係を整理した部分は無料となっている。少し有料部分を作ったのは手間賃くらい払ってくれという思いからだ。本当に手間がかかったが、草津の件で騒いでる人々のうちここまでの事実関係を正確に把握している人間は皆無と断じて構わないだろう。


草津町騒動の時系列

※登場人物の肩書は時期によって異なるが、議論を分かりやすくするため、告発した者を元町議、告発されたものを町長と統一して呼称する。なお、特に記載がない限り町は草津町を、県は群馬県をそれぞれ示す。

2019年

11月 元町議が電子書籍で性被害を告発。被害自体は2015年のものと主張
12月2日 元町議が町長への不信任決議案を提出。「町長として欠格がある」として。否決。
同日 町議会が元町議を懲罰動議で議会除名処分。「破廉恥で、議会の信用を失墜させた」として。賛成10、反対1(定数12)。
同日 町長が元町議と電子書籍の著者を名誉毀損で刑事告訴(翌日受理)
12月6日 元町議に同調して町長への不信任決議案を提出した男性町議に懲罰動議。「無礼の言葉を使用し、または他人の私生活にわたる言論をしてはならない」と定めた地方自治法132条に反するとして。「公開の議場における陳謝」を全会一致で可決。
12月9日 元町議が処分取り消しを求める審決を県へ申し立て。
12月16日 町長が名誉を傷つけられたとして元町議らを提訴。

2020年

2月7日 7日付で県が除名処分を一時停止。
3月2日 元町議へ再び懲罰動議。町議9名が連名で提出。辞職勧告案も可決。
8月6日 県が元町議の失職処分取り消し。懲戒事由に当たらないとして。
8月11日 議長と町議9名が元町議の解職請求運動を始める。
9月1日 特別委員会で元町議の議員資格の審査が始まる。居住実態がないとして。
9月7日 町議会が元町議に懲罰動議。定例会欠席中に街を歩いたり活動を行い議会軽視であるとして。
9月15日 リコール運動の署名集めが始まる。
9月24日 元町議がリコール運動を理不尽だと会見。
9月27日 解職請求の署名が必要数に達したと町議会議長が明らかに。
10月1日 リコール署名提出。
10月29日 草津町が「虚偽の転居届を出した」として元町議を告発。
11月16日 元町議の解職請求の住民投票が告示。
11月19日 町議会がリコールに反対する町議へ懲罰動議。町議が住民投票を求める署名簿を閲覧し、折り込みチラシの中で署名した人を類推できる情報を公表した行為について「民主主義の根底が揺らぐ」として。辞職勧告を可決。
11月21日 前橋地裁が元町議の議員報酬の仮差押え。民事訴訟に関連して。
12月6日 元町議の解職請求の住民投票が投開票。リコールが成立。
12月14日 町長が日本外国特派員協会で会見。疑いを否定。
12月25日 町選管がリコールの無効を求めた元町議の申し立てを棄却。

2021年

1月7日 元町議が県選管にリコールの無効を申し立て。
1月25日 県選管がリコールの無効を求めた元町議の申し立てを棄却。
2月24日 元町議が県選管の申し立て棄却の取り消しを求め東京高裁に提訴。
3月10日 町議会の審査会が、リコールに反対した町議のSNS上での発言を倫理条約に反すると報告し警告。
6月9日 東京高裁が元町議の請求を棄却。
6月22日 元町議が最高裁に上告。
11月19日 最高裁が元町議の上告を棄却。
12月13日 元町議が町長をわいせつ容疑で刑事告訴。
12月20日 町長が虚偽告訴の容疑で元町議を刑事告訴。16日付で。
12月24日 前橋地検が町長を嫌疑不十分で不起訴処分。

2022年

1月25日 草津町が元町議を支援した町議らを名誉を傷つけたとして損害賠償請求。
10月31日 元町議を名誉毀損で在宅起訴。
11月15日 元町議らに損害賠償を求めた裁判の口頭弁論で、元町議の代理人が被害の訴えの一部が虚偽だったと認める。

2023年

1月23日 電子書籍の著者が名誉毀損罪で有罪判決。

2024年

4月20日 元町議らに損害賠償命令。

元町議の証言は嘘だとわかりきったものだったのか?

 元町議の被害の証言は、当初から強い疑いに晒されていた。草津町の対応を擁護する者の多くは、こうした疑いをもってあたかも対応に正当性があったかのように主張する。

 しかし、結論から言えば、元町議の訴えの真偽ははっきりとわかるものではなかった。当時、その証言が虚偽であると断じることは、少なくとも外部の人間には不可能だったと言える。

 元町議の証言が疑われた理由はいくつかあるが、それらはいずれも、証言が虚偽だと断定するに足るものではなかった。例えば、被害からしばらく経ってからの告発だったという点は、性暴力被害にありきたりな現象に過ぎない。

 町議会で性暴力被害についての説明を拒んだという点も、その性質を考えれば当然である。ましてや、時系列で示したように、告発からわずか一か月で告発者への懲罰動議があっさり可決するくらいには、自身への疑いが強い場では猶更であろう。このこと単独では、やはり証言が虚偽だと断じることはできない。

 被害があったとされた町長室は人目につくため加害は不可能だとする主張も同様である。性暴力被害はしばしば、素人が「こんなところではありえないだろう」と思う場所で起こる。災害後に避難所で発生する性暴力の類は、大勢が雑魚寝している体育館で起こることがある。また、我々が典型的なケースとみなしがちな満員電車での痴漢も、状況を冷静に振り返れば衆人環視の中で性暴力が行われていることになる。

 元町議の様子がおかしいという誹謗中傷も当時よく目にした。しかし、様子がおかしいかどうかはその人の一方的な印象にすぎず、何の根拠にもならない。加害者と被害者の年齢も同様で、年配の者が加害者になることも被害者になることも往々にしてあることにすぎない。

 こうして挙げれば、客観的な視点からは、元町議の主張を虚偽だと断じる証拠は当時なかった。公平を期すために付言すれば、真実だと断じる証拠も元町議の証言以外なかったともいえる。

フェミニストとメディアの実相

町長が加害者だと決めつけたのか?

 町長は2024年に、産経新聞の取材に答えて以下のように述べている。

──リコールを巡って草津町はバッシングを受けた

「インターネット上で『草津町民は黒岩と一緒になって新井さんをセカンドレイプしている』といった書き込みもあった。被害者を名乗る女性の主張ばかりが世間で採用され、私の主張は何も通じなかった。特にフェミニストたちの主張は私や草津町を一方的に加害者扱いするものだった」

「草津町に来て謝るべきでは」虚偽認定された性交渉証言に苦しんだ黒岩信忠町長の怒り㊤-産経新聞

 このように、当時、フェミニストが町長を、あたかも性暴力の加害者であると決めつけたかのように主張する風説は今も流布している。

 当時、ネットでは様々な人々が発言をしており、言葉の勢いのままにそうした態度をとった人は皆無ではなかっただろう。一方、それが草津町を批判したフェミニストの主流の考え方だったという証拠もない。

 むしろ証拠からは、フェミニストの批判の中心は告発者への対応の問題であったことが伺える。

 例えば、朝日新聞は2020年12月5日に、リコール投票に対して行われたフラワーデモについて、以下のように報じている。

 性暴力や性差別の根絶を訴える市民グループ「フラワーデモ群馬」は5日午後4時から、草津温泉の湯畑周辺で「フラワーデモ」を行う。主宰する田嶋みづきさんは「議会での新井氏に対する発言は侮辱であり性差別。セクハラの真偽はわからないとはいえ、議会や町長が率先してリコール運動を行うことはおかしい」と話す。

草津町議リコール、あす投票 期日前投票、有権者の3割 /群馬県-朝日新聞(群馬全県)

 また、リコール成立後の同年12月11日にも、デモについて以下のように報じている。

 フラワーデモ事務局は「性被害を訴え、真偽が明らかになっていない段階なのに、権力側主導のリコールで新井さんが町議の立場を奪われたことに抗議の意思を示したい」としている。

フラワーデモでリコールに抗議 きょう、草津温泉湯畑 /群馬県-朝日新聞(群馬全県)

 いずれも、真偽が不明であるという前提に立ったうえでの批判となっている。ここから、少なくともフラワーデモの主宰者側は、抗議の主要な論点を訴えの真偽のわからないうちからリコールを行う町議会の対応に定めていたことがわかる。

 また、私に対して懇切丁寧に、草津町に誹謗中傷が行われた根拠だとして当時の著名なフェミニズム活動家などの発言のスクリーンショットやフラワーデモでの写真を送り付けてきたものがあった。だがそれらも、以下に示す通り、内容の主眼は告発者への対応の問題であり、町長を加害者であると決めつけている発言は見られない。

 (もちろん、これらの発言がフェミニストの行ったもののすべてではないだろう。だが、わざわざ「フェミニストの悪行の証拠」として選ばれた発言がこれらだったことを考えれば、これ以上に「悪行の証拠」としてふさわしい、例えば直に町長を罵倒するような発言は極めて少なかったと評価しても構わないだろう。もしそういう発言が頻繁になされているならば、証拠としてはそちらが選ばれるはずだ)

日本のマスコミはどう報じたか

 メディアは草津町の件をどう報じただろうか。ワイドショーのような類の報道内容をいまから検証するのは困難極まるので、全国3紙の報道状況をとりあえず振り返る。

 朝日、毎日、読売の報道を検討したが、いずれの傾向も同様のものだった。多くの記事は群馬県の地方版で掲載されており、最初に報道されたのは町議会での懲罰動議と議会除名処分であった。報道は常に、双方の主張と出来事を良くも悪くも両論併記で伝えるものであり、論評の類はごくわずかで読売には皆無だった。

 論評についても、朝日と毎日が数本、識者に論じさせる程度のものであり、内容はリコール運動を町議や町長が主導するという方法の問題を批判することに終始していた。報道はいずれも、町長を加害者扱いするものではなかった。

 そして重要なのは、元町議の民事訴訟での敗訴や訴えが虚偽だったと認めたことも、各紙は問題当初と同程度の熱量で伝えていたことである。報道は一貫して、双方の主張や出来事を右から左へ流す程度のものであり、そういう意味では取材や報道が十分だったのかという批判は成り立つ。が、少なくとも虚偽が明らかになってから報じなくなっていったわけではない。最初から熱量が低かったのである。

海外メディアはどう報じたか

──新井氏の主張は海外メディアも報じる事態になった

「米紙の主要紙は『日本に日常的に性暴力を働く政治家がいる。日本は女性の性被害で後進国だ』という記事を出し、英国の主要紙も『日本の地方や国の政治における男性支配を浮き彫りにした』などと報じた。フランスの記者からも取材を受けた。台湾ではこの事件が大学の教材になっていると聞く。ドイツの知り合いも事件を知っていた。草津町の汚名が世界に伝播された」

「世の中はひどい…言われっぱなしだ」性交渉証言に苦しんだ黒岩信忠草津町長の怒り㊦-産経新聞

 町長は産経のインタビューに対し、このように発言している。町長のいうところの主要紙が具体的に何を指しているのかは不明だが、ニューヨークタイムズなど著名なところを確認する限りでは、日本のメディア同様、海外のメディアも告発者への対応の問題を報じることに終始しており、町長を加害者だと断じてはいない。

 また、フランス24インディペンデントBBCはいずれも、疑惑については町長の主張も併記しており両論併記的だった。記事の主眼はいずれも告発者への対応の問題である。

フェミニストは謝罪しなかったのか?

 町を批判したフェミニストが謝罪をしていないという風説も多い。しかし、フェミニストが謝罪をしていないという認識は事実に反する。

 例えば、Spring!は草津町でのフラワーデモについて、虚偽の訴えを行った元町議に連帯したことと「セカンドレイプの町」という表現が行き過ぎだったとして謝罪をしている。また、北村紗衣氏は当時、草津町の状況ををイプセンの『民衆の敵』になぞらえたことを謝罪している。

 ただ、時系列を見れば明らかなように、被害の訴えの真偽が分からぬうちから告発者を除名するなどの問題があったことは事実であり、それに対する批判は謝罪に値するものではないだろう。

草津温泉のイメージは悪くなったのか?

──草津町の名誉が傷つけられた具体的なデータはあるのか

「ネットで草津温泉には行かないというキャンペーンが展開された。専門業者を通じてネット上のネガティブワードを調べたところ、令和4年1月20日時点で草津町について『セカンドレイプの町』が35万件。『草津温泉に行かない』は69万4000件だった」

「草津町に来て謝るべきでは」虚偽認定された性交渉証言に苦しんだ黒岩信忠町長の怒り㊤-産経新聞

 町長は産経のインタビューに対し、草津町にネガティブなイメージがついたと発言している。確かに、騒動が街のイメージに与えた影響は皆無ではなかろう。だが、データからは、そうしたイメージの悪化は限定的であることも伺える。

 朝日新聞は2024年3月に、草津温泉の観光客が過去最多のペースで増加していると報じた。問題のあった時期は新型コロナの蔓延と重なっており、問題だけの影響を取り出して考える事は難しい。だが、少なくとも現在に至るまでの影響はない事は確かなようだ。

 草津町の問題は海外でも報じられたとはいえ、草津町特有の問題というより日本一般の問題の一部という見方が主流で、報道量も限定的であった。また、日本の観光客は性暴力問題"程度"で観光を止めるほど殊勝ではないだろう(そこまで人権意識が高いならフラワーデモなど必要あるまい)。この結果はある意味、驚くべきものではない。

 そもそも、仮にイメージの悪化があったとしても、それはあくまで町議会自身の振る舞いに端を発したものであったことは指摘しなければならない。国内外のメディアをみる限り、町長を性暴力の加害者だと決めつけた報道は見当たらない。抗議の主眼も対応の問題だった。町長は、草津町が「セカンドレイプの町」と呼ばれたことに不満を漏らすが、「レイプの町」とは呼ばれていなかったことは忘れてはならない。

現実の草津問題を論じるべき

 ここからは有料部分を作るためのパートで、結論は見出しで出ている。

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